アジア映画巡礼

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『ミッション・マンガル』Mission 3:肝っ玉ヴィディヤの魅力を攻略!

2020-12-09 | インド映画

「はやぶさ2」の話題のおかげで、宇宙への関心が高まっている今日この頃。小惑星探査は日本の独壇場になりそうですが、火星探査はインドにお任せ下さい! わが『ミッション・マンガル 崖っぷちチームの火星打ち上げ計画』の、「崖っぷち」チームならぬ”名”チームがお引き受け致します。最初は”迷”チームだったろうって? そりゃ、予算も付かなければ施設も機材もオンボロ、配置された人員にも問題児がゴロゴロおりましたが、チーム長のラケーシュ・ダワン(アクシャイ・クマール)とわたくしの指導力の賜物で、施設も人間も立派に使えるものになりました――と言っていそうなのが、本作の登場人物の中では要になる人物、タラ・シンデ(正確に音引きを付けると「ターラー・シンデー」)です。演じているのはヴィディヤ・バラン。2015年に日本公開されて人気を呼んだサスペンス映画『女神は二度微笑む』(2012)では、「ヴィディヤー・バーラン」という正しい音引き付きで紹介されましたので、こう書けばあの臨月近いお腹をした、やつれたヒロインを思い浮かべる方も多いはず。しかし本作では、あの細面の美女から肝っ玉母さんに大変身。今回はタラに焦点を当てながら、『ミッション・マンガル』の魅力をお伝えしていくミッション遂行です。

© 2019 FOX STAR STUDIOS A DIVISION OF STAR INDIA PRIVATE
LIMITED AND CAPE OF GOOD FILMS LLP, ALL RIGHTS RESERVED.

『ミッション・マンガル 崖っぷちチームの火星打ち上げ計画』  公式サイト
 2019年/インド/ヒンディー語/130分/原題:Mission Mangal/字幕:井出裕子
 監督:ジャガン・シャクティ
 出演:アクシャイ・クマール、ヴィディヤ・バラン(ヴィディヤー・バーラン)、タープスィー・パンヌー、ソーナークシー・シンハー、クリティ・クルハーリー(キールティ・クルハリ?)、シャルマン・ジョシ(ジョーシー)
  配給:アット エンタテインメント
1月8日(金)より新宿ピカデリーほか全国順次公開

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本作ではそもそも、「タラ(ターラー)」という名前が、ヴィディヤ・バラン演じる彼女の運命を宇宙に結びつけています。「तारा/ターラー」とは、「星」という意味なのです。「सितारा/シターラー」というペルシア語が語源の単語もありますが、どちらもインドで「星」の意味でよく使われる単語です。この「星子」母さん、サリー姿で車を運転してISRO(インド宇宙研究機関)に出勤し、宇宙探査ロケット開発に携わる一方、家庭では心配性で口うるさい夫(サンジャイ・カプール)を上手にいなし、オタク傾向の強い息子と遊びたい盛りのハイティーンの娘を愛情いっぱいに育てるなど、なかなかの肝っ玉母さんなのです。いつもどっしりと構えて、何が起こってもあわてないその姿は、ヴィディヤ・バラン本人の体型の変化と年齢の変化もあって、観客に安心感と信頼感を与えてくれます。

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そして劇中で、タラは火星探査ロケットの燃料不足を補う方法として、家でプーリー(全粒粉の揚げパン/上写真でタラが持ち上げているのが膨れたプーリー)を揚げていた時に「余熱の利用」を思いつくのです。ここは、本作のハイライトシーンの1つとなっています。劇中ではあまり丁寧に説明されていないのですが、女性ならではの視点で燃料の節約に寄与し、それが成功した、というのは同性としてとっても嬉しいですね。そのほか、様々なシーンでタラの魅力が噴出するのですが、それがすんなりと観客の胸に響くのも、ヴィディヤ・バラン本人の魅力があればこそ。特にここ5年ほど前から、ヴィディヤはコメディ映画のたくましい女性主人公として目覚ましい活躍をするようになってきていて、本作でも観客はそれを期待して見るに違いありません。それまでのたおやかな娘役から脱皮する時期に来ていたこともあるのですが、ユニークな役柄が増えているのです。

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1979年1月1日生まれのヴィディヤ・バランがデビューしたのは2003年で、ベンガル語映画の『Bhalo Theko(気をつけて)』でした。続く第2作はヒンディー語映画だったのですが、この2005年の『Parineeta(既婚婦人)』の原作は、ベンガル語の著名作家シャラトチャンドラ・チャテルジー。ヴィディヤの両親は南インドの出身で、自宅ではタミル語とマラヤーラム語が飛び交っていたそうですが、なぜか当時のヴィディヤのイメージは「しっとりしたベンガル女性」だったようです。このイメージの一端が、『女神は二度微笑む』(2012)のヒロイン、「タミルナードゥ出身でベンガル人の夫を持つ女性」にも引き継がれたのですね。当時、『Ishqiya(激情)』(2010)や『The Dirty Picture(汚れた映画)』(2011)などいくつかの作品で、男を手玉に取る個性的な女性を演じたあと、ヴィディヤが一転して素っ頓狂な地方女性を演じたのが『Bobby Jasoos(探偵ボビー)』(2014)でした。この作品でコメディエンヌとしての才能を開花させ、続いて『あなたのスールー(正しくは”スル”)』(2017)という、平凡な主婦がラジオでセクシーな声を披露して大人気になる、というコメディをヒットさせます。そこから南インド映画に出たりしたあと、再びヒンディー語映画に戻ったのが本作『ミッション・マンガル』だったのです。というわけで、見ている人はヴィディヤのコメディエンヌぶりを期待していただろうと思いますが、実在の人々をモデルにした作品だけにあまりハメをはずせはしなかったものの、ヴィディヤの存在のおかげで楽しい作品になったことは間違いありません。

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そんなヴィディヤ・バランに対し、アクシャイ・クマールはいつもの作品よりもちょっと控え目で、2人のコンビがうまく化学反応を起こすよう気遣っている感じです。この辺の案配は新人監督のジャガン・シャクティには手に余ったと思うので、脚本に加わり、プロデューサーとしても現場に詰めていたと思われるR.バールキ(『パッドマン』等の監督)の助けも大いにあったことでしょう。ジャガン・シャクティ監督は助監督として、R.バールキ監督作品の『パッドマン』(2018)やヴィディヤが出ていた『Paa(パパ)』(2009)、R.バールキ監督の妻であるガウリ・シンデー監督の『マダム・イン・ニューヨーク』(2012)などの現場に入っていたとのことなので、キャリアは十分。本作は2019年度興収トップ10の第7位に入ったことから、ジャガン・シャクティ監督の前途も明るいことでしょう。「ジャガン(世界、宇宙)・シャクティ(力、能力)」というこのパワフルな名前、是非憶えておいて下さいね。

いつもですと予告編を付けるのですが、ちょっと変わったインタビュー映像を見つけましたので、それを付けておきます。プロモーションでラジオ局に出演した時のもので、カメラが1台しかないのがつらいですが(あちこち動かざるを得ない)、ヴィディヤ・バラン、ニティヤ・メーノーン、タープスィー・パンヌー、アクシャイ・クマール、ソーナークシー・シンハーがMCを囲んで楽しそうに英語時々ヒンディー語で話をしており、彼らの仲の良さがうかがえます。字幕がありませんが、お楽しみ下さい。

Akshay Kumar, Vidya Balan, Sonakshi Sinha, Taapsee Pannu & Nithya Menen | Mission Mangal | HrishiKay

 


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