韓国から、またまた秀作がやって来ました。私の大好きな「コンゲーム(騙しのテクニック)」ものです。このジャンル、韓国映画は大の得意分野というか、ハリウッドなんか抜いちゃっているぐらい、面白いプロットやアイディアを繰り出して来ます。今回の『インサイダーズ/内部者たち』も、根幹となるストーリーはもちろんのこと、周縁部の細部に到るまで驚きが詰め込まれていて、見る者を引き込みます。
そして、その核となるのがイ・ビョンホンの演技。冒頭からアッと観客を驚かせる姿を見せ、いつものイ・ビョンホンとはまったく違う姿をあれこれ見せてくれます。そんな魅力が詰まった本作、昨年末の時点では観客動員数第4位だったのですが、ディレクターズ・カット版『内部者たち:オリジナル』も公開され、年齢制限のR指定が入った作品としては歴代第1位のヒットとなりました。まずは、基本データをどうぞ。
『インサイダーズ/内部者たち』 公式サイト
(2015年/韓国/韓国語/130分/原題:내부자들/レイティングR15)
監督・脚本:ウ・ミンホ
主演:イ・ビョンホン、チョ・スンウ、ペク・ユンシク
配給:クロックワークス
宣伝:スキップ
※3月11日(金)よりTOHOシネマズ新宿ほか全国ロードショー
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冒頭、仕立てのいいスーツに身を包んだアン・サング(イ・ビョンホン)が、高級車から降りて会見場に向かいます。サングは、与党・新正党の次期大統領候補チャン・ピル(イ・ギョンヨン)と、ミライ自動車のオ会長との癒着ぶりを示す証拠書類を検察側に提出するのに合わせて、記者会見場に姿を現したのですが、実はその裏には、彼が一時期兄とも慕っていた「祖国日報」主幹イ・ガンヒ(ペク・ユンシク)の存在があったのでした。
もともと芸能事務所の経営者だったサングは、ガンヒに命じられて、チャン・ピルらのために女の斡旋までしていた男でした。そんな中で、オ会長のミライ自動車が裏金をチャンに贈っていた証拠のファイルを手に入れたサングは、それをネタにのしあがろうとしたために、完膚なきまでにたたきのめされ、肉体的にもハンディキャップを背負わされてしまいます。こうしてサングは、しがないチンピラとしてくすぶる羽目になってしまい、復讐を考えるようになっていくのです。
一方、コネなし、学閥なし、後ろ盾なしで検事になったウ・ジャンフン(チョ・スンウ)は、上司(チョン・マンシク)らからはうとまれ、出世の糸口がつかめないどころか、追っていた裏金の証拠ファイルをサングに奪われた責任を取らされて左遷されます。諦められないジャンフンは、一発逆転を狙ってサングと手を組もうとするのですが....。
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プロットは緻密に考えられており、見ていると蜘蛛の糸に絡め取られるかのように、物語に引き込まれていきます。どこにも正義の味方はおらず、今流行の言葉で言えば「ゲス」ばかり。そう、検事やその周辺にたむろする新聞記者なども「ゲス」なのです。特に、議員のチャン・ピルとオ会長が秘密の会合を持つシーンは、まさに「ゲスの極み」で、これと過激な暴力シーンがあるために、日本でもR15+になったのだと思います。
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そんなゲスどもの中で、「一寸の虫にも五分の魂」的な根性で復讐を成し遂げていくサングが、非常に丁寧に描かれているのが本作一番の魅力と言えます。しかも、それを演じているイ・ビョンホンがうまい! この人はこんなにいい俳優だったのか、と惚れ惚れします。最初の、のし上がろうとする偉そうなワルのパートもいいのですが、どん底まで落ちた小ずるい、でも人間としての誠意がほの見えるチンピラの役も本当にうまくて、それぞれくっきり別種の陰影があり、双子が演じているのかと思うほど。まあ、髪型とか外見も変えてあるので、よけいにそう思うのかも知れませんが、ビョン様、これまでにない魅力的なキャラクターを創り出しています。
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そんなビョン様に押され気味ですが、チョ・スンウも元々上手な役者なので、2人の演技対決も見応えがあります。さらに、あんまり気合いを入れていない風情のペク・ユンシクも、不気味なゲスとして存在感満点。ほかに、お馴染みの脇を固める名優たちも次々に出て来て、「あんた、この間は屋上で焼き肉食べてたでしょ~」のチョン・マンシクが上席検事役など、意外なキャスティングも楽しめます。『ベテラン』がらみで言えば、ペ・ソンウもサングのために働く男として登場するし、韓国映画は本当に脇役の演技とその使い方がうまいですね。
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こんな秀作を撮ったウ・ミンホ監督は、まだこれが3本目。これまでの2本、『破壊された男』(2010)と『スパイな奴ら』(2012)はいずれもキム・ミョンミン主演ですが、さかのぼって見てみたくなりました。『インサイダーズ/内部者たち』の原作は、ユン・テホという作家の未完のウェブ漫画「内部者たち」だそうで、漫画には検事ジャンフンは登場しないのだとか。こちらでは、それをチョ・スンウがぼやいていて笑わせてくれます。そういった未完成の原作を、ここまで完成度の高い脚本に仕上げたウ・ミンホ監督、今後注目の監督の1人となりそうです。ラストの落ちも秀逸で、タイトルの意味がよーくわかるという、文字通り「最後まで目が離せない!」作品です。
ユン・テホの漫画もチラと出てくる予告編を付けておきます。映画館で、隅々まで楽しんで下さいね。
3/11(金)公開 『インサイダーズ/内部者たち』予告篇
「この人はこんなにいい俳優だったのか、と惚れ惚れします」と、気づいて下さって嬉しゅうございます。
私はダーリンをハート付きの色眼鏡で見てしまう癖がありますが、やはりいい俳優さんだと思います(なので、好きなのですが)。
この作品も本当に楽しみだったのですが、cinetamaさまのこの文章を読んで益々楽しみになりました。
公開が待ち遠しいです!
R指定になるほど過激な暴力シーンて・・・。
韓国映画は、いい映画どんどん来ていますね!
インド映画もこのくらい来てほしいな~。
『インサイダース』観たい映画リストに入れたいと思います♪
イ・ビョンホンは、もちろんこれまでもいろんな作品で演技力を見せてきてくれたのですが、どうも「イ・ビョンホン」の方が先に立ってしまって、私としては感情移入100%とはいかなかったのでした。
それが今回は、「イ・ビョンホン」捨ててます!
ご覧になって、ぜひnancyさんのご意見を聞きたいです。
1つ大好きなシーンがあって、言ってしまうとまずいので書きませんが、今でもあの呼吸が甦ります。
ナイショですが、ビョン様が一瞬、三池作品時代のエンケン(遠藤憲一)に見えた時がありました.....。
チョ・スンウは、『マラソン』や『タチャ』がよかったので、私の中では「演技巧者」の位置づけです。
(舞台も見てみたい~)
まあこの程度できて当たり前、という演技でしたが、最後においしいところをさらいますし、チョ・スンウのファンの方にも満足度は高いと思います。
ぜひ、ご覧になって下さいね!