8月も下旬になってきました。さて、このあたりから、9月23日公開のヒンディー語映画『スーパー30 アーナンド先生の教室』(2019)と10月1日公開のタミル語映画『響け!情熱のムリダンガム』(2018)、そして10月21日公開のテルグ語映画『RRR』(2022)のご紹介に力を入れねば、ですね。『RRR』は最近ちょろっと見せていただいたのですが、すーっごく面白かったです。もちろんツッコミどころもある(反英愛国映画はなぜいつも、イギリス人のパーティーで主人公がイギリス人女性とワルツを踊る、というシーンを作るのか?etc.etc.)のですが、全長3時間2分というのに一瞬たりとも退屈せず、緊張がゆるむことのないストーリー展開に身も心も持って行かれました。ま、そのお話はきちんと試写を見せていただいてからするとして、今日は少し前にスクリーン試写を見せていただいたタミル語映画『響け!情熱のムリダンガム』の「萌えポイント:その①」のご紹介です。まずは、映画のデータとあらすじをどうぞ。
『響け!情熱のムリダンガム』 公式サイト
2018年/インド/タミル語/132分/原題:Sarvam Thaala Mayam/英題:Madras Beats
監督:ラージーヴ・メーナン
出演:G.V.プラカーシュ・クマール、ネドゥムディ・ヴェーヌ、アパルナー・バーラムラリ、ヴィニート
配給:テンドラル(南インド料理店 なんどり)
※10月1日(土)シアター・イメージフォーラムにてロードショー、全国順次公開
© Mindscreen Cinemas
主人公は大学の商学部学生ピーター(G.V.プラカーシュ・クマール)。父ジョンソン(クマラヴェール)は南インド古典音楽の楽器であるムリダンガムという太鼓を作る職人で、ムリダンガム奏者の大御所ヴェンブ・アイヤル師(ネドゥムディ・ヴェーヌ)に気に入られるほどの腕前ですが、一家の生活は豊かではなく、母のテレサが街角でスープ屋をして家計を助けていました。両親の夢はピーターがいい成績で卒業し、就職すること。ところがピーターときたら、映画スターのヴィジャイ命! で、学校の勉強よりも彼のファンクラブ活動を優先させる始末。ヴィジャイの新作の封切り日と期末試験が重なると、答案はいいかげんに書いて提出し、封切りの映画館カジノに駆けつけて仲間と共に歌い踊るのでした。そんなピーターでしたが、ある時父に頼まれ、アイヤル師の演奏会場ミュージック・アカデミーにムリダンガムを届けた時から別人のように変わってしまいます。アイヤル師から、まあ演奏を聴いていけ、というジェスチャーをされて舞台袖に座り込んだピーターが耳にしたのは、神業とも思えるムリダンガムの音でした。
© Mindscreen Cinemas
その時から、ピーターの願いはアイヤル師からムリダンガムを習うことになってしまいました。ですが、古典音楽の演奏者は歌手も含めほとんどがバラモン階級の人々です。ピーターの一家は父が皮を扱う職業と言うことで、被差別カーストの出身なのでした。アイヤル師の内弟子マニ(ヴィニート)はそんなピーターを毛嫌いし、差別的な態度を取りますが、アイヤル師はピーターの才能に瞠目し、彼を弟子にしてしまいます。もう1人の新人弟子で裕福なアメリカ在住者のナンドゥ(スメーシュ・S・ナーラーヤナン)と共に、ピーターは修業に励みますが、マニはピーターを目の敵にし、時には体罰まであびせます。それを知ったアイヤル師はマニを追い出し、マニは妹でテレビ局の司会者アンジャナ(ディヴィヤダルシニ)に泣きつき、彼女がMCをしている音楽ショーの審査員に潜り込みました。そんな時アンジャナは、チェンナイ・シティセンターでの番組のプロモーション中に、ピーターとナンドゥが飛び入りであるバンドと一緒に演奏をする姿を目にします。アンジャナは早速ナンドゥに声を掛け、自分の番組はアメリカでの放送用だと偽って、ナンドゥに番組出演を承諾させます。ですが当日、ムリダンガム運びを手伝うピーターと共にテレビ局に行ったナンドゥは、番組がローカル局で放送されると知り、アイヤル師にバレると大変だと姿を消してしまいます。会場でムリダンガムの調音をしていたピーターは、アンジャナにうまく騙されて演奏をさせられてしまい、からんできたマニと大げんか。警察沙汰になって、アイヤル師からも破門されてしまいます...。
