注目はフィギュアスケート。だが今年は花形の女子ではなく、男子シングルの羽生結弦選手の復活劇が注目されていますが、ショートプログラムは大技の応酬戦となり、レベルの高い内容になりました。
男子フィギュアスケートのジャンプは、2010年バンクーバー・オリンピックでは4回転に挑戦しない安全策をとったエヴァン・ライサチェク選手が優勝し、2014年ソチ・オリンピックを制した羽生選手も、フリーで2度挑んで1本成功したのみでした。長く3回転ジャンプが主流であり、8度のジャンプを跳ぶフリーで、4回転は1本か2本跳べれば、十分世界チャンピオンになれるものでした。
しかし、その4回転ジャンプが、ソチ・オリンピック以降、フィギュアスケートの主流となってきました。
ひとくちにジャンプと言っても6種類あり、高度な順にアクセル、ルッツ、フリップ、ループ、サルコウ、トウループと難度に差があります。史上初めて4回転という技を手に入れたのは、1988年に米国のカート・ブラウニングさんが成功させた4回転トウループでした。ちなみに、私は1970年代前半に少年ジャンプから卒業しています。
そこから10年を経た1997年、2種類目の4回転サルコウをティモシー・ゲーブルさんが成功。その後20年間、偶発的に4回転ルッツを跳ぶ選手が現れるものの、長く4回転ジャンプは「できても2種類まで。1種類でも跳べれば世界チャンピオンを狙える」時代が続いてきました。
ところが、2014年ソチ・オリンピック以降、中国の天才ボーヤン・ジン選手が3種類の4回転を武器にフリーで3度、4度と4回転を成功させ、世界を驚かせます。1本跳べば10点以上の基礎点を稼げるスーパージャンプを何度も跳ぶことが出来れば、どんなに美しく演技を見せても、意欲的な音楽表現をしようと、勝てる見込みはなくなってしまいます。勝つためには、とにかく数多く4回転を成功させればいいという時代になっています。もちろん、観ている私たちも、4回転ジャンプを何回成功させるかという所に、どうしても主観が行ってしまいます。
同じ種類のジャンプをフリーでは2度までしか挑めないため、ジャンプの種類もたくさん持っていたほうが有利になります。
2016年春には、日本の宇野昌磨選手が4回転フリップを史上初成功。同年秋には、羽生選手が4回転ループを史上初成功。10年かけて1種類ずつ増えてきた4回転ジャンプが、アクセルを除いて5種類が出そろってしまいました。
さらに2017年9月には、米国の18歳、ネイサン・チェン選手が4回転ループに成功。ルッツ、フリップ、サルコウ、トウループを成功させていたチェン選手は、ひとりで5種類の4回転ジャンプを公式戦で成功させた史上初めての選手となりました。男子のジャンプはわずか3年弱で急激な進化を見せてしまい、まるでマンガの世界とも言えるかもしれません。
いよいよ、ピョンチャン・オリンピック男子シングルのフリーが行われますが、注目は間違いなく、SP首位の羽生選手を筆頭に、誰が、何種類のジャンプを何度成功させて勝つかでしょう。複数種類の4回転を自在に操る、世界でも4、5人のトップジャンパーに絞られてくると思います。
確かに4回転ジャンプをミスなく跳ぶ姿を見られると言うのも、トップの大会での面白さですが、一方で演技を楽しませて欲しいと思います。
かつて男子のフィギュアスケートでは、選手たちの個性や多様性を楽しめました。1998年長野オリンピックでは、三銃士のコスチュームとダルタニアンの曲で演劇的なパフォーマンスを見せたフィリップ・キャンデロロさん(フランス)が人気者となりました。バレエダンサーのような優美さで魅了するロシア選手、ハリウッド映画のヒーローを演じる北米の選手、カンフーを舞った中国選手などなど。
2010年バンクーバー・オリンピックのころには、ステファン・ランビエールさん、エフゲニー・プルシェンコさん、ジョニー・ウィアーさん、髙橋大輔さんらがフィギュアスケートという世界だけでなく、アーティストとして通じる選手たちが競演していました。今は、このような演技を見せてくれて、盛り上がりを見ることは少なくなりました。これも、フィギュアスケートの流れかもしれませんが。
でも、そんな流れの中、ケガからの復帰ぶっつけ本番戦となる羽生選手が、陰陽師「SEIMEI」でフリーを演じるかどうか今(16日20時)の時点では分かりませんが、今まで数々の日本人男子スケーターが挑戦しながら、認められなかった和風のプログラムで世界に認められた、感動を今度はオリンピックで見せて欲しいと思います。
羽生選手に「ジャンプだけがフィギュアスケートではない」ということ、スケーティングやステップ、音楽表現、演劇性、表現力などあらゆる要素がフィギュアスケートということをもう一度見せて欲しいです。
カミングバック! フィギュアスケート!!