■アメリカ同時多発テロ事件⑥
《ウサーマ・ビン・ラーディンの殺害》
イスラーム過激派組織であるアルカーイダがアメリカ同時多発テロ事件を起こした事で同国の報復を受け、その指導者ウサーマ・ビン・ラーディンがアメリカ軍によって殺害された事件である。
▼ネプチューン・スピア作戦
2011年5月2日、アメリカ軍による作戦が開始される。
目的はあくまでビン・ラーディンの殺害であり、生け捕りは想定されていなかった。
一部報道によれば、これに参加したアメリカ海軍の特殊部隊 、Navy SEALs を中心とした約15人(25人説もあり)のメンバーは、SEALから派生した対テロ特殊部隊「DEVGRU」(デヴグル:海軍特殊戦開発グループ:旧SEALチーム6)のメンバーであったとされている。
また、アメリカ陸軍のデルタフォースもDEVGRUの支援にあたったとされている(ビンラディンはネプチューン・スピア作戦前から追跡されており,過去にデルタフォースが主導で行った捕縛作戦もある)。
隊員達は、情報担当のCIA要員が同乗するステルス型UH-60 ブラックホークヘリコプター2機とCH-47 チヌーク2機に分乗して(これらのヘリは「ナイト・ストーカーズ」の通称で知られる第160特殊作戦航空連隊が操縦を担当したとされる)、ビン・ラーディンと、その家族がいると推定された建物の敷地内に、ロープをつたって降下、建物を急襲して2階・3階部分には午前1時ごろ突入した。
側近が応戦したが、約40分の銃撃戦ののち邸宅を制圧した。
ビン・ラーディンは武器を持っておらず、応戦したともしなかったとも報じられ、頭部と胸部を撃ちぬかれ死亡。米軍は遺体を収容した。
他にビン・ラーディンの子息と思われる20歳の男性(後に、ハリド・ビン・ラーディンと判明)、また別に兄弟2人の男性と1人の女性も死亡。
女性は夫人の1人と報じられたが、後に「別人で夫人は負傷した」と訂正された。
アメリカ軍側に人的損害は出なかった。
その死はパキスタン政府当局によっても確認されている。
作戦後、妻のハイリア・サバルを含む親族複数名が拘束・連行された。
また、後に後継者となるハムザ・ビン・ラーディンは確認されなかった。
作戦中、ホバリングしていたアメリカ軍のブラックホーク・ヘリコプター1機が揚力を失い墜落したため、爆破処理されるというトラブルはあったが、すぐに代替のチヌーク・ヘリコプターが駆けつけ、プラン変更を行うことで作戦は続行された。
作戦は、アメリカ本国でもホワイトハウスのシチュエーションルームでオバマ大統領のほか、バイデン副大統領、ゲーツ国防長官、クリントン国務長官、マレン統合参謀本部議長らによって同時進行で見守られており、またCIA本部の会議室でも、パネッタ長官らがリアルタイムで監視していた。
いかなる方法で監視していたかについては公開されていないが、一部では映像が生中継で流れたとも報じられている。
作戦成功の報をパネッタより受けたオバマは ''We got Him'' (奴を捕えた) と叫んだという。
アメリカ合衆国は、この作戦をパキスタン政府に事前に通告することなく行い、終了後に報告した。
アメリカはパキスタンだけでなく、他の国とも情報は共有しなかったとされる。
このためパキスタンのムシャラフ前大統領は、アメリカによる一連の作戦は主権侵害であると非難している。
ビン・ラーディンの死亡は、アメリカのCNNによって一報が伝えられ、全世界のメディアも追随することとなった。
その直後の5月1日午後11時半過ぎからオバマ大統領はホワイトハウスのイーストルームで深夜時間帯としては異例の記者会見を行い、ビン・ラーディンを殺害したことを正式に発表。
全国テレビ中継を通じて ''Justice has been done'' (正義はなされた) と宣言した。
このニュースが伝わると首都ワシントンのホワイトハウス周辺やニューヨークのワールドトレードセンター跡地には数千の群衆が押しかけて歓喜の声をあげた。
・アメリカ合衆国
同時多発テロに直面し、ビン・ラーディンを追ったブッシュ前大統領は殺害を極めて大きな功績であると評価。
崩壊した世界貿易センタービルのあるニューヨーク市のマイケル・ブルームバーグ市長は殺害の知らせをニューヨーク市民は10年間待っていたと評価。
国民からも歓迎する声があがった。
