遠藤雷太のうろうろブログ

何かを観たら、とにかく400字または1000字以内で感想を書きつづるブログ。

宇高演劇部『されど、ブヨは尻で鳴く。』

2020-08-28 10:02:00 | 動画で演劇を見た(観劇三昧以外)

2020/8/25

資金繰りに苦しむ男が、浪費癖のある息子を、ソフィストなる詭弁家に習わせて乗り切ろうとする話。

ギリシアの古典をやろうと思いつくことと、実際に上演まで持ってくることには雲泥の差がある。

しかも、単に上演するだけでなく、換骨奪胎してちゃんと自分たちが楽しいと思える段階まで再構築している、ように見える。企画倒れになってない。咀嚼力が強い。

原作は読んでないけど、ゼウスやソクラテスのような有名どころが出てくるのでなじみやすい。ゼウスの演劇的な処理がすばらしい。

劇中にインプロパートがある。高校演劇では初めて見た。

博打要素のあるノリが男子校っぽい。

どのくらい珍しいことなのかはわからないし、当たり外れはあって当然だけど、映像ではちゃんと一定水準を超えてくる。勝負強い。

関東大会までは行ったとのことだけど、更に全国を取りに行く気概もうかがえる野心作だった。



公演時期 2020/02/02

キャスト
神山太志/金子駿介/荒川皓佑/丸山生真/富崎智睦/丸山生真/富崎智睦/篠原宇人/後藤瑛大/猪狩和樹/梅田晴澄/吉原俊佑

スタッフ
作:アリストパネース("Νεφέλαι")/訳:高津春繁(岩波文庫「雲」より)/翻案:宮野鉄平・荒川皓佑・畑康博・宇高演劇部/【栃木県立宇都宮高等学校演劇部】演出:荒川皓佑・金子駿介/舞台監督:丸山生真/音響:石井樹矢・神谷春陽・金子駿介/照明:小山琉聖・荒川皓佑/大道具:丸山生真・神山太志/小道具:髙柳碧・神山太志・丸山生真/衣装:荒川皓佑・金子駿介・髙柳碧/顧問:畑康博・加藤雅彦

あらすじ
アリストパネースは、同時代の実在の人物や世相を風刺、揶揄することを得意とした喜劇作家である。彼の代表作「雲」が上演されたのは、古代ギリシア、紀元前423年のアテナイであるが、そこでは当時、ソフィストと呼ばれる弁論家の活動が盛んであった。彼らは弁論というよりも、金銭と引き換えに詭弁を教えるという面が強く、人々から悪いイメージを持たれていた。このソフィストたちの詭弁から、本当の哲学に脱皮する契機となったのがソークラテースであるが、当時の人々にとっては、彼もソフィストの一員に過ぎず、むしろ代表であると思われていた。

第55回関東高等学校演劇研究大会-茅野会場-上演24
茅野市民館マルチホール
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

