アジア映画巡礼

アジア映画にのめり込んでン十年、まだまだ熱くアジア映画を語ります

明日、チュティモンちゃんが戻って来る! 『ハッピー・オールド・イヤー』

2020-12-10 | 東南アジア映画

ああ、タイに行きたい。もちろんインドにも行きたいのですが、毎夏行っては補給していたタイ製品が目下切れつあって大ピンチ! シミ取りクリームとかそんなご大層なものではなく、王室関連の店で売っている40バーツ(140円)だかのクリームなんですが、森の中のような香りで心が落ち着き、ニオイが苦手の私でも付けられるため愛用しているのです。あと1ヶ月持つか持たないかなんですが、来年の夏には行けるのだろうか、バンコク...。そんな私がちょっぴり心を癒やせたのは、先日試写で見せていただいたタイ映画『ハッピー・オールド・イヤー』。何せ主演が、私の大好きな作品『バッド・ジーニアス 危険な天才たち』(2017)のリンことチュティモン・ジョンジャルーンスックジンなのですから、それだけで心が躍りました。『バッド・ジーニアス』公開後、何本かちょっとだけ出演した作品はあったものの、『ハッピー・オールド・イヤー』は全編フル出演です。長髪をバッサリ切ったチュティモンちゃん、さすがモデルだけあってとってもカッコいいです。では、まずは映画のデータからどうぞ。

『ハッピー・オールド・イヤー』 公式サイト
 2019年/タイ/タイ語/113分/原題:ฮาวทูทิ้ง.. ทิ้งอย่างไรไม่ให้เหลือเธอ/英語題:Happy Old Year
 監督:ナワポン・タムロンラタナリット
 出演:チュティモン・ジョンジャルーンスックジン、サニー・スワンメーターノン、サリカー・サートシンスパー、ティラワット・ゴーサワン、パッチャー・キットチャイジャルーン、アパシリ・チャンタラッサミー
 配給:ザジフィルムズ、マクザム
12月11日(金)より、シネマカリテ、ヒューマントラストシネマ渋谷ほか全国順次ロードショー

© 2019 GDH 559 Co., Ltd.

バンコクの中華街のはずれにあるビル。そこの1階と2階に住んでいるのは、北欧に留学していたデザイナーのジーン(チュティモン・ジョンジャルーンスックジン)の一家。兄でアパレル関係のデザイナーであるジェー(ティラワット・ゴーサワン)、そして母(アパシリ・チャンタラッサミー)の3人で暮らしています。父はずっと前に家を出て行ってしまったのですが、それまでこのビルで音楽教室を開いており、大きなピアノを始め、様々な楽器が今でも残っていました。また、兄は自作の服を作って販売しているため、2階は兄のスタジオのようになっていて、これまた物がたくさんあります。ジーンは北欧生活で学んだミニマルなライフスタイルに憧れており、こんまりさんの断捨離本の影響も受けて、ゴミを全部捨てて家をリフォームしようと思い立ちます。リフォームの設計を友人のピンク(パッチャー・キットチャイジャルーン)に依頼し、家を下見してもらうのですが、母はリフォームには大反対。とっても邪魔なピアノも父の思い出ゆえか、「絶対に捨てないわよ」と言い出す始末。とりあえず、ジーンは自分の部屋にあった不要品を始末し始めますが、これがなかなか難しく、いろんな思い出もあって一概に捨てられません。

©2019 GDH 559 Co., Ltd.

それじゃ、元の持ち主に返そう、というわけで、直接会ったり、郵送とかで間接的に返すのですが、それも返された方が傷ついたりして、なかなかうまく行きません。かつて付き合っていたボーイ・フレンドのエム(サニー・スワンメーターノン)にもカメラを返しに行きますが、久しぶりに会ったエムに対して微妙な感情が湧き出し、ジーンの心は揺れます。ところが、エムに今の彼女のミー(サリカー・サートシンスパー)を紹介されると、それはそれで心がざわついて...。こんな調子では、ジーンは家のリフォームに取りかかれるのでしょうか? また、父に対する感情をいまだ整理できないままの母は、ピアノの始末に賛成してくれるのでしょうか? 年の瀬が近くなり、ジーンは「ハッピー・ニュー・イヤー」と言えるかどうかの瀬戸際に立たされます...。

©2019 GDH 559 Co., Ltd.