一方で国務省はアメリカに対する報復の可能性を懸念し、国外のアメリカ人に警戒を呼びかけた。
(以下アルファベット順)
・ブラジル
パトリオタ外相は、あらゆる形態のテロを糾弾すると同時に、今回の事件が世界で「さらなる暴力の拡大を引き起こさないこと」を期待すると表明した。
・チリ
上院外交委員会のトゥマ委員長は、パキスタンの主権を無視した今回の米国の作戦について「国際法の有効性をないがしろにするもの」と批判した。
・中国
外交部は対テロ戦争におけるポジティブな進展であると殺害を評価。
同時に中国もテロの被害者であると付け加え、これは新疆ウイグル自治区における独立運動を念頭においているとみられている。
また、中国の友好国でもあるパキスタンがビンラディンを匿っていたとする疑惑が持ち上がっていることに関して「パキスタン政府は確固たる決意でテロと戦っている」と擁護した。
・フランス
ニコラ・サルコジ大統領は、テロリズムが歴史的な敗北を喫したと表現。
・ドイツ
アンゲラ・メルケル首相はビン・ラーディンが殺害されたことで安堵しているとオバマ米大統領に表明。
・イギリス - デーヴィッド・キャメロン首相は世界に大きな安心感をもたらすと殺害を評価。
一方でウィリアム・ヘイグ外務英連邦大臣は報復を懸念し各国にある大使館に警戒を呼びかけた。
・インド
外務省は殺害が対テロ戦争における勝利の記念碑になったとして歓迎。
・イラク
政府の報道官は、「多くのイラク国民を殺害し、国を破壊している組織の指導者の死に安堵している」と歓迎した。
・日本
菅直人内閣総理大臣は対テロ戦争における顕著な前進であると歓迎。
・パレスチナ
サラーム・ファイヤード首相は非常に画期的な出来事であると表現。
・ロシア
大統領府は殺害を大きな成功と歓迎[。
・ウルグアイ
アルマグロ外相はビンラディン容疑者の殺害が「国際テロへの打撃」となったと述べる一方、同容疑者は「司法を通じて罪を償うべきだった」と指摘した。
・ベネズエラ
外務省は、同時多発テロの被害を受けた米国民に連帯を表明する一方、米国政府がとった方法は野蛮で不法なものだと批判した。
・イエメン
アリー・アブドッラー・サーレハ政権、反政府勢力共に殺害を歓迎。
イエメンは中東諸国の中でもビン・ラーディンの殺害に対して公式なコメントを早い時点で発表した数少ない国家となった。
▼経済に対する影響
テロに対する懸念が軽減したことから各国の株式市場は軒並み上昇した。
東京株式市場は2011年3月11日の東日本大震災以来の終値1万円台回復を見せた。
またアジア市場における原油先物相場が1%下落した。
フランスのクリスティーヌ・ラガルド経済・財政・産業大臣はアメリカにおける消費者心理が改善し、景気拡大に寄与するとの予測を示した。
《ビン・ラーディンの水葬の是非》
遺体はアメリカ軍によって、複数の親族とのDNA型鑑定の照合によりビン・ラーディン本人と確認された(マサチューセッツ州のボストンでビン・ラーディンの妹が脳腫瘍で数年前に死亡しており、FBIはその細胞と血液を保存していた)。
ただしアメリカ軍以外の第三者による遺体確認はされていない。
その後アラビア海に停泊していた空母カール・ヴィンソンに移され、5月2日午前1時10分(EDT)より、同空母の甲板で50分かけて水葬の儀式が執り行われた。
遺体は洗浄し清められ、白い布で包まれ、あらかじめ用意された祈りの言葉が唱えられ、通訳がそれをアラビア語に翻訳した。
その後、重しをつけられた袋に入れられ、カール・ヴィンソンにある外舷エレベーターから海に投下された。
後の情報公開の中では、機械的なエレベーターではなく、板の上に遺体を載せた後に板を傾けて落としたという。
なお、この水葬の模様を捉えた映像は公開されていない。
葬儀の実施については、乗組員のごく一部にしか知らされておらず、艦上で何が行われていたかに気づいている者は少なかった。
アメリカ政府は、イスラム教においては遺体を死後24時間以内に埋葬しなければならないが、受け入れ先の土地が見つからなかったとして水葬の正当性を主張、一連の儀式はイスラム教の教義や慣習を厳格に守って行ったと発表している。
しかしイスラムでは土葬が普通で、水葬されたことには異例とイスラム世界からの反発もあり、アル=アズハル大学の指導者タイブ師は「土葬によって死者に敬意を払うべきであり、イスラム教とは相容れない方法」と批判した。