劇団キンダースペース『藤十郎の恋』

2020-08-26 00:18:00 | 観劇三昧

2020/8/24


菊池寛の短編小説を一人で語る。

モノドラマという言葉はあんまり聞かないけど、ここではモノローグだけで見せる舞台表現。

テキストを持たずに語るので朗読とも違う。

単純な話、短編と言ってもたっぷり40分、テキストを全部覚えているのがすごい。

演じているのは瀬田ひろ美さん。

立ち姿が美しい。声の情報量が多い。一人語りのお手本のよう。

演技とはちょっと違うので、どのように動いてもいいし、全く動かなくてもいい。

この自由さはむしろ表現の難易度を上げてしまいかねないけど、最後まで手綱を緩めず、きっちり舞台をまとめている。かっこいい。

舞台美術や演出のプランも難しそう。やろうと思えば素舞台でもできるぶん、何を足すのかでセンスが問われる。

元禄時代、歌舞伎役者の坂田藤十郎が新しい工夫を得るため、ある試みを仕掛ける話。

そう言えば『ガラスの仮面』に似たようなエピソードあった。

難しい事は何もないけど、相手を傷つけず、心の奥のみを殺す巧妙な仕掛けが鋭い。憧れる。



あらすじ


元禄十一年春、京都四条河原の都万太夫座の一代の名優坂田藤十郎と、布袋屋梅之丞座に江戸より初上りの中村七三郎との競演が人気を煽っていた。藤十郎は七三郎の初日の舞台をひそかに見て、さすが江戸髓一の七三郎の芸と気魄に、油断ならぬ相手と痛感せずには居られなかった。四条の料亭「宗清」の女房お梶は、評判の高い貞淑な美人であったが、かつて共に連れ舞を踊った幼馴染の藤十郎に人知れぬ思慕の情を抱き続けていた。一方、藤十郎の不安は現実化し、その新作狂言も七三郎の新奇な趣向に圧倒され、意外な不入りとなった。彼は早速大阪から狂言作家近松門左衛門を招いて、新しい芝居の脚本を依頼した。かくて近松の書いた「大経師昔暦」は、大経師女房おさんと手代茂兵衛が密通の挙句処刑された物語である。藤十郎は初日を前にして、人妻に恋を囁く難解な演技を、如何に我がものとするかに心を砕いていた。初日の前夜、藤十郎は彼の部屋に入って来たお梶を見て、突然熱烈な恋慕の情を打明けた。一時は身を退けおののいたお梶も、やがて藤十郎にすべてを与えようとした。その様子をじっと見ていた藤十郎は、そのままお梶を置いて去った。初日の幕が開く。藤十郎の演技は真に迫り観客の熱狂を浴びた。藤十郎の芸のための偽りの告白を悟ったお梶は、楽屋で自害して果てた。その死顔を見た藤十郎は、やがてすべての感情を胸底に秘め、再び舞台へ出て行くのである。


キャスト

瀬田ひろ美(劇団キンダースペース)


スタッフ

原作:菊池寛/演出:原田一樹/舞台美術:松野潤


コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

ピーター・ウィアー監督『刑事ジョン・ブック/目撃者』(1985年)

2020-08-25 22:08:00 | NETFLIX/PrimeVideo/UNEXT/Apple TVで観た

2020/8/24


・刑事のジョン・ブックが、殺人現場を目撃したアーミッシュの少年を犯人から護りつつ、返り討ちにする話。

・最初にアーミッシュの村の生活描写から。1984年の設定なのに19世紀くらいに感じる。電気機器の利用は最小限、電話もない、武器は持たない。変化と争いを良しとしない価値観。

・極端ではあるけど、過激ではない。共存可能な穏やかな思想であること、むしろ、観光資源として余所者から消費される存在であることが描かれている。

・事件を解決したいジョン・ブックと、口封じをしたい犯人側との対立が大枠になっているんだけど、話の多くの時間は匿われているアーミッシュの村に彼が馴染んでいく様子にあてられている。

・なので、閉鎖的な前時代然とした村と、ついさっきまで文明の真っ只中で暮らしてきた余所者との対立もあって二重構造になっている。

・大枠部分は類型的なものになりがちなので、内側の対立で独自性を出していくのは、作話上のごく基本的な戦術と言えそう。

・実際、馬車が走っていたり、素朴で手間のかかる料理を作っていたり、人海戦術で家を建てていたりと、ほぼ現代劇のはずなのに、微妙に文明を受け入れつつ変化は最小限という生活の描写が楽しい。

・嫌なやつなのかなと思っていた許嫁候補っぽい男が、異性に対して案外ポンコツだったり、時々優しいところもあったりでかわいい。

・もちろん、そういう生活に窮屈さを感じる人間もいて、生きた共同体としてのリアリティもあった。

1984年の設定だから30年以上経ったけど、今でもそういう生活を維持できてるんだろうか。

・アーミッシュの村に馴染んだことで、かえって小馬鹿にしてくる観光客が許せなくなってしまうところがとてもうまい。

・心を通わせる仲間になったことと所詮部外者であることを同時に表出させつつ、犯人に自らの居場所がバレてしまうという、進行上のガソリンにもなっている。

・敵の撃退方法も示唆的。一人目はアーミッシュの環境を活かして戦うが、二人目は彼らが忌み嫌う銃を使うので部外者感が出てしまう。

・最後、敵を倒すのではなく、心を折るシーンがかっこいい。

・親友の刑事さんがあっさり退場してて悲しい。もう一展開あると思っていたのに。

(U-NEXT)

