イタリアの泉

今は日本にいますが、在イタリア10年の経験を生かして、イタリア美術を中心に更新中。

Paestum(ペストゥム) その1-両親とぐるぐる南イタリア 3日目

2016年05月18日 15時22分15秒 | イタリアの小さな街・大きな街(Fi以外)

昨日イタリア人の友に「(両親と)どこに行っていたの?」と聞かれ、
思わずPaestumを「パエストゥム」と答えてしまったところ、
「あんた、ラテン語勉強してたのに、忘れたの?」と怒られた。
この一言で初めてPaestumがラテン語で有ることを知り、それならこれはパエストゥムではなく”ペストゥム”が正しい読み方だと気が付いた…ので許してもらえるかな?
というのもこの初期ラテン語における二重母音は個々を発音せず”E”だけになる。(時代が下ると個々を発音するようになるのだが)
だからここはイタリア語では”ペストゥム”なのである。 

さて、同じような紀元前の遺跡でも、日本人にとってPompei(ポンペイ)やErcolano(エルコラーノ)程知名度が高くないペストゥムの歴史を少々。
元々この土地は紀元前600年頃にギリシャ人によって建設された植民都市でした。
古代ギリシャ人が入植した南イタリアの地域はMagna Graecia (マブナ・グラエキア、大ギリシャ)と呼ばれ、現在も古代ギリシャ語が話されている地域が存在する。
Magna Graeciaの正確な範囲については色々意見が異なるようですが、
紀元前8世紀から7世紀にかけてギリシャ本土が手狭になり、地中海沿岸各地へ移住して行きます。
とりわけ近かったシチリアには多くのギリシャ人が移住し、そのことによってシチリアは大きな発展を遂げるわけです。
この時期ギリシャ人が世界で一番進んだ文化を持っていたことは、改めていう必要もないでしょう。

”マグナ・グラエキアのギリシア都市は豊かになり勢力を増した。
代表的な都市には、カプエ(Kapuê, カプア)、ネアポリス(Neapolis, ナポリ)、シラクサ(Syracuse)、アクラガス(Akragas, アグリジェント)、スバリス(Subaris)などがある。
ほかにもターレス(Taras, ターラント)、ロクロイ・エピゼフィリオイ(Epizephyrioi Lokroi, ロクリ)、レギオン(Rhegion, レッジョ・ディ・カラブリア)、クロトン(Kroton, クロトーネ)、トリオイ(Thurii, トゥリ)、エレア(Elea, ヴェリア、現在のノーヴィ・ヴェーリア周辺)、アンコン(Ankon, アンコーナ)などがある。”(Wikipediaより)

最終的にはこれらの都市もローマ帝国に征服されてしまうのですが…
そんな植民都市の1つだったペストゥムですが、マラリアの伝染のためにローマ人がその土地から離れてからというもの、人々の記憶からも歴史からも忘れ去られていました。
こんな大きな遺跡の存在をどうしたら忘れられるのか?
そう思うのは当然私だけではなく、ポンペイの発見で有名な、”考古学の父”ヴィンケルマンは1758年にペストゥムを訪れた際、なぜこれほどの神殿が長らく人々の興味を引かないできたのかと、素朴な疑問を漏らしたとか。
そんな歴史から忘れ去られた都市ペストゥムが、日の目を見ることになったのは、ポンペイやエルコラーノの発掘が進められるようになってからというわけ。

朝9時過ぎの電車でサレルノからペストゥムへ向かいます。
電車は珍しく定刻通り発車。
40分程度で目的地に到着。
途中、車窓からこの土地の名物である水牛がちらほら。
あっ、名物は水牛ではなく、その乳から作られるMozzarella di Bufalaですね。
今回は時間の都合で訪問することはできませんでしたが、作りたてのモッツアレラが食べられるチーズ工場もこの辺りには多いようです。(私一人なら絶対行ってた)

ペストゥムの駅です。
何も有りません。
辛うじて券売機は有りましたが、行きの駅で往復の切符を買った方がいいと思います。
何せいつそれが故障するか分からない、とにかく信用のならない国ですから…
駅を出て、何の表示もないですが、間違うことはないでしょう。ひたすら駅を背にして真っすぐです。

本当にそんなでかい遺跡が有るのか?と思いたくなるくらいのどかな景色が広がっています。

畑~
しばらく行くと門が見えました。

”遺跡は4.5キロにも及ぶ外壁が二重構造になった城壁に囲まれ”とガイドブックに有りますが、
4.5キロは”にも”なのでしょうか?
他の遺跡に比べたら小さくない?と感じたのは私だけでしょうか? 

