秋の七草のひとつの萩の花も日本の文化的な伝統に深く根を下ろしている。万葉集には142首も掲載されているということであり、秋の七草のうちではもっとも多い。「枕草子」の描写も心に残る。
九月ばかり、夜一夜よ降り明かしつる雨の、今朝はやみて、朝日いとけざやかにさし出でたるに、前栽の露こぼるばかりぬれかかりたるも、いとをかし。
透垣の羅文、軒の上などは、かいたる蜘蛛の巣のこぼれ残りたるに、雨のかかりたるが、白き玉を貫きたるやうなるこそ、いみじうあはれにをかしけれ。
少し日たけぬれば、萩などいと重げなるに、露の落つるに、枝のうち動きて、人も手触れぬに、ふと上ざまへ上がりたるも、いみじうをかし、と言ひたることどもの、人の心にはつゆをかしからじと思ふこそ、またをかしけれ。
また台風の後の萩の花の描写も忘れ難い。
野分のまたの日こそ、いみじうあはれにをかしけれ。
立蔀、透垣などの乱れたるに、前栽どもいと心苦しげなり。
大きなる木どもも倒れ、枝など吹き折られたるが、
萩、女郎花などの上によころばひ伏せる、いと思はずなり。
俳句の世界でも萩の花は数えきれないほどに登場する。「いにしへの女人の歎き萩こぼれ 伊藤敬子」。
(2019-06 東京都 神代植物公園)
ハギ(萩 Lespedeza)は、マメ科ハギ属の総称。落葉低木。秋の七草のひとつで、花期は7月から10月。
名称
「萩」は本来はヨモギ類(あるいは特定の種を挙げる資料もある)の意味で、「はぎ」は国訓である。牧野富太郎によるとこれは「艸+秋」という会意による国字であり、ヨモギ類の意味の「萩」とは同形ではあるが別字という。
「芽子」「生芽」とも字を当てる。
分布
東アジア、南アジア、北米東部、オーストラリアの、温帯・亜熱帯。
特徴
数種あるが、いずれも比較的よく似た外見である。
背の低い落葉低木ではあるが、木本とは言い難い面もある。茎は木質化して固くなるが、年々太くなって伸びるようなことはなく、根本から新しい芽が毎年出る。直立せず、先端はややしだれる。
葉は3出複葉、秋に枝の先端から多数の花枝を出し、赤紫の花の房をつける。果実は種子を1つだけ含み、楕円形で扁平。
荒れ地に生えるパイオニア植物で、放牧地や山火事跡などに一面に生えることがある。