夢の羅列<純真ダブルドリップカフェ>
夢の中で、
私は知り合いと4人でカフェに入った。
テーブルに座り、初めて来た50坪ほどの店内を見渡すと、
ブラウン、ベージュ、ホワイトを基調とした内装はなかなか落ち着いて好ましかった。
私はこの店をまったく知らなかったが、
昨日今日に出来た雰囲気ではないな、と思った。
たしかこの店では変わったコーヒーの淹れ方をするメニューがあるらしい。
それを飲んでみたくて、今日ここへ来たのだった。
「いらっしゃいマセ」
ずいぶんと背の低い店員がやってきて、注文を私たちに訊いた。
「ダブルショットのエスプレッソをアイスで、ホイップクリームを浮かべて」
知り合いの男が悪くない注文をした。
一見すると子供みたいな店員が私の方を向いた。
「えーっと、メニューの名前を知らないんだけど、
たしかダブルドリップのコーヒーがあるでしょ。なんだっけ」
座った私よりも背の低い店員はテーブルの高さあたりで目をパチクリとさせた。
(……おいおい。パチクリしてんじゃねーよ。オマエ店員だろ?)
私は内心そう思ったが、あらためて、
「あのさ、ちょっと変わったドリップするコーヒーがあるでしょ。それ」
……パチクリ、パチクリ。
(あ、そういう店か)
障害者。もっとポジティブな呼び方を知らないから障害者と呼ぶが、
この店はどうやらそのような人を従業員に使う企業姿勢であるらしい。
私は冷静になって目の前の、いや下のパチクリ君をよく見た。
(なんだコイツ。アリーマイラブのあのすぐ泣く子供弁護士じゃねーか)
<参照 Josh Ryan Evans>
あの子供弁護士はべつに頭は普通だったし、障害があったのかも知らないが、
このパチクリの子はちょっと自分だけの世界があるように見えた。
まっすぐ私を邪心のない目で見つめている。
私たちが「見ている」と書くと、相手の様子を伺うという意味が籠められるが、
この場合は、ただ見ている。純粋に私を見ている。そんな感じだった。
またそれは「見透す」という何か権威のようなものでもまったくなく、
生まれて初めて見たものが<私>であったかのように私を見ているのだった。
もしも誰かにじっと観察されたら私はきっとそれをあっさり中断させてやるのだが、
ただ見つめられる。それも虚ろな目でなく、純真な光の宿った目で見つめられる。
その対象となることには恥ずかしさを感じても、怒りは微塵もなかった。
なぜ恥ずかしいのか。
それは私がけっして純粋ではないからだろう。簡単だ。
全部ではないにしろ、一部が汚れていると自分で知っているからだ。
だから完全に真っ白な目を向けられると自分の姿に恥を感じるのだ。
かといって、その汚れが罪であるとも言い難く、
もし罪であるなら彼の目を私はきっと恐れたに違いない。
だから夢の中であっても私が純真な目に羞恥を感じたことは、逆説的に
私にそれほど罪はないということではないか。
いやある。ここはひとつ断言しておこう。
しかし罪を憎んで人を憎まずと言うではないか。
ブロンドの髪が柔らかそうで、いい子いい子してやりたくなったが、
れっきとした店員にそんなことも出来ないだろう。しかも、
ちょっとしたことでコイツはすぐに泣くから対応は慎重に、だ。
「えっと、コーヒーね。ホット。ホットコーヒーをひとつください」
私の注文を理解したのか、キラキラとした目で「うん」と頷くと、
小さな背中を見せてカウンターの方へ戻っていった。
ほんの短い出来事だったが、
私は本来の希望を果たせなかったが、
けっこう幸せな気分だった。
夢の中で、
私は知り合いと4人でカフェに入った。
テーブルに座り、初めて来た50坪ほどの店内を見渡すと、
ブラウン、ベージュ、ホワイトを基調とした内装はなかなか落ち着いて好ましかった。
私はこの店をまったく知らなかったが、
昨日今日に出来た雰囲気ではないな、と思った。
たしかこの店では変わったコーヒーの淹れ方をするメニューがあるらしい。
それを飲んでみたくて、今日ここへ来たのだった。
「いらっしゃいマセ」
ずいぶんと背の低い店員がやってきて、注文を私たちに訊いた。
「ダブルショットのエスプレッソをアイスで、ホイップクリームを浮かべて」
知り合いの男が悪くない注文をした。
一見すると子供みたいな店員が私の方を向いた。
「えーっと、メニューの名前を知らないんだけど、
たしかダブルドリップのコーヒーがあるでしょ。なんだっけ」
座った私よりも背の低い店員はテーブルの高さあたりで目をパチクリとさせた。
(……おいおい。パチクリしてんじゃねーよ。オマエ店員だろ?)
私は内心そう思ったが、あらためて、
「あのさ、ちょっと変わったドリップするコーヒーがあるでしょ。それ」
……パチクリ、パチクリ。
(あ、そういう店か)
障害者。もっとポジティブな呼び方を知らないから障害者と呼ぶが、
この店はどうやらそのような人を従業員に使う企業姿勢であるらしい。
私は冷静になって目の前の、いや下のパチクリ君をよく見た。
(なんだコイツ。アリーマイラブのあのすぐ泣く子供弁護士じゃねーか)
<参照 Josh Ryan Evans>
あの子供弁護士はべつに頭は普通だったし、障害があったのかも知らないが、
このパチクリの子はちょっと自分だけの世界があるように見えた。
まっすぐ私を邪心のない目で見つめている。
私たちが「見ている」と書くと、相手の様子を伺うという意味が籠められるが、
この場合は、ただ見ている。純粋に私を見ている。そんな感じだった。
またそれは「見透す」という何か権威のようなものでもまったくなく、
生まれて初めて見たものが<私>であったかのように私を見ているのだった。
もしも誰かにじっと観察されたら私はきっとそれをあっさり中断させてやるのだが、
ただ見つめられる。それも虚ろな目でなく、純真な光の宿った目で見つめられる。
その対象となることには恥ずかしさを感じても、怒りは微塵もなかった。
なぜ恥ずかしいのか。
それは私がけっして純粋ではないからだろう。簡単だ。
全部ではないにしろ、一部が汚れていると自分で知っているからだ。
だから完全に真っ白な目を向けられると自分の姿に恥を感じるのだ。
かといって、その汚れが罪であるとも言い難く、
もし罪であるなら彼の目を私はきっと恐れたに違いない。
だから夢の中であっても私が純真な目に羞恥を感じたことは、逆説的に
私にそれほど罪はないということではないか。
いやある。ここはひとつ断言しておこう。
しかし罪を憎んで人を憎まずと言うではないか。
ブロンドの髪が柔らかそうで、いい子いい子してやりたくなったが、
れっきとした店員にそんなことも出来ないだろう。しかも、
ちょっとしたことでコイツはすぐに泣くから対応は慎重に、だ。
「えっと、コーヒーね。ホット。ホットコーヒーをひとつください」
私の注文を理解したのか、キラキラとした目で「うん」と頷くと、
小さな背中を見せてカウンターの方へ戻っていった。
ほんの短い出来事だったが、
私は本来の希望を果たせなかったが、
けっこう幸せな気分だった。