イタリアの泉

今は日本にいますが、在イタリア10年の経験を生かして、イタリア美術を中心に更新中。

ヨーロッパの陶磁、ちょっと整理

2017年10月26日 16時11分44秒 | イタリア・美術

久々の秋晴れ~
こんな日はどこかに行きたいな!
とか思いながらも行った先は地元の図書館でした。
イタリアに居た時と大して変わらんな。
古い人間なので、資料はやはり紙が良い。
ということで数冊陶磁器に関する本を借りてきて、パラパラめくっていたのですが、どうやらいくつか整理しなければならないことが有る。

まず昨日紹介した


アルハンブラ宮殿のタイル。
これはラスター彩ではないんですと~!!
って嘘は半分。
実は現在は黄金の輝きを放つラスター彩は残っていないのですが、昔は有ったらしいです。
ちなみにこれは「タイル・モザイク」というらしいんです。
昔は一枚一枚はめ込んでいたらしいけど、莫大な時間がかかるのでやがて一枚のタイルに数種類の色を使いながら釉が混ざらないように工夫した多彩釉タイル(この技法をクエンカとクエルダ・セカという)が生み出されたそうです。
アルハンブラ宮殿のタイル・モザイクは色の種類こそ少ないけれど、パターンは千差万別、見ているだけで楽しかったわぁ。

そして今更ですが、ここで確認(自分のための)
ヨーロッパの陶磁は大きく分けると4種類。
・土器
・陶器
・炻器(せっき)
・磁器
”炻器”という種類は知らなかった。

そして陶器は釉薬によって
・鉛釉(なまりゆう)
・錫釉(すずゆう)
に分けられ

磁器は素材の種類によって、
・軟質
・硬質
に分けられる。

土器とは、
色のついた粘土を、釉薬をかけずに600から800度くらいの比較的低温で焼いたやきもので、新石器時代以来の長い伝統を持つ。テラコッタという素焼きはこの仲間。

クレタ島の北ティラ島(サントリー二島とも)から出土したイルカの絵が描かれた土器。
紀元前1600から1500年頃のもの。

鉛釉陶器とは、
色のついた粘土に、鉛を主成分とする釉薬をかけ、1000から1300度くらいで焼いたもの。
釉薬に銅を加えて緑色、鉄を加えて褐色や黄色を出す。
ヨーロッパでは古代ローマ時代に発展し、とくに中世の高級陶器の主流になった。

写真があまり緑に見えないけど、緑釉の貯金箱(箱ではないじゃん!右)と手付き杯。
16世紀のもの。

待て待て、釉薬って何なんだ?
「釉薬」は「うわぐすり」あるいは「ゆうやく」と読む。
釉薬は器の表面をおおって器を丈夫にしたり、やきものを美しく見せたり、水分がしみ込むのを防いだりする働きがある。
更には、「陶磁器の表面に付着したガラスの層」なんだそうです。
ガラスの層…だからつるつるになるのか?
ちなみに「エナメル」を調べたら「陶磁器の釉薬」という意味が書いてあったけど。
実用性と美観を兼ねた皮膜ってことかな。

そしてその釉薬にも色々あって、錫釉陶器は、
鉛を主成分とする釉薬に錫を加えて焼くことで、白磁にも似た美しい白地を出したやきもの。
9世紀頃イスラム世界に始まり、スペインなどを経由してヨーロッパ各地に広まった。
スペインのイスパノ・モレスク、イタリアのマヨリカ、オランダのデルフト、フランスのファイエンスと呼ばれる陶器はこの仲間。

ファエンツァ陶器の「色絵人物図アルバレッロ」
1480年頃のもので、聖フランチェスコが描かれた薬壺。

とここまで書いてみると、錫釉も鉛釉薬ではないかい?
錫釉薬も「鉛を主成分とする釉薬に錫を加え」ると書いてあるよ。

次は炻器、
耐久性の高い粘土を、1200から1300度くらいの高温で焼き締めた硬質のやきもので、英語でストーンウェア、ドイツ語でシュタインツォイクという。無釉の場合もあるが、ヨーロッパでは塩釉(えんゆう)をかけたり、エナメル彩色をほどこしたりしたものが多い。
12世紀頃から発達し、とくにドイツのラインラント(ライン川両岸地域)が優れた製品を生み出したことで知られている。

ケルンかフレッヒェンの塩釉炻器、塩釉浮彫り髭男装飾水差し
1525~50年頃

「塩釉」とは塩を使った釉薬なのか?と思いきや、これは釉薬を使わず、代わりに塩を使う技法なんですと。
焼成中、窯の内部に投入した塩が化学反応でガラス質の釉に変化し、艶のある特有の光沢を生み出すのが特徴らしい。

そしてラスター彩とは、
やきものの上に金を直接焼き付けるのではなく、銅などの金属酸化物と黄土などの混合剤を用いて焼き、表面に薄い金属製の皮膜をつくり、金にも似た輝きを生み出す技法。

ラスター・藍彩紋章付き皿
1469~79年
中央にカスティリャのイザベルとアラゴンのフェルナンドの紋章がある。
「イスラムを追放した王の皿」としても有名。

ということは、鉛釉の上にラスター彩するということになるわけだよね?
とちょっとここで不安だったのですが、小学館の『世界美術大全集東洋編17イスラーム』に
”ラスター技法は、錫白釉の地に酸化銀、酸化銅などを主体とした複雑な呈色材料で絵付を行ってから低火度で還元焼成させるもので、技術的には非常に難しい。”と書いてあった。※呈色:ていしょく。色彩を表すこと。
更にラスター彩は陶器よりまずガラスに応用されていたらしい。
ここら辺を調べ出したら余計ややこしくなるので、ガラスについても触れないし、磁器についても今は触れずにおきます。

こうして書きだすことでちょっと頭の中が整理できたかな?
どこか間違っていたら教えて下さいね。

参考は
「よくわかる ヨーロッパ陶磁の見かた 大平雅巳 東京美術」でした。



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2 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
ファイアンス  (山科 )
2017-10-27 10:09:08
ファイアンスでは、たぶん、混乱すると思うので、去年書いたものをここに再録しておきます。

ファイアンス 用語の混乱
どうもファイアンスという用語 普通名詞は2種類の、全く違ったものに使われているようである。
  ひとつは、イタリアのファエンツア(この知名がファイアンスの語原) でさかんに作られた陶器  ファイアンス焼き である。
https://commons.wikimedia.org/wiki/Category:Faience?uselang=ja
マヨリカ陶器の伝統をひいたものだという。錫釉 を使うものらしい。 大きな皿や鉢も多い。

  もう一つは古代エジプトを中心に西アジアで生産されたもので、小さなアクセサリーや護符、小物、小型の彫刻などにつかわれたもので、珪砂を成形してナトリウムが入ったアルカリ釉薬を使ったものである。 メトロポリタンの青いカバが有名である。  https://en.wikipedia.org/wiki/William_the_Faience_Hippopotamus
 この2つは、全く成分も製法も時代も違う。
  どうしてこういう混同がおきたのかわからないが、なんらかの整理は必要だろう。

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ありがとうございます。 (fontana)
2017-10-27 10:22:38
山科様
ありがとうございます。
丁度これからファエンツァについて書く予定で色々調べていたところでした。既にファエンツァがファイアンスに(名前が)変化したというだけで、つまずいた感じなのに、そんなややこしいことになっていたとは…陶磁器恐るべしです。
暫く陶磁器の話は続くと思うので、また教えて頂ければ幸いです。
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