雨。
梅雨らしい…
さて、今日も引き続きイタリアで見た展覧会のお話。
今回はFirenzeで開催中のこちら。
Verrocchio il maestro di Leonardo(ヴェロッキオ レオナルドの師展)です。
そう、タイトルにもあるように、ヴェロッキオと言えばレオナルドです。
その所以はこれでしょう。
ウフィツィ美術館のこの絵の前に来ると、必ずガイドはこのようなこと言います。
「これはヴェロッキオとレオナルドの共作です。左のの天使がレオナルドが描いたと言われているのですが、この天使を見て、ヴェロッキオは二度と筆を持つことはなかったんです」と。
これ、出所はVasari(ヴァザーリ)で、まことしやかに語られ続けていますが、事実ではないようです。
この展覧会に行って、その辺りが非常に良く分かりました。
不名誉な噂が先行し、何気にセリエBの画家のように思われがちですが、とんでもない。彼はれっきとしたセリエAの芸術家だったんです。
なぜならこれを見て下さい。
ヴェロッキオを取り巻く一流の芸術家たちの相関図で、非常に分かりやすい。
この図から考察すると、ヴェロッキオの師匠はDonatello(ドナテッロ)とDesiderio da Settignano(デジデーリオ・ダ・セッティニャーノ)、直弟子はPerugino(ペルジーノ)とDomenico del Ghirlandaio(ドメニコ・デル・ギルランダイオ)そしてレオナルド。ペルジーノの弟子に、Raffaello(ラファエロ)、ギルランダイオの弟子にMichelangelo(ミケランジェロ)がいるので、ヴェロッキオはルネサンス3大アーティストの祖、と言っても過言ではない、ということになる。これは決して極論ではないでしょう。
と分かったようなこと言っていますが、実はこの事実、ちょっと驚きでした。
これほどまでヴェロッキオが影響を与えていたとは、知らなかったんです。
展覧会はまずその師と考えられるデジデーリオ・ダ・セッティニャーノなどの作品と共にスタートします。
館内は一部の作品を除き撮影可能です。
Dama dal mazzolino,ヴェロッキオの作品
大理石なのに、何だか血が通っているようです。
この手の感じなんかすごいですよね。
女性の優しい雰囲気とは打って変わってこちらは
若きダヴィデ。ヴェロッキオのブロンズ作品の傑作の1つと言われています。
モデルはレオナルド、とも言われる美しいダヴィデ像ですが、こちらの
師と言われるドナテッロの影響は否めないと思うのですが。
この2体は普段なら同じ場所、バルジェッロ美術館で見ることが出来るので、比べてみると良いかと。
片足に重心をかけるという、ギリシャ彫刻の典型的なスタイルは、フィレンツェの3大ダヴィデ像のラストを飾るミケランジェロのものにも引き継がれている。時代は若干ずれていても、まさに”ルネサンス”を代表する彫刻ということが出来るわけです。
ドナテッロとの対比という点では、もう1点騎馬像をあげることが出来るでしょう。
ドナテッロのPadova(パドヴァ)のサンタントーニオ・ダ・パードヴァ聖堂前サント広場にあるGattamelata(ガッタメラータ)
Venezia(ヴェネツィア)のCampo Santi Giovanni e Paolo(サンティ・ジョヴァンニ・エ・パオロ広場)にあるStatua di Bartolomeo Colleoni(バルトロメオ・コッレオーニ像)
ドナテッロに比べて、こちらの方が動きがある。
こちら、「15世紀彫刻史の1つの頂点を示す記念碑的作品と見做すことができる」と言われている傑作。
残念ながらヴェロッキオの死によって、制作が中断。この前足をあげたポーズの鋳造が難しかったため、約10年完成までにかかってしまった。
