少なくとも今年の夏は熱帯雨林気候に相違ない。マレー半島などはその典型的な気候帯で、雨期は午後になると毎日短時間だが、ここ数年の日本の夏のような豪雨がやって来るという。戦中、マレー半島全域の制空権を握った加藤隼戦闘隊も雨期は飛行場が使えなくなって開店休業だったという。
国内で正しい熱帯雨林気候を味わいたいというなら、唯一西表島がその北限だというから、日本は便利な国だ(何が便利なのかは良くわからないが...)。
ところで、マレー半島と聞くと読書好きなら金子光晴の『マレー蘭印紀行』が頭に浮かぶだろう。日本人で世界を旅する人のリュックには必ず入っているという名著中の名著だ。紀行文だから散文といえば散文だが、散文詩に分類されてもいい文体だ。そういう文章を書ける人がなかなかいない理由は、教養がそのレベルに至らないから、と言える。
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多摩川の土手に上がってみると雨続きのせいで大分増水している。上流にダムが出来る以前の昔は、大雨が降ると対岸の土手までの川幅三百メートルほどが全部濁流になったという。その頃は、水が堤防を越えることもたまにはあったらしい。