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

劇団怪獣無法地帯『ねお里見八犬伝』

2020-08-24 22:19:00 | 演劇を見てきた

2020/8/15


・犬の名を冠する正義の剣士たちが、玉梓率いる悪の軍団と戦う、特撮ドラマ風の時代劇。

・マスク、検温、手足消毒必須、途中換気、個々の客席間隔広め。演者全員にマウスガード。終演後は混雑回避のため列ごとの時間差退出。

・札幌演劇シーズン内で感染症対策のノウハウをシェアしたうえで、マウスガードの有無みたいに、作品に合わせて微調整している感じ。

・リスクをゼロにすることはできないので、万が一、感染したとしても飽きらめのつく程度の対策が取れているかどうかが今後の基準になりそう。

・開演前にお馴染みの棚田さんの前説。コンカリでは初めて見たかも。いつものように緩い感じでお客さんの緊張をほぐしている。

・かと思ったら出演者の体調不良(新型コロナではない)で、さらりと棚田さんが代役になることが告げられる。

・みんな当たり前のように受け止めた雰囲気あったけど、いくら演出でも年格好が全然違う役者さんの代役で緊急登板できるのはやっぱりすごい。お客さんによっては見所が増えたぶん、むしろプラスになっているかも。

・完全にこちらの都合だけど、昼間あちこちウロウロしすぎた結果、とてもまったりした気持ちで見始める。

・加えて思ってた以上に南総里見八犬伝の内容を忘れていたり、登場人物が多かったりで、序盤うまく入り込めず。

・こういう時の休憩有りはちょっとありがたい。

・キャラクターで一番好きだったのは船虫。猫背のお婆さんなのに、足が長く見えるアンバランスさが、人ならざるもの感を強調している。

・サムスピに混じってても違和感ない。たぶんゲージためてめんどくさいコマンドしたら大蛇に変身できる。

・終盤のどんどん決着がついて敵味方の頭数が減っていくスピード感が楽しい。

・途中でマスクが外れちゃった時の対応。現場の一瞬の判断で動かなきゃいけないところで、ちゃんと動けているのはすごい。

・アナログ感のある演出も、手数が多いし、統一感があるし、堂々とやってるので、違和感なく見ることができる。積み重ねてきた経験値の賜物だと思う。

・ビームを撃ち合うときのポーズがホントしょうもなくて好き。

・見ているときはぼんやり楽しんでいたけど、後で思い返すとあれもこれも何もかもが恐ろしくアイディアと手間のかかっている作品で、気が遠くなった。

8/13 19:30の回)


コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

「LONELY ACTOR PROJECT特別編」(BLOCH AID24時間劇場イベントオンライン〜みんなの愛でBLOCHを救う〜)

2020-08-15 00:52:00 | 動画で演劇を見た(観劇三昧以外)

2020/8/12

お馴染みの一人芝居イベントを配信で。

恩田陸『みわ』。

男子高校生の恋の顛末を描いた話。

クリアな語り口とバネの効いた身体捌き。

ちょっと劇団柿喰う客の作品群を連想。

森舞子『テラリウム』。

運命の人と出会い、別れる話。

コミカル要素は控えめ。五七調を活かした進行と森さんの声質やリズムが心地よい。

今の時世との重なる終盤の言葉選びもうまくいっていたと思う。

桐原直幸『熱血鮫島刑事の事件簿』。

鮫島が新人と奇妙な事件を解決する話。

ステレオタイプをこなすにも技術がいる。

類型の多い作品なので最後の突飛な展開もアリかも。

ひらりそあ『祭はリバーサイド』。

女の子がデート相手と出会えない話。

信じるも信じないもあなた次第の井上悠介くんらしい題材。

演技が初々しさ込みで自然。

前後の説明が額縁代わりになっていて、オチのない話をきれいにまとめていた。

MCは野村大さん。

全然仕切る側の人ではないけど、人を安心させる声質と話し方はさすがだった。


コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

yhs『ヘリクツイレブン』

2020-08-09 22:48:00 | 演劇を見てきた

2020/8/5

・接待サッカーで町役場チームの職員が一人で八百長に反対する話。

・マスク、検温、手足消毒必須、途中換気、客席の最前列を舞台から離す。個々の客席も間隔広め。終演後は混雑を避けるため列ごとの時間差退出誘導。

・それでも感染するときはするんだけど(リスクゼロはありえない)、普段の生活時よりも気が使われているので、ここで感染するなら他のどの場所に行っても感染するだろうくらいには思える。

