こうきっぱり言うのは、医師の大脇幸志郎先生。
東大医学部を卒業後10年ほどさまざまな職業を経験し、フリーターを経て医師になった異色の経歴をもつ。
「市販の検査キットの中には精度が低く、体外診断用医薬品として認められていないものもあります。
その検査で陽性でも陰性でも、なんの参考にもなりません。検査をしても、ザルで水を掬うようなものですから意味がありません。
検査を推奨する声もあるようですが、みなさん、医師やいわゆる『専門家』の発信を鵜呑みにしすぎです。
医療は患者さんのためのものですから『医師の言うことを無批判に受け入れる』のは、ちょっと違うんじゃないでしょうか。
医師に任せるのではなく、自分の体のことはまず自分が考える。医師を『利用する』くらいの姿勢で医療をもちいるべきです」
いきなりのようにも聞こえるが、たしかに「自分の体」ではある。
「感染対策というのは、効果があるから『対策』になるので、効果のないものは対策とは言えません」
◆健康な人は、病院に行ってはいけない
この2年間、世界は新型コ○ナにさらされ、さまざまな「感染対策」を強いられてきた。今、冬に向かって再びその感染が広がりつつあるように見える。
「季節的にも、寒くなる時期には風邪症状が増えますし、インフルエンザの流行もあります。
それは、これまでもずっとあった傾向です。
新型コロナは、初期の流行時には致死率の高い『恐ろしい感染症』でした。かかると高い確率で重症化し、持病のある人、高齢の方はとくに注意が必要でした。
しかし、ウイルスはどんどん変わっていって、今のウイルスに関して言えば、広がりやすいものの重症化することは極めて少ない。
インフルエンザなどと比べて、それほど『恐ろしい感染症』ではなくなっていますよね。その事実を冷静に見るべきだと思います。もともとのリスクが低いのに、過剰な対策をしても、得られるものは少ないです。
仮に感染しても、健康な人なら急いで病院に行く必要はないでしょう。コロナでも低リスクの人に対する治療薬はありませんし、家で普通にしていれば自然と治りますから」
とはいえ、新型コ○ナのワクチン接種は、4回目、5回目の案内が届き始めている。インフルエンザワクチンも気になる。
「コ○ナとインフルエンザ、どちらのワクチンも、打ってもいいし打たなくてもいい。
私自身は、医療現場で重症化しやすい人に日々接しているので、インフルエンザワクチンを接種しました。
ご自身の環境や状況によって、対策によって得られる利益と、副反応などの害を考慮して決めればいいと思います」
◆マスクは「おまじない」
各国の対応からは遅れたものの、日本でも海外渡航の際の制限や検査、旅行や集会などの行動制限全般が、解除の方向に向かっている。
「でも、マスク。みんなしてますよね。屋外でマスクをする意味なんてほとんどないでしょう。
飲食店に入るのにマスク着用を求められるものの、食事中はマスクを外して歓談している。
マスクはもう、おまじないみたいなものになっています」
厚生労働省の発信でも、屋外のマスク着用はすでに推奨されていない。が、なぜ我々はマスクを外さない、外せないんだろう。
「みんなしてるから、でしょうか。マスクをしないで外を歩いていると、人目が気になってしまう。
そもそも、なんでマスクをしているのか、という本来の目的がもう曖昧になっています。
マスクに限らず、感染対策は目的を見失っている状態が続いているんです。
健康全般についても、同じことが言えます。
減塩とか糖質制限とか、なんのためにしてるんでしょう。
今日や明日の体調が目に見えて変わるわけでもないのにがまんをするのはおかしいと思います。
僕は甘いものが好きなので、よくパフェを食べます。おいしいから、好きだから食べる。幸せな気持ちになります。
人は、なんのために生きているのか。幸せに生きることが目的のはずです。
その目的を見失っているのが、健康法に代表される健康妄信です。
エビデンスがあるとされる健康法も、効果の強さを考えるとあまりにささやかで実感できないものが多い。
専門家の研究は、進めば進むほど、話がどんどん細かくなっていきます。
その一部を抜き出して健康にいいとか悪いとか、そういう細かすぎることに惑わされてはいけませんよね」
◆やるべきこと、やってはいけないこと
クリスマスや年末年始に向かい、人が集う場面が多くなる時期、気をつけるべきことはなんだろう。
「人と人との関わり、会う機会はとても重要です。
入院患者さんが家族と面会できないことのデメリットはとても大きいんです。
この2年間の『対策』でたくさんの害がありました。
すべては利益と害のバランスです。私は今冬、子どもを連れて実家に帰省するつもりです。
イベント参加などの際にPCR検査や抗原検査を求められることもありますが、症状のない人が検査をして、なんのメリットがあるのでしょうか。
この秋『やってはいけないこと』といえば、まず、検査キットを買わないこと、そして、健康な人はむやみと病院に行かないこと、が答えです。
人体というのは非常に複雑で、わからないことのほうが多いんです。
自分の体のことを、医師に任せてはいけません。
痛いところがあるから病院に行く、その目的は痛みをとることですよね。
『コ○ナかもしれないから病院』と決めつけてしまうのは目的を見失っていると思います。
大切なのは目的をもつこと、得られる利益と害のバランスを見て、自分で判断することです」
◆「もっと不健康でいこう」の理由
大脇先生は「もっと不健康でいこう」という動画チャンネルをもち、過去30年分の医学論文を読んで解説したり、新薬の添付書類を読んで紹介するといった医療関連の情報を発信している。
「不健康でいこう、というのは『健康がすべて』という社会のムードに疑問があるからです。
健康第一、健康のためなら死んでもいいなんてジョークもありますよね。
健康より、幸せに生きることのほうが大事だと僕は思います。
医学は、幸福と自由のためにあるべきです。障がいのある人や高齢の人、治らない病気を持った人、いわゆる健康な状態ではない人も幸せに生きる社会がいいと思いませんか」
大脇先生の「不健康でいこう」の根本には、こんな思いがあった。不健康でも生きていい社会、健康より幸福。そんな未来を生きたい。
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