きみの靴の中の砂

夏空に、ひとつ大きな雲が浮かんでいた午後





 玉電を三軒茶屋で降り、古い商店街の行き着く先の街並みのはずれに、場所柄不釣り合いとも思えるモダンなカフェがあった。
 ランチ・タイムの後の、客も閑散とした時間、帰省しそびれた学生なのか田舎出と見える娘がひとり、夏の舗道に出された日除け付きのテーブルに座り、忘れられたようにポツンと物思いに耽っている。『フィッシュ・アンド・チップス』を売りにしているカフェだったが、彼女の前には手付かずのそれが、やはり忘れられたように置かれたままであった。

 商店街と住宅地の境に広がる夏空に、ひとつ大きな雲が浮かんでいた午後 ------ その娘の心も又その夏雲に似て、どこを漂っているのかと余計な心配をして長いこと席を立ちあぐねていた私は、遂にウエイターを呼んでグラスの麦酒をもう一杯もらおうと決めたのだった。

 それを許すような夏らしいBGMも聴こえているではないか。




Herb Ohta / Fools Rush In


 

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