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風間一輝「男たちは北へ」 早川書房
かつて三矢作戦計画なる机上演習が自衛隊で行われたことがある。中国・北朝鮮の軍隊が韓国に侵攻。それに対してアメリカ軍が反撃。さらにそれを受けたソ連軍が日本海に展開し、日本もこの紛争に巻き込まれるというシナリオに基づいての机上演習であった。
当時最大の仮想敵国はソ連であり、純粋な机上演習なら別に問題はなかったものの、その演習の存在そのものが政府自民党にさえ伏せられていたこと、演習の中にどうも軍事クーデター的要素があったこと、また想定された集団的自衛権の行使が憲法に抵触するおそれがあること、そんなことが国会を紛糾させ、ときの防衛庁長官小泉純也は辞任を余儀なくされた。そう、純一郎パパである。
さて、小説の舞台は三矢事件から20年以上経過した1980年代後半(年代の明記はないものの、ある建造物から年代は推定できる)。表沙汰になれば新たな火種になりかねない「北方方面緊急事態対処作戦」のコピーが運搬中のトラックから段ボールごと落下してしまった。幸い自転車で通りかかった男がその段ボールを拾ってコンビニに届けたが、どうせ余分に刷っているんだろうと、飛散した1部をメモ代わりに持って自転車に乗って行ってしまった。
男は、旧友に触発され、東京から青森まで自転車で行く途中だった。
上司の塚本一佐に命じられ、作戦のコピーを取り戻そうとする尾形三佐。何も知らずに北に向かう男。その作戦が単なるソ連侵攻に備えた作戦ではなく、北海道を軍事的に独立させうるクーデター作戦であることに三佐が気づいた頃、やがてこの二人に奇妙な友情が芽生え………。
小説的には、ありそうな話だし、年代が古いせいか、自転車乗りのくせに、実によく煙草を吸い、酒を飲む。どこかしら、それを恰好いい、と思うような古いタイプのタフを気取っている部分が少し鼻につく。自分に陶酔してる匂いがする。
「食事のすぐ後は強い酒がいい。俺はウイスキイをカップに注いだ。カップの中のウイスキイの中に、大熊座も小熊座も乙女座も、ゆらゆらと泳いでいた。
俺は星ごとウイスキイを飲み乾した。宇宙の切れっ端は俺の食道を焼きながら胃に流れ込み、躰の隅々に染み渡った」
みたいなとこ。
だが、それでも、読み終わると思わず地図を眺めてしまう。
自衛隊内部の陰謀と巻き込まれた男の物語ってだけじゃなく、自転車で北に向かう道中にさまざまな人の生き方が浮かび上がってくるからだ。
春のこの忙しい季節を抜け出せたら、ぼくもどこかに出かけよう。
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