この騎馬像も、レオナルドの手が入っている、と言われていますが、どれもこれもレオナルド…ってヴェロッキオが少々可哀想に思われるのですが。
ドナテッロとの師弟関係は、それほど明らかな話ではないのですが、対デジデーリオ・ダ・セッティニャーノはわりとはっきりした師弟関係が有ったことが明らかになっている。
会場でも対比して展示されていた。
デシデーリオの Giovane gentildonna(若い貴婦人)
こちらはヴェロッキオ
デシデリオはドナテッロほど日本人にはなじみがないが、ルネサンスの一流彫刻家。浅浮き彫りの使い方に、ドナテッロの影響が見られます。
彼らに共通するのは、古代への回帰。これこそルネサンスなのです。
彫刻の後は絵画へ移ります。
この頃のアーティストは分業制ではありません。
工房で絵画、彫刻などなど一手に引き受けました。
ヴェロッキオの工房は、当時フィレンツェにおいて最も大きい工房の1つでした。
更にヴェロッキオは鋳造、機械工学や、数学、音楽など様々な分野にも優れていたらしい。
そんな工房に才能が有る若者が集まって来ないわけがない。
何でも屋とは言え、ヴェロッキオが絵画に着手したのは結構遅め。
当時、アーティストは今のように自分の好きなものを勝手には作れず、注文主のオーダーに忠実に従い作品を制作していた。
だから、「ペルジーノの作品が全て同じように見えるのは、注文主がそれを求めたからで、彼に新しいものを生み出す才能がなかったわけではない」、と昔恩師が言っていたが、まさに注文有っての作品なのです。
だから、彫刻で名を馳せていたヴェロッキオの工房にわざわざ絵画の注文をした人がいなかったのではないかなぁ…
それでもその分野でも才能を発揮するわけだから、彼もまた”万能の人”だったのではないですかね?
1460年代は彫刻、金工の仕事が主で、絵画制作に入るのは1470年代。
1471から72年に製作された、通称Madonna di Volterra(ヴォルテッラの聖母)は15世紀の最高傑作の1枚と言われています。
ん?ってことは彫刻も絵画も一流ってことですよね。
またポスターにもなっているこれ
Filippo Lippi(フィリッポ・リッピ)を髣髴とさせますが…
フィリッポ・リッピもヴェロッキオの師匠と言われる芸術家の1人だ。
温かい雰囲気で光に満ちたこの画風が、ペルジーノを始め、ギルランダイオ、ひいてはラファエロまで引き継がれていくわけです。
これなんかBotticelli(ボッティチェリ)と見まごうけど…
実はボッティチェリはヴェロッキオとは協力関係にあったそうだ。
ヴェロッキオはたびたび手紙の中でボッティチェリについて、描写が単調など絵画に対する文句を洩らしていたらしいが、嫌いきらいも好きのうち?、ボッティチェリの作品をすごく研究していたようです。
おお、懐かしい。
これ、イタリアで初めてちゃんと見た2004年のPerugino(ペルジーノ展)で勢ぞろいを見て以来だ。
ペルジーノの「ジョヴァンニ・アントニオ・ペトラツィオ・ダ・リエーティの娘の潰瘍を治す聖ベルナルディーノ」
Pinturicchio(ピントゥリッキオ)の作品もある。
もう一人の弟子ギルランダイオは
ギルランダイオもペルジーノも後に大きな工房を持ち、ミケランジェロ、ラファエロの優秀な弟子を輩出するのだから、やはり当時のヴェロッキオ影響力はすごいものだったのだ。
遅咲きとはいえ、きちんと仕事はこなしていたんだろう。フレスコ画も描いている。
残念なことに保存状態は最悪。
ヴェロッキオに絵画の才能がなかったわけではない。もし才能がなければ、これほど多くの素晴らしい画家を輩出できるわけがない。
考えるに、ヴェロッキオはレオナルドの才能を見抜き、失望して筆を折ったわけではなく、得意なものを得意な人に、という感じで弟子たちに仕事を与えたのではないだろうか?
