『短編小説 自由研究』 (プレビュー版)
今からもうずっと昔、僕が小学五年生の頃。一学期の終了式が終わったあと、僕は隣のクラスの歩美に、渡り廊下でいきなり声をかけられた。
「タカシ、夏休みどっか行く?」
「行かない。てか、いきなり声かけたりするなよ」
当時は男子と女子が立ち話をしているだけでも、付き合っているだのエッチだのと周りに冷やかされる時代だったから、僕は大あわてで歩美にそう返事をした。
歩美と僕は一歳の頃から知り合いだった。でも、学校で同じクラスになったのは二度だけだ。小学校に上がってからは、ことさら意識して僕のほうから声をかけないようにしていた。それでも歩美は、気紛れに僕に声をかけては、僕を振り回していた。幼馴染みなんていうものは大抵そんなものなのだろうと、当時の僕は思っていた。
「タカシ、もし夏休みヒマだったらさ。土ころび探すの手伝ってくれない? 今年の夏休みの自由研究にするから」
歩美は、僕の返事などおかまいなしに、大きな声で話を続けた。短いジーンズを履き、髪を短く切っていた歩美は、離れて見ると男子とほとんど見分けがつかなった。背は低いほうではなかったけど、彼女の胸はまだほとんど膨らんでいなくて、話し方も声も男の子っぽかった。もしかしたら通りかかった他の生徒からは、男子が二人で夏休みの予定を話しているように見えていたかもしれない。
「とりあえず話だけ聞くからさ、一旦帰ってからにしようよ」
僕は小声で歩美にそう告げると、肩に下げたランドセルを背負い直した。
「だったら、帰りながら話せばいいじゃん?」
まったく空気を読まずに、歩美が言った。そういえば彼女は、前に僕と同じクラスになった時、合唱のコンクールの練習の時間に
「この歌はキライだから歌いません」
と先生とクラスメイトに宣言して、結局、その後一度もその歌を歌わなかった。空気を読まないというよりは、自分が納得出来ない事には流されたくないのだろう。今だってきっと彼女は『つちころび』の話をしたくて仕方がなくて、他の生徒の目などどうでもいいのだ。僕はため息をついて、目立たない学校の裏門から歩美と肩をならべて、二人で家路についた。
「土ころびっていうのはね、妖怪の一種なんだって。サッカーボールくらいの大きさで、毛がモサモサはえてて、山奥でゴロゴロ転がるんだって!」
「それ、何の本に書いてたの?」
「おじいちゃんが死ぬ前に言ってたの。山奥で土ころびを見た事があるって!」
「歩美ちゃん、おじいちゃんのホラ話に騙されてるんじゃないの?」
「でも、おじいちゃん、私にウソついたことないもん!」
そんな会話を交わしながら、僕と歩美は学校の横の坂道をひたすら歩いて上った。
「続く」
※同小説「自由研究」の続きは、下記のサイト「erased memories」で掲載致しております。
篠原コウ 小説作品掲載サイト 「erased memories」
今からもうずっと昔、僕が小学五年生の頃。一学期の終了式が終わったあと、僕は隣のクラスの歩美に、渡り廊下でいきなり声をかけられた。
「タカシ、夏休みどっか行く?」
「行かない。てか、いきなり声かけたりするなよ」
当時は男子と女子が立ち話をしているだけでも、付き合っているだのエッチだのと周りに冷やかされる時代だったから、僕は大あわてで歩美にそう返事をした。
歩美と僕は一歳の頃から知り合いだった。でも、学校で同じクラスになったのは二度だけだ。小学校に上がってからは、ことさら意識して僕のほうから声をかけないようにしていた。それでも歩美は、気紛れに僕に声をかけては、僕を振り回していた。幼馴染みなんていうものは大抵そんなものなのだろうと、当時の僕は思っていた。
「タカシ、もし夏休みヒマだったらさ。土ころび探すの手伝ってくれない? 今年の夏休みの自由研究にするから」
歩美は、僕の返事などおかまいなしに、大きな声で話を続けた。短いジーンズを履き、髪を短く切っていた歩美は、離れて見ると男子とほとんど見分けがつかなった。背は低いほうではなかったけど、彼女の胸はまだほとんど膨らんでいなくて、話し方も声も男の子っぽかった。もしかしたら通りかかった他の生徒からは、男子が二人で夏休みの予定を話しているように見えていたかもしれない。
「とりあえず話だけ聞くからさ、一旦帰ってからにしようよ」
僕は小声で歩美にそう告げると、肩に下げたランドセルを背負い直した。
「だったら、帰りながら話せばいいじゃん?」
まったく空気を読まずに、歩美が言った。そういえば彼女は、前に僕と同じクラスになった時、合唱のコンクールの練習の時間に
「この歌はキライだから歌いません」
と先生とクラスメイトに宣言して、結局、その後一度もその歌を歌わなかった。空気を読まないというよりは、自分が納得出来ない事には流されたくないのだろう。今だってきっと彼女は『つちころび』の話をしたくて仕方がなくて、他の生徒の目などどうでもいいのだ。僕はため息をついて、目立たない学校の裏門から歩美と肩をならべて、二人で家路についた。
「土ころびっていうのはね、妖怪の一種なんだって。サッカーボールくらいの大きさで、毛がモサモサはえてて、山奥でゴロゴロ転がるんだって!」
「それ、何の本に書いてたの?」
「おじいちゃんが死ぬ前に言ってたの。山奥で土ころびを見た事があるって!」
「歩美ちゃん、おじいちゃんのホラ話に騙されてるんじゃないの?」
「でも、おじいちゃん、私にウソついたことないもん!」
そんな会話を交わしながら、僕と歩美は学校の横の坂道をひたすら歩いて上った。
「続く」
※同小説「自由研究」の続きは、下記のサイト「erased memories」で掲載致しております。
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