イタリアの泉

今は日本にいますが、在イタリア10年の経験を生かして、イタリア美術を中心に更新中。

ペンネはツルツル?筋入り?ーpenne lisci o rigati?

2021年09月26日 14時02分21秒 | イタリア・食



昨年、イタリアがロックダウンに入った時に、こんなTwitterが話題になった。
これ、スーパーの棚が空になったことよりも、このペンネだけが残っていることを揶揄していて、「パニックがおこり、世界の終わりに供えている時でさえ、ツルツルのペンネに手を付ける人はいない」、というような説明を付けたものだから、あちこちから批判の嵐が起った。

なぜ、こんな話を始めたのか、というと先日よく役に立つコメントを頂く山科様のブログの「イタリアにマカロニはあるの?」という記事を読んだから。
マカロニについてちょっと調べていた時、先の嵐を知った。
イタリアのマカロニ、maccherone(単数:マッケローネ、複数:maccheroni マッケローニ)については後述することにして、この嵐の”ツルツル”対”筋入り”パスタ論争の顛末についてお話しましょ。

実はイタリア人、パスタは圧倒的に”筋入り"派が多い。
ツルツルのパスタが嫌われる理由は、(食感が)茹ですぎみたい、ソースがパスタに絡まないという理由らしい。
しかしこれは一般人の意見で、星付きレストランのシェフには、ツルツルしか使わないという人も結構いるようだし、8月にGINZA SIXに国内最大の店舗をオープンしたEATALY(イータリー)、彼らも「最良のパスタのタイプは”ツルツル”だ」と言っている。
そして、面白いのは2017年真のイタリアパスタを守る法である”legge di purezza sulla pasta"制定50年の記念で行われた調査で、パスタはイタリアを分断した。
南はツルツルパスタ、ローマより北は筋入りパスタを好むという明確な結果が出てのだ。
これはなぜ?

ちなみにこれがイタリア人が好きなパスタベスト10。
1位:スパゲッティ(spaghetti)
2位:筋入りペンネ(penne rigate)
3位:ネジネジのフジッリ(fusilli)
4位:筋入りのリガトーニ(rigatoni)
5位:蝶々のようなファルファッレ(farfalle)
6位:リングイネ(linguine)
7位:かたつむりのようなルマキーネ(lumachine)
8位:穴があいてるからブカティーニ(bucatini)
9位:短いリガトーニ?メッゼ・マーニケ(mezze maniche)
10位:幅広のラザーニャ(lasagne)

参考:https://cookmagazine.it/lunga-corta-liscia-o-rigata-ecco-la-top-ten-dei-formati-di-pasta-per-gli-italiani/

もし南イタリアだけでアンケートしたら、ここに必ず耳たぶ形のオレッキエッテ(orecchiette)や小さなチューブのようなditalini(ディタリーニ)が入ってくるに違いない。
この結果を見ても、イタリア人はショートパスタを圧倒的に好んでいるのはわかる。
それは北のイタリア人も南のイタリア人も変わらない。
ここでは中でも断トツ、一番好かれているペンネについてちょっと調べてみましょ。

元々ペンネはツルツルだった。
Ziti(ズィティ)という長いマカロニ、チューブのようなパスタが産みの親。

写真:Wikipedia
中心に穴の開いた、ツルツルのパスタで、ペンネはこれを短く切ったもの
現在のような万年筆の先のように切り口のペンネが生まれたのは、1865年、ジェノバのパスタ製造所でGiovanni Battista Capurroは、切り口が斜めになる機械を発明したから。
筋を付けたのは北のパスタ工場だ。
Martelliという有名なパスタ会社のオーナー曰く、筋入りが好まれるようになったのは、ツルツルが工場生産になってクオリティーを落としたから、だと。
Martelliではパスタ工場としては唯一筋入りペンネを作っていない。

写真:https://www.famigliamartelli.it/la-pasta.php
手作りのペンネはつるつるでもソースになじみ、筋入りよりも香る。
しかし工場ではパスタの乾燥温度は80度から120度、これは例えるなら鶏肉のバクテリアを殺菌するくらいの温度なため、パスタの本質、さらに重要なパスタの表面にある目に見えないくらい細かい気孔(porosità)が高温のためなくなるという。(気孔がたくさん開いていると、パスタを茹でた時水分がよく入り込む)
パスタに筋を入れたのは工場生産による品質の劣化を隠すためだとMartelliは言う。
筋を入れることで表面がでこぼこになり水分が表面につくし、でんぷんが残りやすく、アルデンテになりやすい。

結果、「イタリア人がツルツルのペンネが好きではないのは、所謂工場製品の品質のせい。
ツルツルペンネの名誉回復のために言っておくが、ツルツルペンネのせいではない。」というのがツルツルペンネを擁護する人たちの主な反論だった。
南のイタリア人がツルツルを好むのはMartelliのようなちゃんとしたパスタを食べているからなのかな?

ちなみにZitiはナポリで”ragù domenicale(日曜のミートソース)”に使われる。
ragù domenicaleは、土曜日に調理して、日、月と3日間かけて食べるのだが、とにかくソースが濃い。
すごく濃いのでパスタに筋が付いてなくても全然問題ない。
i paccheri alla genoveseという、バジルのジェノヴェーゼではないカンパーニャ州特有のジェノベーゼなど、とにかく濃いソースが多い南のパスタ料理ならではのツルツルパスタ愛なのだ。
またMaccheroni della zita(ズィータのマッケローニ)という料理もあるが、新婦が結婚式のランチために作るパスタ料理。

写真:https://www.vesuviolive.it/cucina/174791-maccheroni-della-zita-ziti-furno-cu-purpette-pummarola/

zitiとはトスカーナや他の地域では「若い女性」を意味するのだが、ナポリでは少々異なる。
le ziteとは彼氏がいない、日曜日に教会にも行かず、家でパスタづくりに夢中になる独身女性を指していた。
そのパスタがZitiと呼ばれるようになった。

私のナンバーワンツルツルペンネはこれ!

penne alla vecchia bettola
フィレンツェの老舗レストランAlla vecchia Bettolaの看板料理。
あ~もう何年も食べられてないなぁ…とほほ。
おっと、これレシピ発見した。
https://ricette.giallozafferano.it/Pasta-alla-vecchia-bettola.html
ウォッカが決め手なのねぇ…知らなかった。

”マカロニ”の話はまた次回。
参考:https://www.gamberorosso.it/notizie/storie/agli-italiani-le-penne-lisce-non-piacciono-proprio-il-parere-dei-grandi-pastai/



最新の画像もっと見る

2 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
THANKS (山科)
2021-10-02 15:38:05
記事ありがとうございました。
そうか南北での好みの違いがあるんですね。
シチリアのカサレッチェがつるつるなのは、それなんかなあ、、と思います。
返信する
いえこちらこそ。 (fontana)
2021-10-03 11:13:41
山科様
いえ、こちらこそありがとうございます。私も知らなかったので、勉強になりました。
カサレッチェはツルツルでもあのフォームでソースが絡むようになってますからね。ちなみにカサレッチェはアラブのパスタ”Busiate(ブジアーテ)”が元になっていると言われています。busiateはbus(busa?、buso?)と呼ばれた葦のような小枝に巻いて作られた、もしくは編み棒に巻き付けて作られていたのが名前の由来です。
返信する

コメントを投稿