文化遺産としての赤塚不二夫論 今明かされる赤塚ワールドの全貌

赤塚不二夫を文化遺産として遺すべく、赤塚ワールド全般について論及したブログです。主著「赤塚不二夫大先生を読む」ほか多数。

藤圭子フィーバーをゲリラ的に先取り(!?) ホッカイローのケーコタンの登場

2020-08-09 07:46:12 | 第4章

 

『天才バカボン』に登場するレレレのおじさんが読者の反響を得たことに味を占めた赤塚は、それをプロトタイプにしたホッカイローのケーコタンなるサブキャラクターを創出したが、このキャラが初登場したのも、『ア太郎』のエピソード内においてだった。

「ホッカイローのケーコタン」と叫びながら、画面狭しと走り回る舌足らずで鼻を垂らした、小学生然としたこの少年も、八方破れな笑いが渦巻く赤塚漫画において、一服の清涼剤として読者から評判を得るに至るが、そもそもケーコタンの人気が高まったのは、このキャラクターが赤塚ワールドのスターシステムに登録されたその直後に、歌手の藤圭子が『女のブルース』や『夢は夜ひらく』等のヒットで、一躍人気スターとして脚光を浴びたという偶発的な下地があったからに他ならない。

藤圭子が、北海道旭川市出身だったということもあり、赤塚自身、歌謡番組にゲスト出演した際、「あれは藤圭子のことです」とその場の空気に合わせて発言したそうだが、実際は、当時作画スタッフを務めていた佐藤栄司が、北海道に住むケイコという彼女と遠距離恋愛をしていて、その彼が、毎晩のように「会いたい! 会いたい!」と叫んでいたことにヒントを得て生まれたキャラクターだった。

『ア太郎』が、ニャロメ人気の沸騰により、惜しも押されぬヒットタイトルとなった頃、先に述べた小川ローザの丸善石油のCM「Oh!モーレツ」が大流行したように、ケーコタンのデビューが藤圭子のブレイクと重なり合ったのも、アクシデンタルな結果とは言え、潜在レベルの段階において、時代のトレンドをゲリラ的に先取りする赤塚独特の嗅覚が、顕著に表れた一例と言えるだろう。

余談だが、このケーコタン、同時期に「少年チャンピオン」に連載され、同誌の平均的読者をパニックに陥れたと言われる藤子不二雄Ⓐのカルト的ナンセンス『狂人軍』の主人公・キチ吉に酷似しており、両タイトルを愛読していたキッズ達の間で、作者は違えど、血縁関係が存在するのではないかという微笑ましい噂が、都市伝説的に流布されていたこともある。

このように、『ア太郎』一座も、『おそ松』ファミリーや『バカボン』一家と同じく、多彩且つ魅惑的なバイプレイヤーが顔を揃えることになるが、人気の中心は、何と言っても、底知れぬ負けん気の強さと哀愁を湛えたイタズラ猫のニャロメである。


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