当時
虫の標本をしたので、地獄に落ちると思っていた。
小学校1年とか2年とかの時に、藤田組通りにあった銭湯の裏に
小さな指圧のお店があり、母親が行く時に一緒に行くんだけれど
その店(というかほぼ普通の家)には仏教系の本がたくさん置いてあり
中でも、地獄と天国の光景を描いた絵本のようなものがあって
そこで読んだ時に「殺生をすれば、血の池地獄に落とされたり、針の山を
鬼達にむりやり登らされたり、永遠にそんな風に苦しむんだよ」と
指圧の先生がニヤつきながら話していた。
俺は夏休みに買った、昆虫標本セットの注射器に薬を入れて、
虫達に注射を打って昆虫標本を作るつもりでその死体に針を刺し、
箱に入れたりしてたから、俺は地獄に落ちるのだと思っていた。
真夜中に閻魔大王を見上げ、何も出来ずにたたずむ自分自身の悪夢を
見てうなされたりした。
かつてロードウォリアーズとして活躍し、最近ではど真ん中という
言葉だけが先走りしている長州力のプロレス団体WJに参戦し
その技の健在振りを見せ付けていたマイケル・ヘグストランドこと
ホーク・ウォリアーが死んだ。心臓発作か。
若くして死ぬ(45歳)アメリカンレスラーは大概ステロイドが原因と
言われるが、今回もそうだったのであろう。
なんかで読んだんだけど、相棒のアニマルはすごい健康マニアで
ホークはまったく無頓着だったという。アニマルのほうがテキトウそうな
イメージがあるけれどもね。
ロードウォリアーズと最初に出会ったのは、小学校六年生から中学生に
かけてであっただろうか。当時青森で深夜に放送されていた「世界のプロレス」
という番組で見たのが最初だった。その前までは鉄の爪フリッツフォンエリックの
息子、ケビンやケリーが登場して、テリーゴディと死闘を繰り広げていた。
その後現れた彼らは、今までのプロレスには見られないスタイルを築き上げた。
彼らのすべてが衝撃的だった。
試合時間が3分とか短時間で終わってしまったり
その際の様々な今まで見たことも無いようなツープラトンも新しかった。
当時のツープラトン技といえば、太鼓の乱れうちとか
手を繋いで走りこんで相手の首に当て、転ばすみたいな
まったく何のアイディアも取り込まれていない時代であった時に
アニマルが選手を抱え上げて、走りこんできたホークがラリアットとか
バックドロップ時にラリアットするとか、今となっては当たり前にある合体技も
彼らが先駆者であった。
そして相手がどんな攻撃をしてもまったく、ダメージを与えることが出来ない
のもびびった。たとえホークがラリアットとか食らってもスクっと
すぐに何事も無かったかのように、ウヒヒと言った感じで立ち上がったりする。
すげえホーク!としびれた。
その他にもマネージャーのキャラ立ちとか、ハードゲイのような
ギチギチの皮のトゲトゲファッションとか顔のメイクとか
すべてが斬新なスタイルで、しかも最初からそのキャラクターが
馴染んでいた。はまっていたのだった。
スラム街で育った彼らは、ドブネズミを食って生きてきたぜと
はき捨てるように言い放つ。俺は「ドブネズミ食ってきてレスラーで
ロードウォリアーズにまでなった奴らなんて最強に決まってんじゃン!」
と思っていたのであった。
アニマルが怪我でプロレスから離れていた時に、ホークが新日に来て
佐々木健介と、ヘルレイザーズというチームを結成し、当時前田の団体
旧UWFから新日に戻ってきた健介が無理やりアニマルのような
ど派手なメークとコスチュームでアニマルウォリアーとして
ホークとタッグを組んだのも、今となっては健介にとってもいい思い出だろうか。
その時スタイナーブラザーズと試合後、リックスタイナーが健介に
英語で一言二言馬鹿にした時、ホークはマジ切れしてリックに詰め寄ったという
俺のパートナーを侮辱するやつは許さない!と試合後も怒り心頭だったという。
真面目で男気のある一面を持っているカッコいいレスラーだなあ。と
新たにホークが好きになった。
しかしその後は、体調のせいかファイトスタイルの変更のせいか、まあ新日の
試合で当時、世界のプロレスで見た試合スタイルはできないのだろうけれど
それでもたまに、敵の攻撃を受けた後にまったく利いて無いそぶりで立ち上がり
舌をべろりと出し、相手を睨みつけるホークにニヤリとしたものだった。
まあホークの日本での軌跡をたどるのなら、全日本でのジャンボからピンフォール
とった話とかもあるのだろうけれど、俺はその頃、完全な新日派であったので
その辺はあまり知らない、正直スマン!
ホークは、昔インタビューで趣味は何かと聞かれたときに
「蝶の標本を集めている」とキャラに無い本当のことを言ってしまい
その直後マネージャーに、こづかれすぐにホークキャラに戻り
「殺人事件の切抜きを集めているぜ!ゲヒヒ!」としゃべったという。
ホークはプロのレスラー、「プロレスラー」という意味を
理解し、体現していた数少ないレスラーだった。
ステロイドを止められないネガティブさは悲しい現実だ。
しかし彼は知っている。年をとるごとに
ファンが何を自分に求めていて、その求められた自分と
今の自分が重なっていないことを。そして
自分のためだけに、スポットライトと歓声の中
テーマ曲アイアンマンで登場し、リングでダブルインパクトを決め、
歓声の上がる、かつての自分の姿を知っているのだ。
だからホークはその時の自分に重なるために、
自分と家族に誇れる自分になるために、矛盾とステロイドを
打ち続けてしまったのだろう。
彼は蝶の標本を趣味にしていたことによって地獄におちたのだろうか。
しかし「ホーク・ウォリアー」には地獄が似合っているかもしれない。
アイアンマンが流れる中、
ホークウォリアーは、地獄の鬼達をなんか殴りまくり、殺しまくる。
いくら殴られても、簡単に起き上がりニヤつく
そして閻魔大王かサタンかを探し、完全にフライングラリアットか
フィストドロップでフィニッシュする。
ホークウォリアーは、相棒のアニマルに言っているのかもしれない。
「アニマルよ。地獄で待ってるぜ。」と。
ホークウォリアーは俺の中で、そういう記憶として残る。
しかし本当の彼はきっと、蝶の飛び交う静かな草原で安らかに眠っているのだろう。
感動的なくらいに、真実はひとつだ。
標本にされてきた蝶たちは、知っている。
それは
生命は「死ぬ」っていう事。
シンプルな約束事を。