きみの靴の中の砂

赤道まで120km

 

 

 赤道まで120km。

 イチ子は、この三日間、ひたすらハングテンの練習に励んでいる。

                    

 『6.11ft』は島にいくつかあるサーフィン・ショップの中で一番小さく、間口は3ヤードほどだろうか。店主は、ローカル・サーファーの間でポウと呼ばれている七十代なのか八十代なのか見た目ではよくわからない潮焼けした爺さんで、赤いロングボードに乗るイチ子を見て大層めずらしがり、
「まったくオレたちがガキの頃を思い出すぜ」と顔をクシャクシャにして喜んでいた。

 島の周りには、わずかにリーフがあり、ハイタイドでサウス・ショアから波がリーフを越えて来ると、そこがライディング・ポイントになった。所々サンドバーがあって、島に来たばかりの頃、イチ子はそのうちのひとつでフィンを折り、凹みきっているところをポウ爺さんにリペアしてもらい、救われたことがあった。

 オンショアでイチ子がクラシック・スタイルで波に乗ると、ローカル・サーファーからたびたび拍手が起こった。

                    

 イチ子のハングテンが完成した午後、ぼく達はロングボードにふたりで乗り、沖でサックアウトして、水の中でキスをした。
 
 
 

【Jan & Dean - Surf City】
 
 
 
 
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