マウンド上に集まり、抱き合い、輪となって人さし指を立てるポーズ。
「俺たちが日本一だ」
高校野球の優勝の情景。
この優勝を喜ぶ情景の始まりは、2004年の第86回選手権大会で南北海道・駒大苫小牧高校が優勝した時らしいです。当時、このポーズは衝撃的であり、かつ雄弁であったとともに、以降、高校球児の流行となって全国へ広がっていったそうです。2006年の第88回選手権大会では、その駒大苫小牧高の3連覇を阻んだ西東京・早稲田実高校も元祖の目の前で人さし指を立てていました。
まだ、今年の地方大会が行われていた7月17日の朝日新聞「声」のコーナーにある男性(75歳)からの投稿がありました。
「高校野球改善 四つのお願い」
高校野球は地方大会がたけなわ。ひいきチームの勝敗が気になる季節です。よりさわやかなものにするために、長年のファンから改善要望があります。二つ。決勝戦で勝って甲子園行きを決めた瞬間は、うれしいでしょう。しかし、マウンドに全員が駆け寄って一本指で天空を指すのは、はしゃぎすぎに見えます。相手チームに敬意を払うためにも、すぐに整列しませんか。
(ちあきなおみさんの「四つのお願い」にならって、四つを書こうと思いましたが、三つは省略しまして、本題のみとしました)
これに対して「どう思いますか」というテーマで、8月3日付け5人の方の意見が掲載されました。
「敗者の心中もわきまえよう」男性(79歳)
「わきまえる心の大切さを身に着けられると、もっと素晴らしい勝者の喜びを味わえるのでは」
「勝利の瞬間はしゃいでもいい」主婦(39歳)
「はしゃいだっていいじゃないですか」「その瞬間しか味わえない喜びや興奮、しっかり味わってほしい。だって勝ったんだから」
「うれしさ控えめの方が重みある」大学教員(59歳)
「対戦相手に不運なことがあってそれが勝敗を分けたといった事情がある場合、敗者のことも考え、うれしさの表現は少し抑えたほうがよいでしょう」
「ひたむきな努力は勝敗こえる」元高校野球監督(73歳)
「頂点に立った瞬間、気の遠くなるような練習のつらさを思い出して感動するのは当然です」「ひたむきに白球を追う努力のプロセスに、本当は勝者も敗者もありません」
「監督当時、常に相手を思いやるように、と指導しました」元PL監督中村順司さん
「高校野球は社会の縮図。マナーなどを学ぶ場でもあります」「試合を通じて思いを伝え合い、勝敗をこえて互いに敬意を抱く。それが高校野球の醍醐味です」
考え方は年代や関わって来た環境によって、人それぞれだと思います。また、時代とともに言動も移りつつあるので、一概に良い・悪いとは言えないと考えます。常日頃から、相手チームへ敬意を持って臨んでいるようなチームであるならば、相手には失礼にならないと思います。オリンピックだって同じだと思います。おぎやはぎの小木博明さんは、卓球男子の銅メダルの時のガッツポーズについて「相手も嬉しいと思うしね、ガッツポーズされると。『そんだけ俺に勝ってうれしいか』って。無表情の方がやだよ」と述べていますが、私も同感です。
さて、7月22日の選手権南北海道大会の札幌・円山球場決勝の試合終了の瞬間。
北海高の選手たちが青空に向かって突き上げた腕の先にあったのは、硬く握り締めた、グーだったそうです。
「北海には130年の伝統があります。僕たちは、人さし指や、指4本を立てるために野球をやっているわけじゃないんです」
ちなみに、指4本というのは、昨年まで東海大四高だった東海大札幌高です。優勝したときは親指以外の指4本を立てるそうです。ということは、東海大三高だった東海大諏訪高は指三本ということでしょうか。今度聞いてみようと思います。
また、TVなどで既にお気づきの方もいると思いますが、北海高の選手はガッツポーズや雄たけびをしません。
それは、相手に点を獲られたから、こっちが得点を獲ったからと浮き沈みしないで、試合をやっていくことを大事にしているそうです。ホームランにしても試合の中の1つのプレーだから、まだ試合に勝った訳ではないからだという。ガッツポーズをしないことが冷静なプレーに繋がっていると考えているそうです。1つのプレーに対して一喜一憂しないから、気持ちにムラがなくプレー出来る、打って喜んでしまえば油断につながり、打てなくて落胆することが次のプレーの精度を下げる。
平川敦監督は「野球は一回から九回まであるので、一喜一憂することなく、最終的にゲームで勝って喜び、嬉しさを感じなさいと言っています。1つのプレーで一喜一憂してしまうと、それが油断、勘違いにつながってミスをして、3、4点という失点となってしまう。そこを、4点を3点、3点を2点という風に抑えられれば、中盤から終盤に2、3回チャンスが来ると思うので、その時に畳みかけるようにと考えています。落胆して『あの時の1点を防いでおけば』とならないように心がけていますね」と言い、その教えが徹底されています。
また、エースでキャプテンの大西選手は「僕は相手打者を抑えて、ガッツポーズや雄たけびをしないです。野球は相手があって成立するスポーツですから、相手を敬うことを大事にしたいです」と言っています。
選手権大会出場37回という全国最多記録を持つ北海高野球部は1901年に創部し、北海道の高校野球の歴史とともに歩んで来ました。北海道高校野球界の先駆者として、流行に安易に流されない、ライバルのマネなんて絶対にしない。そこからも、強さが見えてくるような気がしました。
115年目の悲願の優勝まで、あと一試合。