上に「こんまりさん」と書きましたが、皆さんご存じでしたか? 私は3年ほど前にロスにいる友人から教えてもらい、海外でそんなに有名なの? とびっくりしました。近藤麻理恵さんというお片付け名人のことで、詳しくはWikiを見ていただければと思いますが、著書はタイ語にも訳されて出版されているそうです。こんまりさんのブログにある、タイ語版「人生がときめく片付けの魔法」の紹介はこちらです。本作の中のジーンは、北欧生活でミニマリズム生活が身につき、さらにはこの本の影響を受けた、という設定になっていますが、ミニマリズム映画は理解できても、北欧の国々――スウェーデン、ノルウェー、フィンランドなどはそんなにミニマルな生活なのかなあ、とちょっと疑問もきざします。そんなわけで、ジーンの心情に少し共感できない点もあるものの、プレゼントを返して相手を傷つけてしまうところや、元カレ&その今カノとのやり取りなどは、いろいろ身につまされる点がありました。「断捨離」は今や日本では国民的関心事ともなっていますし、それを若い女性、しかもタイ人の女性が断行する、というのはなかなかに興味深く、どの世代の人も見入ってしまうのでは、と思います。

©2019 GDH 559 Co., Ltd.

そのほか個人的に興味深かったのは、ジーン一家が住んでいる場所です。バンコクの鉄道起点駅フワランポーン駅の西南側には、ヤワラートの中華街が広がっているのですが、それの駅に近いあたりに、ヤワラートの中心街とはまた違った雰囲気の中国系タイ人が住む一画があります。1980年代初めから割とよくバンコクに行っていた私は、シーロムやMBK近くの安ホテルに泊まっては、ヤワラートとインド人街のパフラートをうろついていたため、ジーン一家の家が写った時、あ、あの辺りだ、と大体の見当がついたのでした。中華系タイ人が居住したり、小さな会社を構えたり、時には棺桶屋などのあまり表通りには出せない商売をしていたりして、とても興味深い一帯です。ジーンたちも中華系タイ人のようで、音楽教室には「伊力音楽院」(だったと思います)とかいう中国語の看板もかかっていました。ジーン役のチュティモン・ジョンジャルーンスックジンも、その兄役のティラワット・ゴーサワンも、明らかに中華系タイ人の顔なので、なるほどなー、と思った次第です。

©2019 GDH 559 Co., Ltd.

ただ、母親役のアパシリ・チャンタラッサミー(上写真右側)はタイ系の顔なので、このキャスティングにも何か意味があるのでは、と思います。アパシリ・チャンタラッサミーは、1995年版の『メナムの残照』でトンチャイ・メークインタイの相手役としてアンスマリンを演じた女優だとのことで、よくよく画面を見れば面影が残っていて懐かしかったです。太平洋戦争期のタイを舞台に、日本軍将校とタイ人女性の政略結婚と愛を描く『メナムの残照(原題”Khoo Gam/運命”)』は、タイ人女性作家の書いた小説で、タイでは何度も映画やドラマになっています。1995年版は、トンチャイ演じる日本軍将校の小堀が軍の宿舎で三味線を弾いたりするので、日本ではとうとう上映されなかったと思いますが、その後も映画女優として活躍していたのですね。クールな子供たち2人に向かっていく母親を演じて、迫力ある演技を見せてくれています。

©2019 GDH 559 Co., Ltd.

監督のナワポン・タムロンラタナリットは1984年生まれ。チュラと呼ばれる名門チュラロンコン大学の芸術学部で中国語を専攻したという変わり種です。在学中から短編を撮り始め、卒業後は脚本家や映画評論家として活躍、そして2012年に監督デビュー作『36のシーン』を撮ります。2作目の『マリー・イズ・ハッピー』(2013)は2013年の東京国際映画祭で上映されたのですが、高校生の女の子の話で、画面にどんどんツイート文が登場するという、とても変わった作品でした。その後の作品――『あの店長』(2014)、『フリーランス』(2015)、『ダイ・トゥモロー』(2017)、そして本作『ハッピー・オールド・イヤー』は大阪アジアン映画祭で上映、また『噂の男』(2014)はアジアフォーカス・福岡国際映画祭で、さらに『Bangkok48: Girls Don't Cry』(2018)は東京国際映画祭で上映されてきたという、全作品が日本でお披露目されている希有な監督がナワポン・タムロンラタナリットです。これらの作品のいずれかをご覧になって、本作は未見という方は、絶対にお見逃しなく。

©2019 GDH 559 Co., Ltd.

それと、見どころはやはりチュティモンちゃん。全編白のトップで下は黒、という、タイの女子高生みたいな服装なのですが、トップはTシャツだったりブラウスだったり、そしてボトムはスカートだったりパンツだったりと、モデルとしても活躍する彼女の姿にうっとりすること請け合いです。笑顔、泣き顔、困り顔と表情も豊かで、ジーンの感情を余すところなく伝えてくれます。チュティモンちゃんと一緒に、本作の中で大晦日を迎えて下さい。最後に本編映像が付いた予告編を付けておきますので、味わい深いシーンを少しだけお楽しみ下さいね。

タイ映画『Happy Old Year』本編映像が解禁

 


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