後述するアニメ『天才バカボン』のファーストシリーズにおいて、バカボンのパパは、腕の良い植木職人という人物設定が付け加えられているが、原作におけるパパには、定職がなく、それ故、劇中様々な職歴を変遷している。
その職種への拘りのなさは、元祖フリーターといったところだろうか……。
植木職人という設定は、父親がろくに仕事に就かず、ブラブラしているのは、教育上好ましくないという見解から、番組スポンサーであった大塚製薬の要請によって作られたものだ。
だが、赤塚自身の所論としては、パパはヴァガボンド、即ち放浪者というイメージから生まれたキャラクターであるため、敢えて定職を持たせなかったという。
俗識に囚われたシチュエーションにあっては、ドラマが硬直を伴い、突飛なナンセンスが導き出せないという懸念もまた、その根底にあったのだろう。
連載第一回目において、パパは自営であるのか、雇われであるのかは定かではないが、靴職人をしている。
だが、少しでもコストを下げようと、スルメの靴を試作するものの、結局一つも満足に作れず、これが頓挫した原因なのか、以降、靴職人を生業とはしていない。
連載第二回目となる「バカ+バカ=?」(67年16号)では、職業を夜鳴きそば屋に鞍替えするが、客足はさっぱりで、挙げ句の果てには、近所のタチの悪い連中に屋台ごと騙し取られてしまう有り様だ。
その後もフリーター生活は続き、ドライクリーニング店に就職した際には、アイロンを掛けっぱなしのまま職務放棄し、 店を全焼させてしまったり、また、サラリーマンに転職した時には、親会社の会長に悪態を付き、会社もろとも倒産させてしまったりと、何一つまともに務め上げられない点からもわかるように、常識や倫理観が欠落しているパパにとって、一般社会に適合して働くことなど、土台無理な話なのだ。