第六十四首
朝ぼらけ 宇治の川霧 たえだえに
あらはれわたる 瀬々の網代木
権中納言定頼
藤原定頼 (995-1045) 藤原公任の子。父譲りで和歌に秀で、能書家でもあった。中古三十六歌仙の一人。
部位 四季(冬) 出典 千載集
主題
霧の絶え間に網代木が見える宇治川のすがすがしさ
歌意
朝、だんだんと明るくなってくる頃、宇治川に立ち込めた川霧がとぎれとぎれに晴れていき、その霧の間から、しだいに現れてくるあちらこちらの川瀬に仕掛けた網代木よ。
「瀬々の網代木」 川の流れをせき、魚をとるための網代かける杭。
『源氏物語』の「宇治十帖」の世界ともなった宇治のあたり、山深く、貴族の山荘などのあった宇治の早朝のすがすがしい景色をよんだ叙景歌。
四条中納言とよばれ父をつぐ典型的な貴族歌人であった。物名歌にすぐれ、能書家であり、誦経の名手であった。『後拾遺集』以下に四十六首入集。中古三十六歌仙の一。