また本来はビン・ラーディンの出身国であるサウジアラビアに埋葬すべきであったとの声もある。
アメリカ政府の意図として、イスラム過激派などによる遺体の回収や、埋葬された土地が「テロリストの聖地となるのを防ぐため」との指摘もある。
ビン・ラーディンとされる頭を撃たれた遺体の映像が一時ネット上で出回ったが、これは後に別人の写真から合成されたものと判明し、米国政府は遺体の映像を一切公開しない方針を決定している。
❣❣❣【余談】❣❣❣❣❣❣❣❣❣❣❣
アメリカ先住民から暗号名に
「ジェロニモ」を使用したことについて謝罪要求が出た。
ビンラーディン追跡に協力した現地の医師がパキスタン当局に逮捕され懲役33年などが宣告されたが再審理が決定した。
その後、懲役23年などに減刑された。
また医師の弁護士が殺害された。
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〔ウィキペディアより引用〕
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❒統計でみたアメリカ同時多発テロ
日本経済(沖縄県)への影響
《消費関連》
◎消費者態度指数(季節調整値)は、テロ事件の影響が反映されていると考えられる。
9月調査でみると、前期差4.0ポイント低下の36.9ポイントとなり、2四半期ぶりに低下した。
◎景気ウォッチャー調査(沖縄地域)の現状判断DIは、38.3から、テロの影響が反映された9月には27.8、10月には21.4に低下。
《旅行関連》
◎9月の主要旅行業者50社でみた国内旅行と海外旅行の取扱金額合計は前年比12.2%減となり、1年2ヶ月ぶりに前年を下回った。
◎9月の主要旅行業者50社でみた海外旅行取扱金額はテロ以降、欧米方面を中心にキャンセルが相次いだこと等により、大幅な減少となり、前年比25.7%減と、4ヶ月ぶりの減少となっている。
◎9月主要旅行業者50社でみた国内旅行取扱金額は、前年比0.3%増となっている。
◎10月12日(2001年)現在での主要旅行会社の海外旅行キャンセル状況をみると、取消総額で約1.200億円、取消人数では約75万人となっている。
《輸出入関連》
◎米国同時多発テロの影響で航空便が数日ストップしたことによる航空貨物の輸出・輸入への影響については、輸出は8月の27.6%減(前年比)に対し、9月は18.7%減、輸入は8月の13.0%減に対し、9月は18.7%減、ともに大幅な減少基調の中の動きであり、内外儒の冷え込みの中、テロの直接な影響は明確にはみられない。
《沖縄関連》
◎沖縄への国内航空乗客輸送実績人数(対前年比)は、9月は1.4%増、10月は21.8%減。
◎旅行予約のキャンセル人数は、テロ発生から11月6日までに21.5万人(2000年度入域観光客数に対する割合は4.8%、修学旅行のキャンセル人数は昨年の修学旅行者数の55.0%)。
◎9月の完全失業率は9.4%(原数値)。対前月比で0.2ポイント増(3ヶ月連続の上昇)、対し前年比で1.0ポイント増。
❒アメリカ同時多発テロ事件
における沖縄経済
1.沖縄経済に与えた影響
(1)観光産業、米軍基地への依存度が高い沖縄県の経済
沖縄県の経済は、観光産業、基地関連支出への依存度が大きい。
97年の沖縄県内総生産に占める観光収入の割合は12.4%であり、製造業(同6.1%)の約2倍となっている。
同じく、基地関連支出(軍関係受取)の割合は5.4%であり、市の面積の約36%を米軍軍用地が占める沖縄市などでは更にその割合が高い。
(2)観光客数への影響
航空乗客輸送実績人数をみると、米国における同時多発テロ事件(以下、同時多発テロと略)。
前の9月10日までは前年を上回っていたものが、11~20日には前年を下回った。
そして、10月1~10日には対前年比で14.8%、約1万8千人減少し、10月に入り影響が顕著となっている。
また、沖縄県観光リゾート局による旅行代理店への聞き取り調査によると、10月11日現在で沖縄県への旅行予約のキャンセル人数が10万人を超えた(2000年の年間入域観光客数は約452万人)。
同3日調査時点のキャンセル人数が約5万4千人であったことから、キャンセル人数の増加のペースは早くなっている。
