第六十九首
あらし吹く 三室の山の もみぢ葉は
竜田の川の 錦なりけり
能因法師
(988-?) 俗名は橘永愷。もと文章生だったが、二十六歳の頃に出家した。各地を旅し、歌を多く詠んだ。
部位 四季(秋) 出典 後拾遺集
主題
竜田川に浮かぶもみじ葉の錦織のような美しさ
歌意
激しい風によって吹き散らされた三室の山のもみじ葉は、やがて竜田の川に散り、ほら、水面を錦織の布のように鮮やかに彩っているよ。
永承四年(1049)十一月九日の内奥歌合、村上朝以来の栄ある晴儀の内奥歌合のために、入念に想をこしらえてよんだまさに晴れの歌というべきもの。
歌を藤原長能に指示し、道済・公資・経衡らとまじわり、漂白の行脚に歌作した。家集に『能因法師集』。『後拾遺』以下に六十七首入集。中古三十六歌仙の一。