-ALKAN-

しどろもどろでも声は出るなり。

Drive my car 2

2017-11-29 15:33:58 | 日記
今病院から帰ってきました。

 結果、リウマチではありませんでした。じゃあただの筋肉痛、にしては治らなさすぎる。じゃあなんだ? この痛みは。

 とにかく、朝起きると、ひざの関節がバキバキに固まって動かない。何とか動かしてしばらくすると、痛みは多少和らぐが、またしばらくじっとすると、また固まって動かない。そんなに無理したかな? そんなにジジイ? いやいや、自分よりずっとジジイ……、いや、お年を召した先輩方も、立派に働いているのだから、自分が特別ジジイだとは思えないし、思いたくない。 真相の究明が急がれる。

 温泉でも行くか。車で。 るるぶで『リウマチに効く温泉』という特集があった。でも、私はリウマチではありません。じゃあ、何に効く温泉に行けばいいのか。ただの筋肉痛に効く温泉。あるかね、そんな温泉。

        -------------------------------運命の道を歩いてみよう(その17)---------------------------------


 及川は純粋で聡明過ぎる人間だった。疑う事も諦めることも知らず、お嬢様育ちで向う見ず、一度言い出すと聞かない、出来るまでとテコでも動かない。でもじっくりと努力を重ね、結果が出るまで頑張り通す。高校時代に所属していたダンス部でも、全国大会二位に食い込む大健闘を見せたが、悔しくてしばらく部屋から出てこなかったという。そんな話を、五島は及川の父親から、遺影を前にして聞いた。

「あの子は、目の前に目標を置くんじゃないんです。ずっと、ずっと向こうに、それこそ誰にも見えないほど向こうに、ポツンと一つ、とんでもない目標を置くんです。それまでの過程として、あの子はその時その時を生きていた。今になって思えば、そんな気がします。でもそれだけに、挫折の連続だったと思います。なんでそんな、つらい生き方を選んだのか……」

 悲しみが心も体も貫通したような、父親の様子はむしろすっきりとして見えた。目が潤むこともなく、ただ娘の笑顔の写真を、座った目線より少し高いところに置いて、神々しいモノの様に見上げている。

「その目標に、今はたどり着いていてくれるといいのですが」 

 及川の遺体はアフリカのケニアで発見された。しかし及川に日本を出国した記録もケニアに入国した記録もなかった。誘拐事件として捜査がはじまったが、現地で及川を見たという複数の証言から、及川はある日突然、真っ白な服を着てその町に現れ、数々の奇跡のような施しをしたのだという。長い間歩けなかったある者は、及川に支えられた瞬間から歩けるようになり、及川が道路傍に撒いた小さな種は、瞬く間に実り、リンゴのような実を付けたという。他にも、及川が乗ると、何年も動かなかったトラクターが動いたとか、頭を撫でると子供の熱が下がったなどの報告は後を絶たなかった。及川は会う人一人一人に小さな子供の形をしたキーホルダーを配り、その作り方と、日本語のある一言を教えたという。そのキーホルダーは今、家の守り神として各家々の軒下に下げられ、その日本語はあいさつの言葉となっているという。

 そうして一週間ほどその街で過ごした後、及川は「私はそろそろ故郷に帰ります。その前に少し休ませてください」と言って、自ら歩いて最後の床に就いたのだという。

 町に火葬の施設がなかったため、及川の遺体は陸路でナイロビに向けて移送されたが、その途中で行方不明となり、その代わりとして現地の石が骨壺には入っていると父親は教えてくれた。

「お父さんは、さつきちゃんが、本当に亡くなったとお思いですか?」五島はそう尋ねてみた。父親はゆっくりと目を五島に向けて、ええ、と頷いた。

「あの町の人々の証言が事実なら、それは本当に素晴らしい事ですし、その方がいいと思っています。その方が、我が娘らしいと」
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Drive my car

