きみの靴の中の砂

五月の乾いた風

 

 

 五月の初め、庭に咲いた林檎の白い可憐な花を見つけ、イチ子さんが桜と見間違えたのも無理はなかった。ゴールデン・ディリシャスとインド林檎の間に生まれた品種が桜に似た花を付けたのだ。

 

「毎年秋には収穫できるんでしょ?」とイチ子さん。

 

「よほど丹精しないと収穫までは漕ぎ着けられない。養生を怠れば残らず害虫や野鳥のランチ。観賞用として眺めているのが一番気楽かな」と説明すると、きみは、いささか不満げに唇をとがらせてたっけ。

 

 余程収穫したい様子だった。

 

 気持ちはわかるけど...。いざ、袋掛けとなるとぼくがやることになるから、ここで不用意なことは言えない。

 

                    

 

 サマーニットの可愛いらしいワンピースに早々と袖を通したイチ子さんが漆喰の張り出し窓に腰掛け、庭先を眺めていたのは、五月の乾いた風が颯爽と部屋に吹き込む朝のことだった。

 

 

 

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