掌篇を書き上げた喜びがあれば、書けない時に書かないでもいい喜びもある。
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私は物語を書き終えたノートブックを閉じ、それを内ポケットに入れた。で、ポルチュゲーズ牡蠣を一ダースと、その店にある辛口の白ぶどう酒を水さし半杯分もってくるよう、ウェイターにたのんだ。------ (略) ------ 牡蠣は強い海のにおいとかすかな金属の味がしたが、冷たい白ぶどう酒はそれを洗い流して、あとにただ海の味と汁気を残した。私はその牡蠣を食べ一つ一つの貝がらから冷たい汁を飲み、さわやかな味のぶどう酒で、それを流し込んだ。(福田陸太郎訳/岩波書店『同時代ライブラリー』)
ヘミングウェイが自殺間際に書き上げた『移動祝祭日』の一節。パリに遊んだ無名時代を回想している。
自ら命を絶つ直前の文章だから、これが出版されて売れようが売れまいが、彼には関係なかった。無名時代同様に、彼は書きたいことを書きたいように書いたに過ぎない。
原典にあたると、いくらかの悲壮感と共に『書く楽しみ』が伝わってくる。
【Stephen Bishop - On And On】
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