『EXTREMELY LOUD AND INCREDIBLY CLOSE』 ※ネタバレ
この映画を見終わった後で、涙腺が壊れた。
こんなに泣く映画も珍しい。
一緒に見ていたタピは、この映画は、
あたしと接しているから まだ分かるところもあるが、
分からない人には全然わからないと思うと言っていた。
普通に見ていて感動する映画なので
そうと言い切らないかもしれないが、どちらにしても、
この映画は良すぎた。近年でも相当やばい映画に値する。
主人公のどうしようもなく不安になる心境が
とても自分と重なって見えた。
どう説明するか難しいような不安が、
うまく表現されていて 臨場感がある。
主人公の少年は、何の病気か分からないが精神的な
病を抱えている。過去に医者からアスペルガーと診断
されたこともあるらしいが、本人が言うには はっきりとはしていない。
その病気については よく知らないが
日常の当たり前の景色に足がすくむほど怖いと感じるのは
とても分かる。分かるだけに なまじリアル。
少年オスカーが、ブランコに乗れるようになったことが
どれほど凄いことかと思う。
あたしの場合、ふいに耳にする電車の音とか、
少し床から響いてくる ひきずる椅子の音とか、
人の話し声や 街の雑音、ほんの少しの音も、
体内に大きな音で急激に飛び込んできて
たまったものではなかった。
音だけではなく、今見ている世界が、いきなり
崩壊しそうな不安が、共存し、
安心することすらも怖いと思わせる。
この映画のタイトル「ものすごくうるさくて
ありえないほど近い」は、結局どういう意味だろう?
色んな解釈があるようだ(ネットで見たところ)。
あたしが解釈すると とても現実的な ある意味否定的な
ことも含まれるから、本来の意味があるなら
全くかけ離れているかも知れない。
だが、あたし個人的には、要するに、受けて側(観た本人)が
好きに解釈すれば良いのではないかと思っている。
そうすると 「ものすごくうるさい」のは本当に良く分かるところだ。
文字通り、音が飛び込んでくるのだし、
普通気にならない音が とても大きな音になって入ってくる。
あたしにとっては、現実そのものだ。
さて、「ありえないほど近い」とは何だろう。
こちらも、あたし視点からすると、ありえないほど時が経っていない
ことを意味してしまう。現実に時間は経過しているのに
症状は前に進んでいかない。
だが、ありえないほど近いところに、実は前に進める何かが
あるかもしれない。
ありえないほど近い、それは自分の心の中にあるかも。
そうだとしたら、「ものすごくうるさい」もの(音だけでなく恐怖そのもの)が
「ありえないほど近い」その心の中の何かと結びついているともいえる。
「ものすごくうるさいほどに複雑すぎるものなのだ、
この、ありえないほど近く心の中にあるものは」
このような、ある意味あからさまな状態を、
想像力無しに結論してしまっているけど、
本来の意味がどうであれ、個人的にはこうなる。
パパを9.11で亡くしたオスカーは、父の死から立ち直れない。
それは残された母も同じ。このトム・ハンクス演じるパパも
サンドラ・ブロック演じる母も、最高にいい。
大好きだったパパと、探検ゲームをやっていたオスカーは
ある日、父の遺品の中から鍵を発見する。さらには
謎のブラックと言う文字も。オスカーは、探検ゲームを始めるわけ。
勿論ゲームを再開しても、今度は一人だし、
でもパパとやっていたゲームの答えは
実は未だ発見できてないし・・・。
彼の探検では、途中仲間に加わる謎のおじいさんが登場。
普通は、探検する少年と聞いたら イメージは もっと明るいものだが
オスカーの探検は、常に自分の恐怖との闘いだから
ある意味派手なアクションやファンタジーよりも
命懸けの感はある。
パパが亡くなった日の、9.11のビルが倒壊する瞬間の
映像も、母親がビルから見ている様子で描かれている。
あの映像は、ただでさえ見ると いたたまれないのに
映画で出てきた時のショックさは言葉に出来ない。
オスカーは、パパからの最後の電話に
出られなかったことを 自分に責めている。
テロや戦争と言ったものを経験した子供は
急に気が短くなったり、急に失禁したりするような
深刻なトラウマを抱えているケースが多いようで
オスカーは、パパが居る時から、精神的に不安定ではあったが
恐怖が心を蝕んでしまうことは あって 当たり前のことだ。
彼の抱える不安の病名などに意味は無い。
その後遺症が どれほど深刻なものなのか。
確かに ビン・ラディンは死んだけれど、
9.11から十年が経ってからの映画だけど
それだからと言って 傷が癒えるのではない。
それでも、本人は前に進むもうと力を振り絞る。
オスカー以外にも、現実にこうした恐怖と闘う人達は
子供だけでなく沢山居ることだろう。
戦争やテロの後遺症に悩むのは市民だけでなく兵士だって。
そのようなものがもたらす恐怖は
何年経とうと 容易に癒えてくれはしないのだろう。
オスカーの母が、最後に驚くようなことを暴露するが
それがまた感動した。いつも泣いていて、頼りなさそうな
感じに見えるが、それはオスカー視点から、だから、かも。
それに、ラストも良かった。パパのメッセージ。
前へ一歩を踏み出したオスカー。
この先だって不安になる事や情緒が安定しないことはあるだろうけど
確実に彼は前に進んでいて、その精神的な成長は
今後のオスカーを決定的に助けてくれると思う。
2011年 アメリカ
監督 スティーヴン・ダルドリー
出演 トム・ハンクス サンドラ・ブロック トーマス・ホーン