とにかくひたすらこの道を真っすぐ行きます。
20分位でしょうかいきなり前方が開けて考古学地区に到着です。
まず最初に目にしたのは

これanfiteatro、野外劇場ですね。
とりあえずチケットを買うために博物館へ向かいます。

チケットはここ以外でも2カ所の入り口で購入可能だと思いますが、クレジットカードで支払えるのはここだけではないでしょうか?
私はまだ一応学生なので、国立の博物館は大抵無料です。あ~いつまで使えるんだか?
あれ?ちょっとここで気が付いた
私が両親のために購入したチケットは
Biglietto Unico (Museo + Scavi、7ユーロ)だったのか?
それとも Biglietto Cumulativo (Museo + Scavi + Parco Archeologico di Velia、8ユーロ)だったのか???
1€しか差はないですが気になりますね。(手元にチケットがないので、確認できない)
というのもこれも今気が付いたのですが、普通はUnicoのチケットで良いと思います。
このParco Archeologico di Veliaはサレルノより南、ここからだと車で1時間くらいの別の遺跡でした。

父はこの博物館が”国立”ということで、非常に期待をしていましたが、そんなことのは騙されない私はどうせ大したことないだろうと、高をくくっていたのですが、
それがどうして、ここは非常に見ごたえが有りました。
それにしても誰かと一緒に博物館を回るのは苦手です…
ちなみにお手洗いはここか、2つの入り口にしかないのでご注意を。
父は「国立博物館のトイレなのに、鍵がかからない」と驚いていましたが、そんなことはこの国では驚くことではありません。
観光大国、観光客で生きている国なのに、いつになったら観光客に優しい国になってくれるのでしょうか???

そうそう、それからこの博物館には小さいですがブックショップも併設されています。
私はここで、一番安い地図も付いているガイドブックを購入しました。(1.5€。残念ながら日本語は有りませんが英語はありました)
それなのに、博物館を回った後、詳しい写真が欲しいということで、父がもう少し詳しいガイドブックが欲しいと言い出し、
5ユーロの説明が詳しいガイドブックも買ってしまいました。(でもこれは日本に行ってしまった)
ポンペイやエルコラーノには日本語のガイドも有りましたけどね。
ということで今回は色々なイタリア語の資料を使ったため、時間かかっちゃったなぁ… 

博物館に入ってまず驚いたのがこれ

セレ川河口近くの聖域ヘラ・アルジーヴァ(Hera Argiva)で発見された宝物庫を取り巻いていた33面のMetope(メトープ)。
Heraion alla foce del Sele、もしくはtempio di Hera Argivaは女神ヘラに捧げられたMagna Greciaの古い聖地。
この聖地から見つかったのはおよそ70枚の彫刻。
その中でも36枚が紀元前6世紀後半でより古いもので、オリジナル36枚のうち33枚を博物館で目にすることができるそうです。
残念ながら現在これらがどのように建物を装飾していたかまでは明らかになっておらず、一応神話の順番で並んでいるそうです。

 
実はこれ、2階から間近に見られるようになっています。
なんだろう、イタリア人時々すごいなと思います。

こんな感じで、目の前にある彫刻の簡単な説明が書かれています。

素晴らしいじゃないですか~

彫刻のテーマは入り口から向かって右側には

Apollo e Artemide saettano il gigante Tytois, rapitore della loro madre Latona(母レトを誘拐した巨人ティテュオスに弓するアポロンとアルテミス)から始まり、
ホメロス作と言われるIliade(イーリアス)や詩からのテーマが描かれています。
そして丁度裏側に当たる入り口向かって左側には mito delle dodici fatiche di Eracle(ヘラクレスの12の功業の神話)

左はEracle e Anteo(ヘラクレスとアンタイオス)
”アンタイオスは、リビアに住んでいて、屈強そうな旅人に戦いを挑んでは、相手を殺していた。そして、殺した相手から奪った宝物や相手の髑髏を、ポセイドーンの神殿に飾っていた。
ヘラクレスは黄金の林檎を求めて旅をしていた時、あるいはゲーリュオーンの牛を求めて旅をしていたときにリビアを通り、アンタイオスに挑戦された。
さしものヘラクレスも何度倒しても無限に復活する能力と無限に強まる力に苦戦をする。
しかし大地に足がついていなければ発揮しない弱点に気づき、アンタイオスはヘラクレスに持ち上げられ、絞め殺されてしまった。”(Wikipediaより)
右はErcole e i Ciercopi、悪人Ciercopiを逆さに縛って運ぶヘラクレス。
その他にもTroiano(トロイの神話),に加えてギリシャ神話のGiasone(イアソン)や Oreste(オレステース)から引用したテーマで彫られています。


ほとんどの彫刻が未完成で、背景を低く掘り込み、輪郭を深く掘り下げている。こうすることで彫刻自体がとても平面的に見えるわけです。
ということはたぶんこれらの彫刻には色が塗られていたのだろうということが推定できるわけですね。
そうしないと遠くから見る(普通は下から見上げる)わけだから、立体感が分かりずらいですからね。
残りのちょっと新しい30枚には踊る少女が彫られていて、こちらはbassorilievoという薄肉彫りというあまり凹凸感のない彫り方が用いられているそうです。(それはどこに有ったんだ?)

