きみの靴の中の砂

一本のペーパーナイフを買おうかと決めかけているのだが...

 

 

 広い公園の一角にある赤いレンガ積みの図書館の大窓を額縁にして、落ち葉をかぶったパティオに水の止まった噴水の天使が寒そうに立ち尽くす。

 

 今はもうここに来る必要がなくなったと見えるきみの面影を、今も閲覧室のあちらこちらに探すのだが、どうやら徒労に終わるばかりのこの頃。

 

 きみを初めて見かけたのはいつだったか。

 

 きみが調べものの合間に、時折、書棚から選んでいたのと同じ本を今こうして手に取ると、突然きみの手に触れたような錯覚を覚える。

 レイモン・ラディゲ、『肉体の悪魔』—— きみはこの本のどこを拾い読みしていたのだろう。はたまた、それを知りたいと願うこの気持ちは、いったいどこからやって来るのか。

 

 ぼくは今、この想い出の記念に、ラディゲが書いたように、一本のペーパーナイフを買おうかと決めかけているのだが...。

 

 

 

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