雑記；ブリッジのネジが外れそう

　題名を一読して頂ければ、それこそ一目瞭然であろう。そう、ギターの弦を留めているブリッジ部には、弦一本に対してネジが両側に一本ずつ差し込まれているのだが、そのネジが片方、取れかかっているのだ。一体、どれ程の外れ具合かと言えば、ネジの全長のうち、凡そ九割が飛び出ている。これはもはや、「外れた！」と大きな声で公言しても支障は無いほどの外れ具合だろう。

　そもそも、どうしてブリッジのネジは外れるのだろうか。筆者自身、今までにネジが外れた経験が無かったので、細かい理由については説明出来ない。ただ、確実に分かっていることもある。ネジは外の世界に羽ばたきたかったのだ。世界を知りたい、強い男の子になりたい、お姉ちゃんに誑かされたい、その強い思いの丈が、一気に溢れ出したのに違いないのだ。六弦左側のネジよ、うぬの定位置は四面楚歌なりか。

　感の良い人も、感の悪い(鈍い)人も、この時点で気付いただろう。今回の課題は、そのネジを、現在のところ話題騒然、空前絶後の酒池肉林であるところの、そのネジを、どうにか元通りに直したいのだ。それはつまり、元の鞘に納めたいということだ。この場合の元の鞘とは、諺としての意味ではなく、文字通りの意味である。敢えて言い換えるとすれば、定位置に戻したい、というところだろう。

　では、上記の通り、本来納まっているはずの場所から外れたネジを、つまりは外道と化してしまった不埒でやんちゃなネジ坊を、どうやって元通りにすればよいのだろうか。憶測の域を出ない案で申し訳ないが、締め直せば良いのではないだろうか。ネジを締めることに依り、その締められたネジはネジ穴と呼ばれる奈落へと帰巣して行くと考えられる。稚拙な結論で申し訳ないが、今回はネジを締めるという案を基盤として、解決に臨むものとする。

　ここで、ネジを締めるとは、端的にどういうことかを説明せねばなるまい。まず、工具を用意する。ドライバーや六角レンチが揃っていることが理想的であり、今回のような状況で特に必要なものは後者の六角レンチだ。それも、特にレンジの小さいものが良い。また、工具の利便性については説明不要なほど世間に浸透していると思うので、その利便性については解説しないことを了承してほしい。あとは、六角レンチでネジの頭部を押さえつけてやるのだが、その際にも多種多様な工具が、無いよりは有るほうが断然仕事も捗るだろう。なので、グラインダーやコンプレッサーなども、この機会に揃えてしまおう。さて、ネジ頭部を押さえたら、いよいよ締める作業に突入だ。心臓の弱い人は、先にＡＥＤで電気ショックを受けてしまおう。その際には、備え付けの剃刀で胸毛の処理をすることを忘れずに。ＡＥＤを使用したら、早速ネジを締める。ゆっくりと、それでいて落ち着き無くネジ穴という名の奈落へと押し込んでゆく。後ろから声を掛けられても、決して振り返ってはならない。そうすれば、全てが水の泡となって消えてしまうことは、目に見えている。懇切丁寧に、持ち前の慎重さでこの局面を乗り切るのだ。ここまで作業が滞りなく進んでいれば、おそらくネジの突出はもう八割を残すだけであろう。万全を期すため、一旦深呼吸と両足のストレッチを行うべきだ。ただし、この時も六角レンチはネジにあてがったままにしておくように注意すること。大きな目的を遂行するためには、小さな成功を勝ち取らねばならない。

　そろそろ、ネジを元通りに差し込めた頃だろう。初心者と低所得者には難しい(工具を揃えること)だろうが、慣れてくれば、ネジをネジ穴に差し込むという作業は、十分以内に完了してしまうのだ。信じられないという顔が目に浮かぶが、実際にプロはそれだけの速さで完成させてしまう。神業とは、まさしくこのことを言うのだろう。ここで、ネジに触れてみてネジへの想いが溢れ出している読者に朗報がある。今度、ネジ工場の見学会を開催しようと、とあるネジ工場が一心不乱に頑張っているらしい。インターネットから検索して、ネジ工場見学の実現に向けて是非とも署名しよう。

　あ、そうそう、最後にこれだけは言っておく。後半はほとんど嘘だ。