きみの靴の中の砂

白い顔





 砂まみれになる海水浴場はもとより、古ぼけた市営プールで泳ぐくらいなら、図書館で本を読んでいた方がいいと水口イチ子が言う。だからと言って、きれいなハイランドプールや馬堀海岸公園のプールは混むから嫌だとも言う。結局、ただ泳ぎたくないのか、水着になるのが嫌なのか、あるいは日焼けをしたくないのか...。

 高校に入って最初の夏休み ----- イチ子は、ぼくが知る限り、子供の頃からの彼女とは違っていた。

「久里浜のプールなら隣に図書館があるから本も読めるよ」とか「鴨居のプールなら木陰もあるから涼しいよ」などと言ってなだめすかしてはみたものの、決定的な妥協案とはならなかった。

 普段はコンタクトレンズを使う強い近視のイチ子が、度付きのゴーグルを使って泳ぐと、パンダとは逆に、目の周りだけ日焼けせずに白くなるのが嫌だったからだと打ち明けたのは、夏休みも最後の週...、
「さぁて、夏休みが終わっちゃう前に、一度くらいはプールへ行っとくかぁ」とイチ子から言いだした日のことだった。

 この夏はイチ子に付き合い、とうとうぼくまで泳がず仕舞いに終わるのかと、日焼けしてない白い顔を鏡に映しては半ば絶望していたのだ。

 その日、イチ子は後にも先にも、この夏たった一度だけ度付きの赤いゴーグルをして泳いだ。彼女の得意なバタフライを見るのも、ちょうど一年振り。
 それは、水が妙にぬるい、不入斗(いりやまず)の屋内プールでのことであった。




【Gilbert O'Sullivan / Anytime】


 

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