2017-11-29 12:16:51 | 日記
接骨院に行ってきました。明後日また行く予定です。

結局、私はリウマチなのかどうなのか、リウマチと言えば、不治の病という印象がある。不治の病か……。

今日は病院まで、久々に車に乗っていきました。いいね。車は。ドライバーだから、車は当然好きだけど、やっぱり車に乗ると癒される。

 今日の午後、検査の結果を聞きに病院まで、午前も午後も接骨院と病院。アカン、完全に病人や……。

 腹が減ったので、スパゲッティ食べます。

         ---------------------------運命の道を歩いてみよう(その16)-----------------------------------


「ほほう、百億個ぐらい売れたらそれも可能かもな」

「そうです、可能なんです。出来る人間が、出来る力を貸せば。そして将来は我々が彼らの力を借りるのです。これはそのための先行投資で、決して温情や慈悲で言っているのではないのです。モノを大切にする力や、その魅力を、我々から世界に広げることは困難です。お金持ちの日本人が綺麗事を言っていると、一笑に付されるだけです。それができるのは、今は貧困に喘いでいても、決してあきらめずに将来に夢を託す事が出来る彼らしかいないのです。お願いです社長、少しでいいんです。力を貸してください」

 だが社長はもはや相手にもしていない様子だった。そしてその顔には、この世間知らずで強情な小娘を完膚なきまでに叩きのめしてやりたいという意地の悪い表情だけがありありと浮かんでいた。

 確かに、会社の先行きは不安だらけで、ここへ来て、やや広げ過ぎた感のある規模を持て余している事も否めなかった。それは社の経営方針の見通しが甘かったせいでもあり、このままでは大手企業と正面衝突する事は避けられそうもない状態だった。それをどう舵を切るのか、シビアな判断が求められているそんな時、おとぎ話の様な話を真剣な顔で進めようとするこの小娘に、社長は社長としてではなく、個人的な憎しみを感じていたのだろう。五島も、感情的には理解出来ても、全面的に社長の意見に賛成だった。社長の言うとおり、及川の話は余りにも荒唐無稽で現実味がなく思えた。優しさや愛を盾にした面倒くさい屁理屈のようにさえ、その時の五島には感じられた。実際に会議の時間は押していたし、時差も大きいアフリカ諸国への対応は、ヨーロッパやアメリカに比べ、大幅に手間も時間も掛かる作業だった。それは五島だけではない、その場にいた全員の意見でもあった。

 そんな空気の中、社長は最後に吐き捨てるようにこう言ったのだった。

「民度も教育も低い国の人間は、人権がある分、正直動物よりも厄介だよ。紛争が始まってみろ。親の形見の石コロだろうが何だろうが平気で投げるさ、アイツら」

 その時、不覚な笑いが起きた。五島も自分の口元がわずかに緩んだのを覚えている。及川は澄んだ目でじっと五島を見つめていた。その表情には落胆の色も怒りの色もなかった。そこには傷つき黎明の海に静かに沈んでゆくクジラの様に純粋な悲しみの色があった。慌ててそらした五島の目に、育ちのいい、真っ白な及川の手と、その指の間からぶら下がっている、空き缶で出来たキーホルダーが見えた。

 それだったら、人だって、死ぬじゃない。

 おそらく五島にしか聞こえなかったであろう、それは及川の最後の言葉だった。そして及川は笑った。少なくとも五島にはそう見えた。でも果たして本当に笑ったのか、それは一生、誰にも訊くことは出来ない五島だけの謎になった。
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こんな小春日和の穏やかな日は

2017-11-29 07:00:55 | 日記
 使い捨てカイロの温かさが、膝に染みてくる。

 失職中の私は朝、テレビを見るのですが、もっぱら、Eテレで、にほんごであそぼう、えいごであそぼう、0655、シャキーン!、花かっぱ、でざいんあ、ピタゴラスイッチ、と、朝の一時間、過ごすわけです。ひょっとして、Eテレが一番面白いかもしれない。あとは、報道番組を、観ているような、観ていないような感じです。

