続く『白い天使』(若木書房、57年7月25日発行)は、前作とは打って変わり、仔犬とのハートフルな交流を軸に描いた二人の姉妹の成長物語である。
犬が大好きな心優しい女の子、ミチ子には、ノリ子という気立ての良いお姉さんがいた。
二人は東京・下町の工場地帯の一角にある小さな家に、母親と三人、仲睦まじく暮らしていた。
ある日、仔犬が近所の悪童達に虐められているところに遭遇したノリ子は、仔犬を助け、逃がそうとするが、犬好きのミチ子に促され、気乗りしないまま、家へ連れて帰る。
大の犬嫌いである母親の許しなど得られるわけがないと、ノリ子は思っていたのだ。
だが、母親は、仔犬を座敷に入れないことを条件に、飼うことを許してくれる。
ノリ子は仔犬にゴッドと名付けた。
人懐っこいゴッドは、やがて母親にも家族として受け入れられるようになった。
ゴッドが家族の一員となって幾日か経ったある日、ノリ子とミチ子がゴッドを連れ、公園で遊んでいると、ノリ子が追い払った悪童が、兄貴を引き連れ仕返しにやって来た。
恐れ戦くノリ子とミチ子。だがその時、颯爽と現れ、彼女達を救ってくれた少年がいた。
少年の名はよしはる。
やがてノリ子は、逞しくて凛々しいよしはる少年に、恋心に近い憧れの感情を秘かに抱くようになるが……。
『心の花園』同様、最後に悲しい結末へと収束される薄幸の少女物のフォロワーだが、格闘シーン等、時折挿入される劇画的演出の妙が、適宜にして効果的であり、作品世界に絶妙な間合いを持たせたそのディテールも含め、決して軽視出来ない一作だ。
このように、初期の赤塚少女漫画には、一作ごとに新たな意匠を凝らし、作風の幅を広げるなど、試行錯誤を重ねた跡が確実に見て取れ、そんな赤塚の若きセンシビリティの躍動は、汲めども尽きせぬ興趣がある。
哀話でありながらも、陰惨さは決してなく、健気さ、美しさといった人間本来の美徳が、優しい温もりに包んで描かれており、心に染み入るヒューマンな感傷を全編に渡って滲ませた、得難き名編へと仕上がった。
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