きみの靴の中の砂

岬の隧道をくぐる頃





 海へ吹く風が肌寒い。

 別荘を閉めて東京へ戻る友達の『サヨナラ・パーティー』で騒いで、とんだ朝帰りになってしまった。

 海岸通りはひっそりしたまま、大王椰子の並木道には、すでに夏の欠片もない。

 この夏もいろんな事があった。
 一番不思議なニュースだったのは、L.A.のヴェンチュラに住む ----- 子供の頃からよく知っている ----- ウェーバーさんのおばさんから、息子のジェイムズが東回りで世界一周の旅に出たまま、この半年以上消息が知れない。まだ、日本に着いていないかと尋ねてきたことだ。
 世界を旅する者で、妙な地域に足を踏み入れたがために、つまらぬ物盗りに遭遇して行方不明になる旅行者は、ニュースにならないだけで、恐らく年間数百人はいるだろう。もちろん、そんなことはウェーバーさんのおばさんへの返事には書かなかったが、今時、半年以上音信不通では、そう考えるのも妥当な考えのひとつではあった。

 ジェイムズ・ウェーバー、通称ジャック・ウェブ、身軽な一人旅を好むジャックは、ブック・コンピュータは持ち歩かず ----- 忘れた頃に外国の思いがけない街からポツンと電子メールが来ることはあったが ----- もっぱら手書きの手紙を主要な連絡手段とした。
 彼からぼくへの最後の手紙は、去年の暮れ、ニューヨークで投函されたクリスマスカードだった。

 ジャック・ウェブについては、近いうちに、少し説明することにしよう。

                             ***

 岬の隧道をくぐる頃、海辺の秋が、道の傍らで密かに待ち伏せしているように思える夜明けだった。




The Year Of The Cat / Al Stewart


 

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