数日前、気になる記事を見た。
「カラバッジョの失われた傑作か スペイン政府、競売を阻止」
なんでもスペインのマドリッドでオークションにかけられる予定だった作品が、スペイン政府の意向で停止された、と。
作品はこちら
写真:https://www.artribune.com/
この絵の主題は、「エッケ・ホモ ( Ecce homo)」、好んで描かれる主題の1つだ。
”エッケ・ホモ ( Ecce homo エッケ・ホモー) はラテン語で「見よ、この人だ」を意味するが、「この人を見よ」と訳されることも多い。磔刑を前に、鞭打たれ荊冠を被せられたイエス・キリストを侮辱し騒ぎ立てる群衆に向けて、ピラトが発した言葉であり、ウルガタ版ラテン語訳聖書の『ヨハネによる福音書』(19:5)を出典とする。”(引用:Wikipedia)
で、この作品オークションカタログにはスペインのバロック期の画家、ホセ・デ・リベラ(Jose de Ribera)の弟子の作品とされ、最低入札価格は1500ユーロ(約19万円)と記されていた。
ところが競売開始数時間前、ホセ・マヌエル・ロドリゲス・ウリベス(Jose Manuel Rodriguez Uribes)文化相が、この絵がカラヴァッジョ(Caravaggio)作品である可能性が示されたとTwitterにツイート、国外流出を憂いた国が急遽競売を中止させたという。
カラヴァッジョかぁ…
この画家は寡作だし、非常に人気がある。
謎に包まれた部分が多いので、割と頻繁に「カラヴァッジョか?」という作品が登場し、世間を賑わしている。
最近の話では、2014年にフランスの民家の屋根裏にあった古いマットレスの下から「ホロフェルネスの首を斬るユディト(Giuditta e Oloferne)」という作品が見つかり、2019年に競売に掛けられる2日前にアメリカ人収集家に売却されてしまった。
この作品に関しては多くの研究者はカラヴァッジョの真筆ではないと考えているのに…
では今回の作品の場合はどうか?
日本語の記事では全然情報が足りないので、イタリア語の記事を参照することにしよう。
たまたまこの作品を直に見て、真筆だと言っているイタリア人研究者を発見。
彼女はナポリ時代のカラヴァッジョについての論文を書くため、まさにこの作品を直に見るためにマドリッドに行っていた。
また現地にいるイタリア人美術商も同意見だという。
またプラド美術館しかり。
今回のオークションはマドリッド老舗オークション会社、Ansorena。
ここは主に国内の宝石や美術品を扱ってきた。
この作品は4月8日のオークションのカタログのバロック絵画のページに掲載されていた。
このニュースはイタリアのみならず、世界中へあっという間に広まった。
掲載内容は、「ロットナンバー229、タイトルは「茨の戴冠(L'incoronazione di spina)」、油彩、111×86cm、Jose de Ribera周辺の作。」
リベラはイタリアでも名が知られていて(イタリア滞在経験あり)Spagnolettoと呼ばれている。
最低売却価格は1500€。
このニュースに世界の研究者、コレクター、画廊オーナーなど美術関係者は大興奮。
というのもカラヴァッジョの作品に同じテーマで同じようなサイズのものがある。
えええ、これってカラヴァッジョじゃねぇ???となったわけ。
カラヴァッジョと考えられている同じテーマの作品はこちら。
写真:Wikipedia
Genova(ジェノバ)のMusei di Strada Nuova (Palazzo Bianco)が所蔵している。
ジェノバには何度か行ったことが有るが、この作品見たことがないんだよねぇ…
2019年に行った時は貸し出し中だったみたい。
こちらの作品も100%カラヴァッジョという作品ではないみたい。
ということで一部の記事には「ジェノバ対マドリッドの闘い勃発」なんて文字も踊っている。
カラヴァッジョのと思われる「エッケ・ホモ」が記録に現れるのは1657年、ナポリのViceré García Avellaneda y Haroの所蔵品カタログで、サイズが今回の物より若干大きい。
この副王(Viceré)が「エッケ・ホモ」をスペインに持ち帰ったかどうかは分からないが、1659年現在プラド美術館が所蔵するRaffaello(ラファエロ)のVisitazione(聖母マリアの聖エリザベス訪問)やまさにカラヴァッジョのSalomè con la testa del Battista(洗礼者ヨハネの首をもつサロメ)は国に持ち帰っている。
写真:Wikipedia
こちらはスペインの国宝になっているとか。
スペインにあるカラヴァッジョは全部で3枚。
これと、Santa Caterina d'Alessandria(アレクサンドリアのカタリナ)
写真:Wikipedia
そして他の2点よりはマイナーだけど、これもプラド美術館所蔵のDavide e Golia(ダヴィデとゴリアテ)
写真:Wikipedia
今回この作品がカタログに載ると世界中の興味が集まり、この”騒ぎ”をプラド美術館の館長は文科省に報告した。
すると文化相は大急ぎで専門家を呼び、会議を開いてこの作品をオークションにかけることを禁じた。
プラド美術館の専門家はこの作品をまだ実際には見ていないので、誰の作品なのか正確なことは言えないが、研究する価値がある作品だと言っている。
そしてスペイン政府は何も明らかになっていないけど、この作品の国外に売ることを禁止した。
個人蔵とされるが所有者は明らかにされていない今回のカラヴァッジョ(?)は、政府は国の重要文化財級の作品として、最良の保存方法を模索するらしい。
とにかく1500€ほどで売られて、どこへ行ったか分からなくなる前に競売を留めた政府の決定を英断と言うべきか?
