境内の骨董市でのことだ。
還暦はとうに過ぎた男で、玉砂利の上に四畳半程のシートを広げ、古い香水瓶やインク壜など比較的小振りなものを集めて商っていた。先客との商談を聞いていると、話し言葉は、古い日活映画によく登場した台湾ギャング風である。その年齢なので最近来日したとは思えず、在日歴が長い割りに言葉は上達しなかった人なのだろう。
ということで、立ち止まり、ながめていると、最後に四センチ程の観世音菩薩の頭部の根付けが目にとまった。なかなか美しいお顔で、しばらく見とれてしまった。
ほかの露店を見て回った後も、やはり、さっきの観音様が気になった。戻って、今度は手に取ってみた。不思議な質感である。材質は木デアルカと尋ねてみた。
木は違うアル。ヒマラヤ山は、昔、海の底で、高い所へ行くと古い珊瑚が採れるアル。そこで採れた珊瑚の化石で作ったアルと言う。材質はナンダラカンダラと説明されたが、尋ね直しても、ぼくにはさっぱり聞き取れなかった。
躊躇せずに求めた。
台湾ギャングは、普段は五千円アル、今日は四千円でいいと言う。ヒマラヤ云々が本当の話だとしても、落としどころは三千円が良いところだろう。でも、気に入って買うのだから、酉の市同様値切らず、祝儀を付けたつもりで四千円でもらうことにした。台湾ギャングの愛想が急に倍増したから、祝儀の甲斐はあったようだ。
何に使うか聞かれたので、根付けかお守りみたいなものにしようと思うと言うと、それならサービスすると言って怪しげな紐を持ち出してきたので、それは、礼を言ってお断りした。
最後に、陽に当てると色が落ちるかも知れないから気を付けろと言う。着色なんかしていないという体で売っているのだから、そのアドバイスは、怪しさ百倍のオマケを付けてくれたようなものだ。なんだか笑いが込み上げてきた。
帰宅後、京都寺町通りの伊藤組紐店で買った緑色の組紐を付けてお守りとした。手に馴染む大きさと質感が心地よく、掌で転がしていると、もしかしたらボケ防止になるかもと変な期待もかけたくなった。
度々お顔を拝して、どちらのお生まれですか伺ってみる。お顔立ちが、どうも、日本人の彫ったもののようには見えないのだが...。
The Cyrkle / Red Rubber Ball
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