 日馬富士はやっぱり引退ですか。 なんにせよ後味が悪いですね。リモコンかビール瓶かは、あんまり関係なかったようです。

 今日も接骨院に行ってきます。体硬いですねぇ、と言われました。そこそこ柔らかいつもりでいたので、ちょっとショックです。だって立位体前屈では、楽々両掌が床の付くんですよ。私。でも、硬いですねぇ、って。平均的日本人は、いったいどれだけ体が柔らかのでしょう。

         -------------------------運命の道を歩いてみよう(その15)----------------------------


 サンプル品を置いて部屋を出ようとした五島に社長は、いいから、君もいなさい、と言った。その言葉には(これから面白いモノを見せてあげよう)と言わんばかりの、とても意地悪い雰囲気が感じられた。テーブルに並んだサンプル品はどれも素材感がしっかりとあり、気取りも、媚びた感じもがなく、どこに置いてもしっくり収まるモノばかりだと五島は感じた。しかし社長はまるで汚いモノでも触るように、その中の一番小さなキーホルダーを指先で掴み

「例えばこれ。このキーホルダーを、君ならいつ、どこで使う?」そう言って及川の鼻先に突き出した。

「部屋の鍵をつけます」
「こんなイガイガの針金細工をポケットやカバンに入れるのか? 取り出しにくいだろ。第一すぐに壊れてしまう、鞄の裏地や携帯の画面を傷つけてしまうかもしれない」社長に摘ままれたキーホルダーは晒し物のようにみすぼらしく揺れた。それはヨーロッパでしか売られていない、炭酸飲料のアルミ缶を素材にして作った、アフリカの子供をモチーフにした人形のキーホルダーだった。決して上手とは言えない細工にはそれでも、独特の温かみと、仕事をする喜びが感じられた。サンプル品としてではあるが、おそらく及川は自費でそれらを買ってきたに違いない。

「そっと、キーホルダーが曲がらないように、注意して使うんです」及川はまじめな表情で、丁寧に説明するように言った。

「バカ言え! 邪魔だよ。そんなキーホルダーは邪魔なだけだ。キーの邪魔をするキーホルダーなんて聞いたことがない」

「キーホルダーを付ける理由はキーを失くさないためです。もしそのキーホルダーがとても大切ならば、そしてすごく壊れやすいモノならきっと、キーも大切に慎重に扱うでしょう。そうすればキーも紛失しないと思うんです」

「あのね、あのね、あのね、お嬢さん」社長はいらいらとした様子で言った。

「君は大切にするという言葉の意味を根本からわかっていないんだよ。きっと子供の頃から何もしなくても勝手に一方的に大切にされ続けていたからそんな馬鹿なことを考えるんだ。自分が大切にされるのが当たり前だから、自分が何かを大切にするのも当たり前だと、モノと人の区別もつかずに、暢気な錯覚しているんだ!」

「仰ってる意味がよく分かりません」

「いいですか、お嬢さん、何がどうあっても人間が一番大切なんだよ。そんな事は世界中どこに行っても当たり前の事なんだよ。道具はすべて人間のために使い捨てられるモノなんだ。何十年使おうが、結局捨てる。人間以上に大切なモノはこの世界のどこにもないんだよ。人間の役に立たないモノ、まして人間の邪魔をする様なモノは一切要らないんだよ」

「形見とか、遺品はどうでしょうか」
「話が全然違う。見かけによらずいやらしい人だね君は。自分だけはどうしても善人でいたいようだ。企画会議にどうして形見や遺品の話が出てくるんだ? うちは葬儀屋じゃない、それに形見や遺品よりも生きている親の方がいいだろう? お嬢さん。わかりますか?」

「それはわかります。でも幼い子供達には絶対に必要なんです。紛争で親を亡くしたり捨てられたりしたアフリカの子供たちはその場にあったの石を大切に形見として持っていたりするんです。それはただの石です。でもただの石ですか? いいえ、彼らの希望です。夢です。彼らに明日の保証はありません。でもそんな手で、彼らは喜々としてこういうキーホルダーや財布を作るんです。これはそんな彼らの未来の雫を、ほんの少し分けてもらったものなんです。みんな笑って言うんですよ。『これがいっぱい売れたら、都会の学校に通って、将来は医者になる、弁護士になる、大統領になる』って」
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