アジア映画巡礼

アジア映画にのめり込んでン十年、まだまだ熱くアジア映画を語ります

すさまじい映画だった『I(アイ)』

2015-03-13 | インド映画

毎日、タミル語映画2本というノルマを自分に課して(笑)、チェンナイをうろついています。私はタミル語はほんの少ししかわからないので、かえって映画の出来不出来がよく判断できることがあります。セリフがわからなくても引き込まれて見てしまう映画は◎、途中でだれて退屈する映画は×、というわけです。昨日見た『I(アイ)』は、3時間以上の上映時間にもかからわず、全然だれないどころか、ものすごく集中して見てしまいました。


主演は、『神さまがくれた娘』(2011)で名演技を見せてくれたヴィクラム。またまた、スター・イメージを壊すものすごい演技を見せてくれます。監督は、『ロボット』(2010)や『ボス その男シヴァージ』(2007)で日本でも知られているシャンカル。毎回どの作品も力業で見せてくれる監督ですが、『きっと、うまくいく』(2009)のタミル語版リメイク『Nanban(友だち)』(2012)のあとがこの怪作とは。守備範囲の広い監督ですねー。

Theatrical poster

物語は、チェンナイの下町に住むリンゲーサン(ヴィクラム)の日常から始まります。スポーツジムを経営するリンゲーサンの憧れの人は、美人CMタレントのディヤー(エイミー・ジャクソン)。彼女の顔が出ているものなら、雑誌はもちろん、パッケージに彼女が写っているブラジャーやネグリジェまで買い占める始末。親友のバーブー(サンダーナム)にもあきれられますが、リンゲーサンはボディビルダー大会で1位を獲って「ミスター・タミルナードゥ」になったあと、CFに出演するようになり、バーブーの手引きで憧れのディヤーにも会うことができました。


ディヤーはずっとジョン(ウペーン・パテール)とカップルを組んで様々なCFに出ていましたが、ジョンはあからさまに肉体関係を迫るようになり、それを断ると彼女との仕事を忌避するようになります。ディヤーはリンゲーサンと出会い、彼をあらたな相手役にと考え、トランスジェンダーのスタイリスト、オズマ・ジャスミン(オージャス・ラジュニー/本人そのままの役柄で出ているようです)に頼んで、彼を変身させてもらいます。ダサい下町の兄ちゃんから、スタイリッシュなモデルへ。やがて2人は個人的にも愛し合うカップルとなっていき、結婚式が目前となりました。


ところが、その成功をうらんだジョン、自分の思うとおりにならないリンゲーサンにいらだつ大物スポンサーらは、ボディービル時代の宿敵を雇ってリンゲーサンをたたきのめします。そして、何かを注射されたリンゲーサンは、やがて髪の毛が抜け、体中に奇妙なこぶができ、背もまがってきてしまいます。以前の自分とは似ても似つかぬ体になったリンゲーサンは身を隠しますが、ディヤーが結婚すると聞いてその会場から彼女を拉致、古い館に幽閉し、自分をこんな姿にした人々への復讐を開始して行きます...。


上の写真が、ウィルス”I”に感染させられて醜い姿となったリンゲーサンです。このブログでは無断拝借映像はポスターとWikiのものに限っていたのですが、『I』の場合は主人公の変化をお見せしたいために、スチールを引用させてもらいました。ヴィクラムの特殊メイク、相当に手が込んでいます。なぜかヒンディー語版なのですが、予告編を付けておきますのでご覧下さい。

Official : 'I' Theatrical Trailer in Hindi | Aascar Films | Shankar, Chiyaan Vikram, Amy Jackson

途中中国ロケ(桂林の漓江という所らしいです)も差し挟まれ、瓦屋根での壮絶アクションもあったりと、シャンカル作品らしくサービス精神旺盛です。ヴィクラムのムキムキ肉体も目の保養。インドのボディービルダーたちも総出演しているようです。


それにしても、南インドのスターたちはスター・イメージを壊すことに寸分の躊躇もないようで、『I』のヴィクラムもハンパではありません。そこまで悲惨にしなくても、と思ってしまう後半の変身ぶりは、ボリウッドのスターには無理でしょう。本作のWikiによると、この映画はもともとシャンカル監督がラジニカーントにプロットを語って聞かせた3本のうちのひとつとか。他の2本は『ボス』『ロボット』に結実したのですが、この『I』はさすがにラジニ様もお断りになったそうです。普通断りますよねー。それを引き受けてしまうヴィクラムは、どこまでチャレンジングなんだ、と思わずにはいられません。

ヒロインを演じたエイミー・ジャクソンはイギリス人モデルで、ミスコンで優勝したことからタミル語映画のプロデューサーがインドに招き、2010年からインド映画に出演するようになりました。こういうモデル役にはピッタリの人で、劇中でCF監督が言っていた「ケミストリー」を起こせる人です。CF撮影の美しいシーンを付けておきます。ワイヤーも使いまくりで、このシーンなどを見ると、シャンカル監督、張芸謀監督の『HERO 英雄』好きでしょ、とツッこみたくなってしまいます。そういえば、劇中で「中国でロケするのよ」と聞いたリンゲーサンが、「ジェット・リーの国か!」とか言ってましたね。

I - Pookkalae Sattru Oyivedungal Video | A.R. Rahman | Vikram | Shankar

『I』は日本でもタミル語映画上映会で上映されるようなことを聞いた憶えもあるのですが、もし上映されたらぜひご覧になってみて下さい。

<追記>13日の金曜日なので、ゾンビ情報をひとつ。『I』の中でもゾンビが出てきます。CFの1シーンで、あまりの良い香りに誘われ、墓場に眠っていた死人も蘇る、というシーンで登場。『インド・オブ・ザ・デッド』(2013)の影響でしょうか。インド版CFの様々なスタイルが見られるのも、『I』の魅力の一つです。公開迫る『インド・オブ・ザ・デッド』もがんばって下さいね。(拙ブログ記事を公式ツイッターでご紹介下さり、ありがとうございました~)

 

 


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