イタリアの泉

今は日本にいますが、在イタリア10年の経験を生かして、イタリア美術を中心に更新中。

ミラノのブレラ絵画館、カメリーノの祭壇画(il polittico di Camerino)-Carlo Crivelli

2020年01月29日 17時01分39秒 | イタリア・美術

先日ちょっと話題にしたこちら。

ミラノのブレラ絵画館所蔵のPolittico di Camerino(カメリーノの祭壇画)
状態があまりよくないのでは、というご指摘を頂いた(この祭壇画のことでなかったらすみません。)のだが、数年前に実物を見た時はそんな印象はなかった。
ということで、修復履歴を探したところ、面白い動画が見つかった。
RRM 2014 - Pinacoteca di Brera: Trittico di Camerino, Carlo Crivelli
英語バージョンはこちら

ここからは英語苦手、イタリア語分からない人、そして私の記録のために。
先日書いたように、この作品は1811年ナポレオンによる文化財接収でミラノのブレラ絵画館に1811年に送られた。
1822年、多翼祭壇画は1つ1つのパートに分けられ、1831、32年にはcuspideと呼ばれる先頭部の2枚は、他の絵画と交換で別の場所へと行ってしまった。
この時期は、この祭壇画に限らず、多翼祭壇画を完全な形で保存しおこうというアイデアはなかったので、全てを取り外して、それぞれ額に入れていた。このカメリーノの祭壇画もご多分に漏れず、バラバラにされてしまった。

1824年、修復することになったとき、中心の3枚、San Pietro(聖ぺトロ)とSan Domenico(聖ドメニコ)、Madonna col Bambino(聖母子)、San Venazio(聖ヴェナツィオ)とSan Pietro Martire(殉教者聖ぺトロ)。
この3枚を新しい額に入れ、立体的な螺旋の柱をくっつけ、偽の斑岩を描き込んだ。
本来ゴシック様式だった作品が、この額に入れることで、ルネサンス様式に大変身!?

現代の修復では絶対ありえないけど、この時代は「ラオコーン像」の欠けた腕を想像で新しくくっつけたりして、”完璧”な修復が好まれていたから仕方がない。
今とは修復の概念が全く違っていた。
だって、これだけではなく、額に合わせてクリヴェッリが描かずに残しておいた部分に描きこんだり、punzoneと呼ばれる金型を使って模様まで加えちゃったから始末に負えない。
更にマントを留めるバックルや帽子に見られた黒い穴。実はもともとここには宝石類が埋め込まれていたと思われるが、そこにも同じように宝石を入れたり、とそこまで”完璧”に拘っていたらしい。
意図は分かる、でもねぇ…そこまでする?

この3枚で、一つの完成した作品に作り直したかったのだろう。
無知ほど怖いものはない。
これは19世紀のお話なので、まだ理解できるとしよう。
更にこの祭壇画の悲劇は続く。

1951年、前回の修復よりたちが悪い。
唯一ましなのは19世紀の額を取り外したこと。
ただ結局は板に張り付けてる。
最悪な結果となってしまったのは、絵の裏側に保護と経年劣化でたわんでしまった板絵を真っ直ぐにするため、支え木を横に渡したこと。
なんと表面に深い溝が発生。
次から次へと表面の色が落ち始めた…なんてこった。
仕方がないので、最終的に琥珀色のニスを塗り、色が落ちるのを食い止めようとしたのだが…

そんなひどい状態で迎えた2007年。
ようやく過去の汚点が取り払われる時が来た。
強制的に平たんな状態にされた支柱は取り外され、曲がりに沿って止められ、絵画を覆っていたニスは取り払われ、クリヴェッリが描いたもの以外は取り除かれた。

そして、2009年ブレラ絵画館で行われたクリヴェッリの特別展の時には、多翼祭壇画が再構成された状態で展示された。


中心:Madonna col Bambino(聖母子像) Milano, Pinacoteca di Brera
左:Santi Pietro e Domenico(聖ぺトロとドメニコ),Milano, Pinacoteca di Brera
右:Santi Pietro martire e Venanzio(殉教者聖ぺトロとヴェナッツィオ),  Milano, Pinacoteca di Brera
左上:Arcangelo Gabriele(大天使ガブリエレ), Francoforte(フランクフルト), Städel(シュテーデル美術館)
右上:Vergine annunciata(受胎告知される聖母), , Francoforte, Städel
中央上:Resurrezione(キリスト復活), Zurigo(チューリッヒ), collezione Abegg-Stockar
左下(プレデッラ):Santi Antonio Abate, Girolamo e Andrea(大アントニオス、ジローラモ、アンドレア), Milano, Pinacoteca di Brera
右下(プレデッラ):Santi Giacomo maggiore, Bernardino da Siena e Nicodemo(聖ヤコブ、シエナのベルナルディーノ、ニコデモ), Milano, Pinacoteca di Brera

あれ?こうなるとあのヴァチカン絵画館の「ピエタ」は上には持ってこれないじゃん???
う~ん、もう少し調べないといかんかぁ…



最新の画像もっと見る

2 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
ブレラ絵画館 (カンサン)
2020-01-29 19:43:25
fontanaさんへ、ブレラ絵画館には初めて行ったイタリア旅行(ツアーです。)の最終日に行きました。午前中だけ自由時間がありました。この時間にはここに行こうと旅行に行く前から決めていました。私が初めて一人で行った海外の美術館です。
観光コースには入っていないようで、朝、開館時間のすぐあとにくらいに行ったら、数人しかいませんでした。2回目のイタリア旅行の時に行ったヴァチカン美術館とは大違いでした。1階は絵画学校になっていまよね。そこの生徒さんに美術館の入り口を教えてもらいました。
fontanaさんのブログを見て、久しぶりにその時のことを思い出しました。最終日に行ったので、その2、3日前に行ったヴェネツィアの風景画を見て感激しました。たぶん、カナレットの絵だと思います。
返信する
一番最初 (fontana)
2020-01-31 16:48:36
カンサンさん
そうですね、ブレラはいつ行ってもそれほど混雑はないので、ゆっくり落ち着いて周ることが出来ますね。そして入り口は分かり難いですね。
返信する

コメントを投稿