きみの靴の中の砂

ベーカリー・ハーヴェイズのイングリッシュ・マフィン

 

 

「ノースダコタ州の州都を答えなさい、と質問されるのと、ビスマルクはアメリカのどこの州の州都か答えなさい、と質問されるのとでは、どっちがクイズらしく感じる?」とイチ子さん。どういう事情からの質問なのか謎だが、

「あとの方かな」とぼく。

「やっぱりそうよね…」と思案顔。

 さて今は、どんな仕事を引き受けているのやら。旅行作家のイチ子さんとしては、一応、その仕事の範疇だとは思うのだが...。

 

 時計を見れば、間もなく十六時。ベーカリー・ハーヴェイズで、明日の朝食用のイングリッシュ・マフィンが焼き上がる頃。

 

 ハンガーフックからアウターを取ると、ぼくは、

「マフィンを買いに行ってくる」と言ってアパートメントを出る。

 

 2ブロック先(日本の感覚だと二百メートルと言ったところか)まで歩く間に、昨夜、イチ子さんが、モーツァルトの『ジュピター』の話に真剣だったのを思い出した。そう言えば、昨日も、どんな仕事を引き受けてるんだろうって思ったっけ。

 

 

 

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