メトープがこの博物館に収蔵されたのは1952年で、これが発見されてすぐの事だったようです。
(博物館が建設されたのは1938年ですが、現在の形になったのは1952年と書いてありました)

どこをどう装飾されていたかに関しては現在も未解明、研究が続けられているようです。
例えばRoland Martinは38枚のより古いメトープは長方形でドーリア式の柱を持つThesauros (奉納された礼拝堂)の装飾だったとしています。
ここら辺は専門ではないので、この辺にしておきましょう。

他にも上に飾られていたものではないのですが

これ怖い…剣をお腹に突き刺しています。
ギリシャ神話にはからっきし疎い私です。
あっ、タイトル読んでこれギリシャじゃなくてトロイだった…Il suicidio di Aiace Telamonio、大アイアースの自殺ですね。
超リアル。

こちらはEracle uccide Alcioneo、アルキュオネウスを殺すヘラクレス。

他にもとにかく興味深いものがいっぱい。 

フレスコもいっぱい有ったのですが、その中でも特記すべきはこれでしょうね。

Tomba del Tuffatore(飛び込み男の墓)
実は右のは本物ですが、この”飛び込み男”だけコピー
なんと本物はNapoliの国立考古学博物館に行っています。
いや、待てよ、私は年末ミラノでこれを見た!
そうなんです、実はミラノで年末やっていたMito e Naturaという特別展、今Napoliに来ているそうで、
結局私はわざわざお金を払ってミラノで見たのに、Napoliでもう一度見ることになりました。(Napoliは無料だから良いんだけど)



この”飛び込み男”のこと本当はここに行くまで全然知らなかったんです。現物見たのに。
これって、紀元前480年頃の石棺のフレスコ画なんですよね。

こういう感じで石棺は装飾されていたわけです。
で、”飛び込み男”の描かれた石棺の他の4枚には葬礼絵画の題材によく使われる宴会の絵が描かれているのですが(死後の世界でも現世と同じような暮らしが出来るように)
蓋にはこの”飛び込み男”が描かれていたんです。
これはMagna Graeciaのギリシャ時代の唯一の絵画として非常に重要なものなんですね。
なんでこんなダイビングの絵が描かれてるかというと、
飛び込みは現世からあの世へ移動することを象徴的に描いています。

この作品(?)は1968年にペストゥムから2キロ弱の場所から発見されました。(その場所は現在Tempa del preteと呼ばれています)
割と最近の事ですね。(2000年以上の歴史に対してね) 
紀元前480年頃、ギリシャ絵画の最盛期の頃に描かれたものと推定され、 stile severoと言われる紀元前480年から450年頃の上絵の特徴にも非常に近いものがあります。
石棺の4側面は 北と南の長い側面には宴会の様子、
東、西の短い側面には人が歩く様子が描かれています。

例えば宴会の様子に登場する人々は2人組ずつで描かれ、それぞれ違うポジションで躍動感いっぱいで描かれています。

この北の側面には
cottaboという葡萄酒かけをする人(酒杯に残った葡萄酒の滴を的に命中させる、古代ギリシャ人、エトルリア人の行った占い)、チェトラ(diaulosという楽器かも)を演奏する人、 ベットの上に横になる(もしくは座って)大胆に会話する人が描かれています。
躍動感がまるで一組から隣の組へ流れるように伝わり、顔は正面向きではなく少し横を向いたtre quarti(4分の3)という技法をを使い、表情が豊かに描くことで生き生きと表現されている。
体は完全にねじらせることでより3次元に近い空間や動きを表現している。 

とまぁ、とにかくじっくり見ていたら1日かかっちゃう感じで。
帰りの電車、その後アマルフィへ向かわなければいけない関係で、お昼すぎくらいで見学を止めました。
が、予想以上に面白い博物館だったので、遺跡を訪れた際は必ず寄って欲しい場所ですね。

いやいや、一回で終わらせるつもりだったペストゥムですが、長くなってしまったので、遺跡と昼食はまた次回へ。



最新の画像もっと見る

コメントを投稿