「本日の関東地方は穏やかな晴天に恵まれますが風が強いのでご注意ください。お昼のニュースと気象情報でした」
再びの雨と強風の中、鯉太郎は自力で木の枝から脱出していた。
無機質なアナウンサーの声がいっそう不安を煽る。
「風速9mって、素人が作った鯉のぼりにあまりに情け容赦無い。もう4回もヘルメット被って梯子登っているのに。」
GWに入ってから連日の豪雨と強風。
鯉太郎には試練の連続。
行き交う親子も見慣れたか、足を止めて見上げる姿も少なくなった。
それでも鯉太郎はロープから離されまいと必死に泳いでいます。
こどもに対する使命感とか、マンション内での承認欲求とか、そんな綺麗事はウソだ。
梯子に登ったり、ロープを張ったり、鯉のぼりの紐を調整したり、それ自体が楽しい。
「他人から見て微塵も面白く無い事に夢中になれる事が幸せだ」
そんなものなのだろう。
人の目を気にするから自分にウソをつく。
マンション管理人さんから、鯉太郎が木に引っ掛かかってしまっているとの連絡。
「今、行きます」
素直に楽しめ。
再びの雨と強風の中、鯉太郎は自力で木の枝から脱出していた。
「凄いよ、お前は。最強鯉のぼり!
竜門をくぐり抜け、竜になれ」
老夫婦と孫の女の子が雨に泳ぐ鯉太郎&コイ美ちゃんに手を振っていた。
彼方では雨宿りの親子が鯉太郎の写真を撮っている。
「鯉太郎、幸せ者だなぁお前は」