第三話 (最終回)
今年の狩猟期間も終わり、リタイアしております
厨房屋のオヤジも毎年のお誘いを頂きまして
懐かしい猟友との楽しい時間を過ぎしましたが
昨年に同じ様に熱くなって話を聞かせてくれた
やっさんも元気な顔を見せてくれてましたので
「どうや、元気にしていたんか?この前に話した
あの馬鹿夫婦はもう来ないよな?」
「ああ来ないで!来れる訳無いわな、あんな
調子で商売するとは正気の沙汰や無いで!」
こんな話をしても以前の様に青筋を立てて怒る
様子も無いので、あれから何か変わった事でも
有ったのかと聞くと、ニヤッと笑って
「やっぱりな、人間てエエわ~」 と言うから
「また聞かせてーな・・」
「実はあれからな、また獲物の処理をしていると前の
道路に車が停まってツルツルの坊主頭のオッサンが
降りて来よったんや・・ 以前の中年夫婦と同じ話か
と思ったらちゃんと腰低く挨拶しよったんや」
「今にちわ、突然で済みませんが私は少し離れた
町の寺の住職で、幼稚園もやってますが、何時も
ここで作業をされてますのを拝見して少々のご無理を
聞いて貰えないかと思いまして寄せて貰いました」
「何でしょう?」 と不愛想に返事すると
「実はうちの幼稚園児に獣を解体するところを見せて
やりたいのです。勿論親御さんには許可を獲ってます。
何にでも命が有り、皆それを食べて元気に大きくなって
いくのを肌で感じて欲しいのです。これは私が坊主で
仏教に帰依しているからでは無く、人間として大事な
教育と考えておるのですが如何でしょう、子供たちに
見せてやって貰えんでしょうか?」
「小さな子なら怖がるでしょう?泣きだす子もおるん
やないかな」
「怖がるのも泣くのも教育です!言葉だけで説明する
より見せてやりたいのですが、ご迷惑なら諦めます」
「それなら獲物を処理する前の日にでも電話しますわ。
でも鹿は可愛いから子供が見るとショックを受けては
いけないので猪の処理の時にでも連絡します」
「猪でも鹿でも命有る者だったのに変わりはないので
気にされないで下さい」
「こんな話を坊主頭の園長先生にしていたらその週に
鹿も猪も獲れたので両方吊るして連絡したらマイクロ
バスに乗って園長と先生と園児が沢山来たんや」
「へ~え、子供の反応はどうやったん」
「何か鶏も魚も、きっと野菜にも命が有るし、目の
前の鹿さんも猪さんも命が有ってこの間まで生き
とったんや」
「とか何とか坊主が説明しとったけど、その時点で
ワシの前には話も聞かんと何人かの子供が吊る
してる獲物の前を回って目をキラキラさせながら
見とったけど、そのうちに一人の女の子が猪の鼻の
穴に指を突っ込んで大きな穴や言うて目を丸くして
吃驚しとったわ」
「女の子が触りよんのかいな?」
「そうやで!ほんで先生が気が付いてワシに謝って
その園児に怒っとったわ」
「それから20分ほどおったかな・・ 帰りかけに皆で
獲物に手を合わせましょうと先生に言われてワシと
獲物に向かって拝んでくれよった・・ワシはその時
少しだけ泣いてしもうた・・ワシも山で獲れた獲物には
何時もその場で手を合わせとるのと同じやがな・・」
「園長坊主がワシに子供達に何か言うてやってくれ
言うから帽子を脱いで、首に巻いたタオルを取っても
何を言うたらええのか判らんからこの前に釣りの本を
読んだ事を思い出して、言うたったんや・・
みんなの家族の中には魚釣りなんかしている人も
多いとおもいますが、釣った魚を持って帰らずに海や
川に返すキャッチ&リリースと言う事が有ると知りました。
魚釣りも猟も同じ趣味ですが、銃猟ではキャッチ&
リリースは出来ません。猟の場合は獲って往生、
食って供養と言いまして無駄な殺生はせずに出来る
だけ苦しませずに獲る。そして必ず命に感謝して
食べると言う事になります。皆さんが見に来てくれた
事に今日はおじさんと、この猪と鹿とで皆さんに
有難うと言います・・」
「これが情操教育になるかどうかは知らんけど
また来よらへんかなとワシは楽しみにしとるんや・・
次はワシの犬も見せたろかなと思うてんねん!」
「犬を見せてもあんまり興味無いのと違うか」
「そうかなァ~でもワシの犬も見て欲しいねん!」
こんな調子で夜が更けて今度は嬉しい二日酔いです
完
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