今後の修復、研究が俟たれる。
参考:https://www.artribune.com/
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真贋については、うーん、どうかな? 多分違うだろう、という気がします。
なお、ジェノヴァのエッケ・ホモは2016年の上野西美カラヴァッジョ展に出品されたので、しっかり目に焼き付けました。確か話題になったあの恍惚のマグダラのマリアと同じ、最後の展示室だったと思います。(隣に並んでいたチゴリのエッケ・ホモより質が落ちるとか、向かって右側のピラトの顔がカラヴァッジョらしくないとか、真筆とするには異論も多いようですが。)下記URLのサイトにはチゴリの絵、マグダラのマリアも含め、写真が出ています。
https://www.fashion-press.net/news/20695
ジェノヴァには行ったことがありませんが、ビアンコ宮ストラーダ・ヌォヴァ美術館には私の好きなフィリッピーノ・リッピの聖セバスティアヌス・聖母子と2天使(フランチェスコ・ロメッリーニの祭壇画)があるので、カラヴァッジョのエッケ・ホモが来日していても、将来必ず行きたいと思っている町です。
映画、ローマの休日でアン王女が泊まった場所になったところは美術館になっていて、ここでもカラヴァッジョの大きい絵が見られました。
日曜日は天気が良く、奈良県の屏風岩に行ってきました。ヤマザクラが見ごろでした。帰りにオオルリも見られました。
コメントありがとうございます。
2019年にビアンコ宮には行ったのですが、フィリッピーノ・リッピを見た記憶がありません。エッケ・ホモもなかったし、もう一度行きたいですね。
バルベリーニ宮ですね。
そうですね、ローマにはカラヴァッジョいっぱい有りますからね。
ハナモモの花が非常にきれいですね。こちらはすっかり青葉になってしまいましたが、関西の方ではまだ春の花が沢山見られるようで羨ましいです。
私が特に好きなフィリッポ・リッピ、ボッティチェリ、フィリッピーノ・リッピという3世代の画家のうち、フィリッポ親方とボッティチェリの主要作品は大体見たので、次はフィリッピーノが目標です。ボローニャ、トリノ、ルッカ、ジェノヴァにあるフィリッピーノの絵が特に見たい作品。あとはコペンハーゲンとプラート再訪も。
プラドとスペイン政府の
sufficient documentary and stylistic evidence
というのが気になるところです。特に古文書のエヴィデンスというところが、
1976年に聖アンデレの殉教という作品がスペインからでて米クリーブランドに輸出されたのがトラウマになっているという話もありました。
コメントありがとうございます。
写真を見ても全く記憶になかったので、おかしいなぁとは思っていましたが、美術館に行ったのは一日中色々なものを見た後だったので、見落としたかなぁと思っていました。
この一年改めて再見したい作品やまだ見ていなかった作品について多数発見しましたので、次イタリアに行ける時は山ほど宿題がありそうです。「行けない」とネガティブに考えるより、いつか「行ける」ときの為の準備を今は楽しみたいです。(忘れないようにするのが課題ですが)
コメントありがとうございます。
「聖アンデレの殉教」については初めて知りました。非常に興味深いお話ですね。
今回の件については、イタリアの見解を少し載せようと思っています。
マドリードで発見された、カラヴァッジョ作とされる『エッケ・ホモ』は、1659年に『洗礼者ヨハネの首を持つサロメ』といっしょにナポリ副王がスペインに持ち帰ったという記録があるそうです。
前述のイタリア人のカラヴァッジョ研究者 Maria Cristina Terzaghi という人が、その記録について書いています。彼女以外にも、ほかのカラヴァッジョ専門の研究者の多くが、すでに真作だと考えているようです。
さらにマドリードのサン・フェルナンド美術アカデミーが、1823年にカラヴァッジョの「エッケ・ホモ」を現在のスペイン人所有者の祖先に譲渡した(実際には、その人が所有していた別の作品と交換した)という記録が出てきたそうです。
私もカラヴァッジョが大好きですが、今度新発見された作品は、描かれている3人ともナポリ時代のカラヴァッジョの様式に典型的だと思います。
初めまして。コメント&情報ありがとうございます。
今回はかなり真作という意見が多いですね。
どちらにせよ、これからしっかり研究が進むことを願たいですね。