さて、上の図の赤線のように九州から四国を横切り、伊勢に至る中央構造線(日本最大の断層である)は、東に行くと急に北上する。そのため、伊勢の南と群馬とが同じ三波川帯となる(その上の領域が領家帯。おおまかな言い方だが)。もちろん、群馬の三波川にちなんだ命名だ。
この三波川帯と領家帯とがはっきり姿を現しているところを露頭と言う。
日本各地に露頭は存在するが、紀伊半島の露頭はなかなかの規模(国の天然記念物)。
車は次第に山に入っていく。
広い国道は車通りがあるので雪が積もっていないが、山は次第に雪深くなってくる。チェーンを積んでいない。ずりずり滑りながらも、慎重に慎重に山を登っていく。
じゃーん!
通行止め。
写真は、帰りにもっと積もったらどうにもならなくなるので、とりあえず先にUターンさせたレンタカーのヴィッツくん。
仕方がないので、途中から雪の中を歩く。
ちょっと行ったところで、人気は一切なくなり、雪に残っているのは、獣の足跡だけ。
かわいいウサギの足跡らしきものに交じって、結構シャレにならない大きさの足跡と遭遇する。
大声で独り言を言いながら足早に進んでいく。向こうも人の声がする方へわざわざ出てこないだろう。
そしてようやく登りきって露頭にたどり着いて見たものは、雪!
そう、雪で隠れてしまって、断層がよく見えないのだ。
それでも左側のグレーの岩帯と右側の黒い岩帯との違いはわかっていただけるだろうか?
この断層帯に神社・仏閣が集中している。水銀と、それから地霊のせいかもしれない。不思議な雰囲気が伝わってくる気がする。
しばらくたたずむ。
人がいない。鳥も鳴かない。音という音を雪が吸い込んでいるかのようだ。
耳鳴りがするほど、静かだ。
恐ろしくて、恐ろしくて、自分一人で立つことができないほどだ。
かつて、闇はもっと暗く、鳴り響く人工の音は寺院の鐘くらいであった。
そんなとき、修験にしろ、生活のためにしろ、一人で山に入ることはどれだけの恐怖を伴ったものか。
そうした恐怖への想像力が疲弊してしまっているような気がする。
旅は日常で鈍化した想像力、感性を非日常的な世界から高めてくれる。
伊勢の旅も終わりに近づいた。
ヴィッツくんとともに松坂に向かう。