特に、修学旅行のキャンセル数が全体の約8割を占めている。一方で、海外旅行から沖縄旅行への振替は約1千人にとどまっている。
90年8月から91年2月にかけての湾岸戦争が沖縄への入域観光客数に与えた影響を振り返ってみると、90年8月のイラクによるクウェート侵攻の影響で9月に一時落ち込み、更に、多国籍軍がイラクに対して攻撃を開始した91年1月から、対前年比で1月2.7%減、2月3.4%減、3月3.3%減と3か月連続でマイナスを記録したものの、戦争終了の翌々月の4月以降は持ち直した。
(3)小売その他への影響
沖縄商工会議所は、10月2~4日に沖縄市胡屋地区の事業所346件(うち小売業は304件)を対象に同時多発テロに関するアンケート調査を行った。
その結果によると、全体の43.1%が売上減少などの経営上の影響を受けている。
そのうち、売上への影響が30%を超えた事業所は49.0%に上っている。尚、来店客に占める米軍人等の割合が4割を超える事業所は57.7%に上っており、この地域の軍施設への経済的依存度の高さが伺える。
また、内閣府の景気ウォッチャー調査(2001年9月調査)においては、多数の人が同時多発テロの影響についてコメントしている。
2~3か月後の景気の先行き判断の理由をみると、「同時多発テロの影響で、今後も旅行等で沖縄を避けることが懸念され、売上も減少が見込まれる(高級レストラン)」、「同時多発テロに関連して、修学旅行のキャンセルに伴う、団体貨物のキャンセルが予想される(輸送業)」といったコメントがみられ、幅広い業種で同時多発テロの影響が懸念されている。
先行き判断DIも、8月の40.0から9月は32.4へ△7.6ポイントと、全国(35.3から31.1に△4.2ポイント悪化)と比べて悪化幅が大きくなっている。
(4)沖縄振興開発金融公庫の緊急支援策について
沖縄振興開発金融公庫は、観光関連事業者の経営支援策として緊急に特別相談窓口を設けた。
セーフティーネット融資制度として、同時多発テロによる観光客数の減少等の影響を受けて売上が減少した観光関連事業者に、資金繰りを安定させるために必要な運転資金を通常より低利の1.40%-1.45%で融資する。
また、返済期間も通常は5年以内のところを最大で7年以内に延長するなどの措置をとった。
その後、相談状況を踏まえて特別利率0.9%の緊急融資制度を適用するなどの融資支援策を更に強化している。
2.運輸・旅行業に与えた影響
ここでは同時多発テロの影響が顕著に現れたとみられる運輸・旅行業について、その影響の程度を概観する。
同時多発テロによる我が国航空会社・旅行会社への影響について国土交通省が調べたところによると、航空会社大手3社の国際線の旅客・貨物収入の減収は、9月11日から9月24日の期間で約107億円であった。
更に、同時多発テロの影響は旅客・貨物収入の減収にとどまらず、航空保険契約の見直し(保険料の追加徴収)に伴う約400億円と航空保安体制強化に伴う約3.8億円の費用増加が見込まれる他、受託手荷物の全数検査を行うためのX線検査機器の購入費として約4億円が見込まれている。
同時多発テロによる国際旅客数の減少及び費用増加に加え、世界的なIT不況による国際貨物需要の低迷も予想されることから、某大手航空会社は、2001年度の業績予想を経常利益の赤字化を見込むなど5月時点の見通しに比べ大きく下方に修正した。
また、航空各社では航空保険料の値上げに伴い国際旅客便については5ドル、国内旅客便については500円の「航空保険特別料金」を設定し、国土交通省への認可申請・届出を行った。
次に旅行会社への影響について同じく国土交通省が調べたところによると、主要8社の海外旅行のキャンセル状況は、9月11日時点の予約済み分から事件発生以降9月28日までのキャンセル分が取扱高ベ-スで約520億円に達した。
取消者人数は約29万人であった。事件直後の短期間にもかかわらずその影響は小さくないといえる。
参考までに、湾岸戦争時の海外旅行者数及び海外旅行取扱高の推移をみると多国籍軍がイラクへの攻撃を開始した1991年1月に減少に転じた後、2月、3月と急減し、2月の戦争終結後も低調な動きが続いた。
海外旅行が本格的な回復をみたのは9月以降であった。
〔情報元 : 内閣府〕
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