© Mindscreen Cinemas
というのが、インターバルまでのあらすじなのですが、もう一つ、ピーターがあることから看護学生のサラ(アパルナー・バーラムラリ)に惚れてしまい、彼女を追いかけ回す、という恋バナも登場します。この素敵な女優アパルナー・バーラムラリに関しては、また後ほどいろいろと。今回は、サラの前にピーターが全身全霊を捧げていた映画俳優ヴィジャイについて、ちょっとご紹介しておきましょう。はい、このスーパースターです。
©photo by Diamond Babu
皆さん、すでに顔はご存じでしょうし、中にはヴィジャイの熱烈なファンの方もいて、彼に関しては私よりずっと詳しいかも知れません。実はこの作品が『世界はリズムで満ちている』という邦題で2018年10月に東京国際映画祭で上映された時、監督ラージーヴ・メーナンとその奥様で本作のプロデューサーであるラターさんが来日したのですが、上映後の野外サイン会(シネコンの下の広場で、夜暗い中で実施されたのですが、たくさんの方が並んで下さっていました)のあと監督が、「サインした人の中に、ヴィジャイについてすごく詳しい人がいたんだよ。驚いたなあ」と言っていたことがありました。今思うと、それが今回配給なさる「なんどり」の方だったのかも。そのヴィジャイですが、日本でも『百発百中』(2004)、『ジッラ 修羅のシマ』(2014)、『テリ~スパーク~』/『火花』(2016)、『マジック』(2017)、『サルカール 1票の革命』(2018)、『ビギル 勝利のホイッスル』(2019)、『マスター 先生が来る!』(2021)と、最近作はほとんど映画祭上映されたり、DVDになったりしているので、作品をご覧になっている方も多いと思います(抜けていたら、コメントで教えて下さいね)。インドでも大人気で、ブロマイドにシール(下写真)、グリーティングカードなど、もちろん正規版ではないのですが、チェンナイに行くといろいろ手に入ります。
南インドでは、映画スターのファンクラブ組織がしっかりしていて、この映画の中でも「カットアウト」と呼ばれる人型のくりぬき大看板を作ったり、初日の第1回にはお祭り騒ぎをして映画公開を盛り上げたり、それから献血などの慈善活動も行う姿が出て来ます。ヴィジャイだけでなく、ラジニカーントや他の俳優も強固なファンクラブ組織を持っており、何の映画だったか忘れたのですが、「ファンクラブの会員なら、血を売ってでも会費を納めろ」というセリフがあったような...。ピーターが看護学生のサラと親しくなったのも、ケンカした傷の手当てをしてもらったことがまずあるのですが、サラもヴィジャイのファンであることが大きいようです。ピーターは乗っているバイクにもヴィジャイの写真を貼り付けていましたが、こういうバイクのデコレーションは、こちらでご案内したように、ポスター屋さんの近くでやってくれるところがあります。写真を見ると、サイババ(一番上)からヴィジャイ(一番下)まで、何でもプリントしてくれるようです。
で、肝心のヴィジャイは、1974年6月22日生まれの48歳...とご紹介しようと思ったら、何と英語版Wikiを実にきちんと日本語に訳した日本語版Wikiがありました。ヴィジャイについて知りたい方は、ぜひこちらをご覧下さい。上の写真は、チェンナイで買ったA4判のグリーティングカードです。中を開けると立体的になっており、ヴィジャイが何人もいるというグリーティングカードで、なかなか見応えがあります。面に書いてあるタミル語文字は「Ilaya Tharapathy Vijay」で、「タラパティ」または「ダラパティ」は「大将、頭目、親分」というような意味です。「イラィヤ」は「年下の」という意味で、「若大将」とでも訳せばいいのでしょうか。『響け!情熱のムリダンガム』をご覧になる前に、ぜひヴィジャイの主演作を1本か2本、見ておいて下さいね。では最後に、予告編を付けておきます。
映画『響け! 情熱のムリダンガム』予告編 2022.10.1公開