文化遺産としての赤塚不二夫論 今明かされる赤塚ワールドの全貌

赤塚不二夫を文化遺産として遺すべく、赤塚ワールド全般について論及したブログです。主著「赤塚不二夫大先生を読む」ほか多数。

『おハナちゃん』 非日常性を喚起する奇抜な発想

2018-08-20 19:12:23 | 第1章

『おハナちゃん』(「少女クラブ お正月まんが増刊号」59年1月15日発行、「少女クラブ」60年1月号~62年3月号他)は、跳ねっ返りで、チビッ娘な女の子と若い美人のお母さんとのてんやわんやの騒ぎを主軸に展開するホームコメディーで、どういうわけか、父親は一切登場しない母子家庭という設定だ。

『ナマちゃん』では、親しみある腕白小僧の無邪気で日向的な笑いの連続が、小学生読者の憧れや日常感覚にリンクした、胸のすく痛快感を解き放していたが、非日常性を喚起する奇抜な笑いにエスカレートさせることはなかった。

しかし、『おハナちゃん』では、母子家庭という、ややもすれば、その作品総体にペーソスを漂わせがちなシチュエーションを、コマからコマへと、突飛且つアンリアルな発想を繋ぎ合わせることによって、遊び心満載な、ギャグ漫画としての特性を纏った真新しい世界観を創出するに至ったのだ。

アケボノコミックス『おハナちゃん』(曙出版『赤塚不二夫全集』第3巻、68年発行)にコンパイルされた諸作品を通読すると、この時既に、非現実と現実の論理の対立から放射される笑いの共鳴波動がビビッドに発露され、後に、飛躍を遂げるナンセンスギャグの創出因子となるサンプルが高確率で描かれていることに改めて驚かさせる。

「なき声アルバイト」(60年10月号)では、後の『天才バカボン』のルーティンギャグとして、作中頻繁に登場するバカ田大学の学生を彷彿させる、虫の鳴き声の流しとも言えるようなバイト学生が現れ、その突拍子もない行動で、おハナちゃん母子を困惑させ、「こじきはいかが?」(61年11月号)では、名刺に「こじき」の肩書きを印した、スタイリッシュなホームレスが登場し、おハナちゃんとナンセンスな禅問答とも呼べるような珍妙な遣り取りを展開する。

また、幽霊の赤ん坊を保護したことで、幽霊の家族がおハナちゃんの自宅に押し寄せて来る大騒動を描いた「おばけとなかよし」(61年9月号)や、節分の豆まきで街に紛れて来た鬼の子供とのほのぼのとした交流を綴った「オニさんをいじめないで」(62年2月号)等、幽霊や鬼といった超常的な存在がデフォルメされて、日常に紛れ込むというそのストレンジな展開は、従来の少女向け生活漫画とは、明らかに異質な特色を帯びており、その後の赤塚ワールドの展望を予感させた。

『おカズちゃん』(「たのしい五年生」60年4月号~61年3月号)は、ひたすらにドライで、食いしん坊な女の子が食べ物を巡って、男の子を向こうに廻し、熾烈なバトルを繰り広げるという、バイタルなパワーがみなぎる少女物で、後に描くことになる『ジャジャ子ちゃん』や『ヒッピーちゃん』などの毒気の強い少女系ナンセンス漫画の源泉となった作品だ。


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