2013年にも同じ演目を見ているので話の内容は大体把握済み。

・全員で勝利を目指すというゴール設定がわりとルーズ。

・それこそ「十二人の怒れる男たち」のような有罪無罪や評決一致みたいに白黒はっきりするようなものではないので、ストーリーというよりもシーンごとに楽しむ感じになる。

・状況的には口だけで真剣勝負を引き受けて、実際には適当にやって負けるのがベターな感じはする。真剣かどうかなんて外から見てる分にはわからないんだし。 八百長も真面目にやればたぶん楽しい(体制派)。

・インパクトのある見た目と実在してそうな感じを両立させている杉山。体型から逆算する全盛期に影響受けたであろうサッカー選手の風貌となんとなく重なる。そこを逆手にとったギャグもいい。

・ハンドボール風の滞空時間の長いフォームでスローされるバナナ。まさかサッカーが題材の話であんな綺麗なスローイングが見られるとは。

・武蔵の手をパンパン叩いて笑う動きが意味不明すぎて好き。腰巾着の追従も、意味がわからなくても関係性は見えるという良い塩梅。

・何気ないシーンやセリフでも必ず一工夫入れてくる櫻井くんの演技。話の中心なのであんまり遊べない役だと思うけど、それでも演技の手数が多くて飽きない。

・最後のリフティングのシーンが好きすぎる。劇団の最年長クラスに一人二役でさんざん負荷をかけておいて、最後にリフティングを百回やれという。前回も思ったけど、考えた人は鬼だと思う。

・劇場で見る面白さが突出したシーンでもあった。離れていても伝わってくる演者の緊張感はもちろんのこと、上手下手に控えるガードマンがわずかな異変で身構えるし、横を見ればお客さんがみんなカウントに合わせて首を動かしている。この劇場内の一体感ときたら。

・結果は90回だったけど、100回成功バージョンは前回見ていたので、個人的にはこれでよかったのかもしれない。

2020/8/4 19:30

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

城定秀夫監督『アルプススタンドのはしの方』

2020-08-06 00:21:00 | 映画を見てきた

 

2020/8/5

・甲子園の全校応援に駆り出された演劇部二人が、試合観戦を通して辛い過去を乗り越えようとする話。

・原作は高校演劇。舞台版は映像で見ている。

・元々60分弱の話が75分。映画としては短いけど、この題材では長い。描写のタイトさも魅力の作品なので、追加の15分をちょっと心配する。

・演劇部二人と元野球部一人の会話がスムーズ。普通にやってるように見えるのがすごい。舞台役者的な会話スキルが高い。

・カット割が気持ちいい。リズムと間を作りながら、観客の呼吸のタイミングをコントロールする。 舞台の臨場感を忠実に再現できている。

・先生の声の枯れっぷり。会話のリズムで気持ちよく見てたのに、急にフィジカルな要素をブチ込まれて笑ってしまう。うざいだけの先生に一手間加えて愛されキャラにする手際がいい。

・もうひとつの映画の脚色。真ん中からの反論。はしの方の視線だけだとバランス悪いという判断か。左右のバランスの悪いLINEの履歴が切ない。

・慎重で客観性を重視するブレーキ型の作演出と、情熱があって社交的なアクセル型の役者。劇団のひとつの定型だと思う。こういう関係性の劇団たくさんありそう。

・元々バランスが取れていいコンビだったんだろうなと思わせる関係性なのに、気の毒なくらいギクシャクしている。

・一歩間違えると「心に傷を抱えた二人が高校野球の試合に感動して回復する」という身も蓋もない結論になってしまう話。

・そうならないのは、登場人物たちが、高校野球の試合を通して自分と向き合う話になっているから。高校野球は触媒のようなもの。

・それはそれとして、初心者が特定のジャンルに触れるときに矢野くんのような身内限定のローカルな人気者を作るのはとても有効だと思う。

・唐突に出てくる実在の劇作家の名前が効いている。話が急にスクリーンを越えて現実に飛び込んでくる感じ。決め台詞っぽく言わないのが映画としてのバランスなのかな。

・舞台以上に自然かつ効果的、必然性のある音響演出。

・拍手が完全にカーテンコールのそれ。

・新型コロナの影響で似た環境の高校生がたくさんいるんだろうけど、みんなどうやって乗り越えていくんだろう。

・エピローグ。高校演劇を見るのが好きな人なら、思わず苦笑いしそうな見た目。やろうと思えばもっとそれらい絵を作れたろうに。お茶目。

 

パンフに原作戯曲掲載している。お得。

コメント (2)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする