イタリアの泉

今は日本にいますが、在イタリア10年の経験を生かして、イタリア美術を中心に更新中。

キリスト磔刑図 ロレンツォ・ロット(Lorenzo Lotto) a Monte San Giusto

2019年04月24日 10時10分16秒 | イタリア・美術

イタリアに住んでいた時、自分の足と公共交通機関のみであらゆる場所へ行っていた私ですが、どうしても車でしか行けないところがあるわけです。
特にこの国は土日(土曜日はまだましだけど)動くのが大変。
自動車社会なので仕方がないのですが。
そんな場所は大抵タクシーもなくて、結局諦めていたところ、今回友達の息子さんが泊まりで出かけることになり、車で遠出が出来ることになりました。

Perugia在住の彼女に「どこ行く?」と言われ、まず思い浮かんだのがMarche(マルケ州)。
日本人にはまだまだなじみの薄いマルケ州ですが、芸術の宝庫なんですよ。
この地には私の大好きなCrivelliとLorenzo Lottoの作品がわんさか有ります。
が、とにかく行きずらい。
美術館に収まっている作品はまだしも、元有った場所にそのまま置かれているものは、今では「なんでそんなところに、そんな素晴らしい作品が?」と思うくらい辺鄙な場所が多いんです。
ということでこのチャンスに、行きずらいところがっつり回って頂きました。

Crivelliの話はあとにして、まずLorenzo Lottoでございます。
Monte San Giustoという街のSanta Maria in Teluslano教会に彼の素晴らしい作品があります。
街の中心でどこかなぁと思っていたら、どこからともなく親切なおじいさんがやって来ました。
まぁ、小さな町に行くとよく有ることなので、そういう時はあまり警戒せず、親切に甘えます。
ただ人を良く見ないと、女性は危険(とまでは言わなくても不愉快な)な目に合うこともなきにしも有らず。
もうたっぷりおばさんの域に突入している私をもしつこく誘ってくるイタリア人はいますからね。
そんな時は適当にかわしてしまえば良し。
このおじいさんは本当にただの親切で、街を愛していた方でした。まぁ、こちらも2人ですからね。
おじいさんの自慢は、2000年前の石碑


これはさすがに教えてもらわないと分からなかったで助かりました。
そしてこちらの教会が私たちが探していた教会。
Chiesa di Santa Maria in Telusianoもしくはdella Pietà

入口の垂れ幕で分かったことですが、2018年10月19日から2019年2月10日までLorenzo Lotto"Il Richiamo delle Marche"という展覧会が行われていたではないですか!?
私、10月いたのに何で気がつかなかったんだ。とほほ。
仕方がないのでカタログだけ購入しました。

教会が建てられたのは1513年から1529年、唯一の出入り口であるこの扉の上にはこの教会を再建させた司教のNicolò Bonafede da Monte San Giusto(1464-1534)の紋章があり、扉の上の梁には「Chiusiの司教Nicolò が再建しました」とラテン語で書かれています。
元はロマネスコ教会だったのを、1504年教皇Giulio II Della Rovere(ユリウス2世)が Nicolò Bonafedeを教区司祭に任命したことで修復が始まります。この教会だけでなく、Nicolò BonafedeがChiusiの司教に選ばれたことにより、この街はガラッと姿を替えます。生まれ故郷の街を、最先端のルネサンスの宮殿のような街へと変貌させたのが他でもない彼だったのです。
中に入ります。

ほ~すごいぞ。
内部はかなり新しくなっていますが、遠くから見てもこの祭壇画は素晴らしい作品です。
教会の中まで案内してくれたおじいさんは、「Lottoだけではなく、その下のピエタも良いから見てね」といいおいて去って行ったかと思いきや、再びどこからともなく街のパンフレットを持ってきてくれました。ホントに親切で街を愛しているんだな、と。感謝、感謝。
頂いた街の紹介のパンフレットには、きれいなフレスコの写真が載っていたのですが、おじいさんの話ではそれPalazzo Bonafedeの天井、壁の写真で、これもご自慢の1つなんだそうですが、これ、Norciaの教会が崩壊した、2016年10月30日にウンブリア、マルケ州を襲った地震のせいで今は見られないそうでも。
この地震、ウンブリア州のNorciaやマルケ州もVissoのようにどちらかというとウンブリア寄りのところの被害が多かったと、勝手に思っていたのですが、この先の行程でも地震でかなりひどい被害に遭っていた街が多いことを肌で実感するのであります。その話はまたおいおい。

Lottoの祭壇はオリジナルの額縁(というには豪華ですが)に入ったまま主祭壇に鎮座しています。

「キリスト磔刑図(Crocifissione)
4.26m×2.48mという大きな作品で教会を再建したNicolò Bonafedeがお金を出してLorenzo Lottoに描かせたもので1529-1530年に描かれたものです。
この劇場感がLottoらしいですねぇ。
この絵のパトロンは向かって左、一番隅に描かれていますが、しっかりと存在感を表しています。身に着けているのも、高位聖職者の衣装で、祈りを捧げているようなポーズを取っています。隣のいる羽根の生えた天使にまるで聖母マリアのそばに寄るように促されているようです。そんなNicolò Bonafedeを振り向きざまに見つめるようなSan Giovanniは息子の死のショックで気絶したマリアを抱え起こし、聖母マリアの周りをMaria di Cleofa(クロパの妻マリア)、Maria Salome(マリア・サロメ)Maria Maddalena(マグダラのマリア)の3人のマリアが囲んでいます。
彼らの後ろには、まるで登場人物が旋回するように並んでいて、Longinoが今キリストの左わき腹に突き刺した矢が縦の流れを生み出し、この絵に伸びを生んでいます。
今までLottoの作品は色々見て来ましたが、この作品はその中でもぴか一と言っても良い作品です。

実はこれ2016年から修復されていて、この展覧会に合わせて見ることが出来るようになりました。
どちらにせよ、前回は見られなかったんですね。

おじいさんに言われたこの絵の下に合ったピエタ


確かにこれ結構な代物です。
時代はこちらの方が早いですね。15世紀のものだそうです。この教会の前身Chiesa di Santa Maria della Pietà当時の唯一の遺物だそうです。
マリアの衣装の色の残り具合といい、苦悩の表情といい、詳しいことが知りたくなる作品ですが、サイト上には有益な情報が見つからず、資料は全て日本なので、何かわかったら追加報告させていただきます。

とにかくここはわざわざ行く価値の十分ある場所でした。



最新の画像もっと見る

コメントを投稿