きみの靴の中の砂

実りの秋は、ぼく達の愛情にも恵みがあるようだ





「きっと、このまま秋になってしまうのね」とイチ子さんが言ったのは、散歩の道すがら、球技場と植物園を隔てる小道から航空宇宙研究所裏のバス通りへと足を向けたときのことであった。

 幾分堅さを増した陽射しの中で九月最後の風が肩先をかすめる —— 冷ややかな感触が首筋に残った。

「今夜は、なにか温かいものを食べたいわね。衣かつぎが出始めたから茹でて、まずそれを前菜に、温くお燗したお酒など如何でしょう」
「灘の生一本『黒松白鷹』と土岐の『三千盛』がまだ手付かずであったはずだ。さあて、どっちにするかな...」とぼく。
「生鮭も出始めたから石狩鍋もいいわね。それに庭の無花果も、そろそろデザートに食べ頃だし。鳥に突っつかれないよう、あたしは、ちゃんと紙袋を被せといたんだ」

 どうやら、実りの秋は、ぼく達の愛情にも恵みがあるようだ。





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