アジア映画巡礼

アジア映画にのめり込んでン十年、まだまだ熱くアジア映画を語ります

年末年始のアジア映画は激混み中①『少年たちの時代革命』

2022-12-25 | 香港映画

昨日のクリスマスイブは、ポレポレ東中野で『少年たちの時代革命』を見てきました。試写のご案内をいただいておきながら、1回こちらで簡単な紹介をアップしただけで、試写にうかがえず見逃したものです。現在、この『少年たちの時代革命』とドキュメンタリー映画『理大囲城』が、ポレポレ東中野で公開中です。

『少年たちの時代革命 公式サイト
 2021年/香港/86分/原題:少年/英題:May You Stay Forever Young
 監督:レックス・レン(任俠)、ラム・サム(林森)
 出演:ユー・ジーウィン(余子穎)、レイ・プイイー(李珮怡)、スン・クワントー(孫君陶)、マヤ・ツァン(曾睿彤)、トン・カーファイ(唐嘉輝)、アイビー・パン(彭珮嵐)、ホー・ワイワー(何煒華)、スン・ツェン(孫澄)、マック・ウィンサム(麥穎森)
 配給:
※12月10日(土)より、ポレポレ東中野ほか

(C)Animal Farm Production

2019年、逃亡犯条例をきっかけに、巻き起こった香港の民主化をめざす大規模な抗議行動。ハイティーンの女の子、YY(余子穎)とジーユー(李珮怡)は、ゲーセンでのUFOキャッチャーに興じる姿をスマホで撮ったりするフツーの少女たちでした。でも、刻々と悪化する香港情勢に、彼女たちも黒い服を着てデモに参加します。運悪く捕まったあと警察側から手ひどい仕打ちを受け、落ち込んだ気分のまま釈放されると、外では一人の少女が「あいつら、全身をさわりまくったのよ!」と泣きながら叫んでいました。その少女に近づき、「死んでも忘れちゃダメよ」と肩を抱くYY。ジーユーは車で迎えに来た父に怒られながら帰って行きますが、YYの父は仕事で中国におり、YYは一人住まいの団地にとぼとぼと向かいます。そのYYに近づいて彼女を慰めたのは、やはりさっきまで署で拘束されていた建築作業員のナム(孫君陶)でした。

(C)Animal Farm Production

ナムは大学受験に失敗し、現場で働いているのですが、彼のガールフレンドのベル(曾睿彤)は中文大学の学生で、家はイギリスへの移民を考えているという裕福な家の娘でした。しかしベルは、ナムも含む何人かのグループで、民主化運動の様々な後方支援を行っていました。いつもリュックには防毒マスク代わりのゴーグルや手袋などを入れて、どこへでも飛んでいく彼等の仲間には、大型バンを持っているファイ(孫澄)とゾーイ(麥穎森)の兄妹、食堂の厨房で働く父に止められながらも活動に参加するルイス(唐嘉輝)、警察官を父に持つバーニズム(何煒華)らがいました。彼等をなにくれとなく助けてくれるのは、38歳のソーシャルワーカーのバウ(彭珮嵐)で、彼女の経験や指導力が若い仲間を助けていました。

(C)Animal Farm Production

しかし、民主化運動が続く間に、運動に対する挫折感などからうつ病になり、自殺に走る若者たちが出始めます。若者が投身自殺で亡くなった現場に花を添えに行ったYYは、親友のジーユーが海外留学をさせられるかも知れないと聞いて、取り残された気分になり落ち込みます。やがてYYは自殺をほのめかす投稿をSNSに残し、行方がわからなくなります。YYのSNSに気づいたナムは、仲間たちと共に彼女を引き留めるため香港中を走り回ります。ナムには、どうしても彼女を死なせたくない理由がありました。他の仲間も、これまで自殺者が出たことで味わった敗北感を二度と味わわないために、YYの命を救うために奔走しますが...。

(C)Animal Farm Production

YYの命が香港の運命と二重写しになり、若者たちがそれを救うために奔走する、というテーマがくっきりと浮かび上がる秀作です。一部に実際のクリップ――街角でのデモと警察の弾圧の様子を見せるフッテージも使いながら、足りないところを青い背景の画面で補い、激しいドラマの周辺を埋めてこちらに迫ってくる映像は、非常に説得力があります。特に、街角で意見の違いから争いになった彼等を、不審者としてつけていた私服警官3人が尋問するシーンは、「阿Sir(おまわりさん)」として香港の人々の信頼を勝ち得ていた警官の今の姿を見せてくれて圧巻でした。香港の人々の間にある階級差もきちんと描かれており、現実のフィクション化が成功していた作品でした。ソーシャルワーカーを演じたアイビー・パンの演技力もさすがで、作品を見応えのあるものにしています。『理大囲城』(2020)、『時代革命』(2021)、『Blue Island 憂鬱之島』(2022)と、ドキュメンタリー映画で我々は香港の民主化闘争を見てきたわけですが、劇映画の本作を通じては、また別の側面が見られると思います。ぜひ、劇場でご覧下さい。

(C)Animal Farm Production

なお、昨日は終了後に映画評論家の宇田川幸洋さんによるトークもありました。うかつにも知らないでこの日のこの回を予約したので、思いがけずクリスマス・プレゼントをもらった気分でしたが、私の三半規管の調子が悪く、マイクを使ってのトークなのによく聞こえないため前列に移動。それでも司会者の方の言葉がほとんど聞こえず、困りました。映画の音声や館内放送はうるさいぐらいよく聞こえるのに、なぜに肉声+マイクの声は聞こえない(泣)。マスクのせいもあるのか、私の耳には聞こえないデシベル層があるようです。

何とか聞き取れた宇田川さんのお話は、本作には香港映画の特徴がよく現れている、というお話で、1980年代ぐらいからの香港映画のいろいろを取り上げなら、解説して下さったものでした。帰り道、買ったパンフレットを読んでいると、宇田川さん、暉峻さん、リム・カーワイ監督の鼎談でもそんなお話が出ていて、読みふけりながら帰ったのでした。このパンフレット、『理大囲城』とのカップリングなので1,500円とちょっとお高いですが、香港に関心のある方はぜひお求め下さい。

そうそう、本作の監督はレックス・レン(任俠/上)とラム・サム(林森/下)なのですが、お二人のこれまでの作品は、27日から東京でも始まる<香港映画祭2022>でいろいろ見られます。上のリンクから以前の紹介記事に飛べますので、こちらもよかったら行ってみて下さい。

(C)Animal Farm Production

それにしても、どーしてこう押し詰まってからアジア映画の上映がつづくのやら。「早く大掃除しろ~!」と叫ぶ窓ガラスやお風呂場を無視して、今日もこれからユーロスペースに出かけます。掃除の神様、いましばらくご辛抱を。

 


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