ミケランジェロだって、絵も描けたけど、彫刻は絵より優れた芸術と思っていた。ヴェロッキオだって、ずっと彫刻畑で働いてきたのだから、大工房の親方になったのだから、自分の好きな仕事以外は任せていたのではないか。
ヴァザーリめっ…名誉棄損で訴えられるよ。
絵画の最後に、ヴェロッキオの工房を引き継いだ弟子のLorenzo di Credi(ロレンツォ・ディ・クレディ)
ピストイア大聖堂のために描いた『Madonna di Piazza(広場の聖母)』
ロレンツォ・ディ・クレディは最初はレオナルドに影響を与え、後年はレオナルドに影響を受けた画家。
ヴェロッキオがコッレオーニ像の製作のためにVeneziaに移ったあと、工房を引き継ぎます。
工房を託すくらいだからきっと弟子として非常にかわいがっていたのでしょう。
ヴェロッキオの死後中断していたバルトロメオ・コッレオーニ像も彼に引き継がれる予定だったのだが、試作品を作る段階で別の芸術家に決まったことから、彫刻の才能はあまりなかったようです。
そして最後の方には、再びロンズ作品の傑作
イルカを抱くプット(天使)
蹴り上げた足、この動きが良いですね。素晴らしい!!
そして最後の最後に今回の展覧会の隠れた(?)目玉、レオナルドの彫刻作品(か?)がある。
テラコッタの聖母子像。
ロンドンのVictoria and Albert Museumに1858年から収蔵されていて、今回初めて貸し出されたもの。
う~ん、どうかな?レオナルドかぁ???
このスカートの襞が
レオナルドが描いたデッサンの襞に似ているということらしいけど…
この展覧会のキュレーターでもあるFrancesco Caglioti(フランチェスコ・カリオーティ)の説なのだが、彼曰く決定打はこの聖母の微笑みだというが…真相はいかに?
とにかく今年は何でもレオナルドだからね。
Verrocchio il maestro di Leonardo
7月14日までPalazzo Strozziで開催。
先日紹介したCrea Travellerの2019年夏号にも少しだけ載っていました。
興味深い展覧会だったので、図録が欲しかったのですが、もう荷物を増やしたくなかったので、今回は薄い冊子だけを購入、そちらを参考に書きました。
私は土曜日にリヒャルト シュトラウス作曲のオペラ"サロメ"(演奏会形式)を聞いてきました。指揮者はシャルル デュトワです。
イタリアに行った時はオペラ劇場は外観を見ただけで、中に入ってオペラの鑑賞はしたことがありません。イタリアは年末年始はオペラやクラシックコンサートはしていなかったようでした。その代わり、教会でコンサートをしていて、ローマでモーツァルトとヨハン シュトラウスのコンサートに行きました。
イタリアでオペラを観る時は大抵、安い天井桟敷席です。テレビでも時々やっていたので、それを観たりしていました。毎年、ミラノスカラ座は12月7日のミラノの聖人の日がそのシーズンの初日で、大統領なども訪れる一大イベントです。
カンサンさんはよくコンサートに行かれているようで、羨ましいです。私はなぜか日本の方が敷居が高くて、なかなか行けません。
過去ブログにコメント失礼します。
先月末Firenzeに行った際、アフリカ大陸からの熱波で猛暑でしたが、その最中ギリギリこの美術展観る事が出来ました。
Verrocchioって名前は知っていても(筆を折った事件)馴染みなかったですが、美しい大理石の彫刻素敵で生きているかの様でした。
レオナルドの聖母子像も観ましたが、本物だとしてもやはり絵画の方が彼は活きる気がします。
もう少し時間かけて観るべきでしたが、暑さで休み休みでしたので。。。(笑)
お帰りなさい!お仕事お疲れさまでした。
そうですよねぇ、友人の旦那さんの上司が暑さ(熱中症?)で急死したなどとも聞いたので、普通ではなかったようですね。無事で何よりでした。
展覧会や美術館って、結構時間も体力も必要ですからやはり暑い時は厳しいですよね。
私も同感です。ミケランジェロは彫刻が芸術の頂点と考えていましたが(この時代のほとんどの人がそう思っていたようです)ダ・ヴィンチは絵画が一番と思っていたので、やはりそういうところで差が出るのでしょうね。