ある年の夏至の日のことだ。
ハノイから車で二時間ほどの集落...。ロードサイドに駄菓子や飲み物を売る屋台を見つけてエンジンを止める。
「シンチャオ (こんにちは)」と店番の髪の長い、小学四年生くらいの少女が陽気に声をかけてくる。
言葉はわからないが、買い物は指差すだけで事が足りて気安い。
日本の煎餅よりも薄くて大きい米菓子とパパイアジュースを買って、
「キムラン...」と目差す村の名を言うと、少女は察して、今来た道のその先を指差す。どうやら道は合っているようだ。その村で十三世紀頃の古い陶器の窯跡が発掘されたという。
興味津々、遙々旅して来たベトナム...。ついぞバスに乗る気にはならず、レンタカーを借りてこんな田舎まで来てしまった。
「カムーン (ありがとう)」と少女とお互いに声を掛け合って別れるまでのわずかな時間が、もしかすると、この旅の最も思い出深い出来事になるかもしれないと、わたしは俄に思いはじめていた。
【Christian Gratz - Man In The Middle】