![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/7b/73/ead8d27c41e32ac323d88d33d960ec54.jpg)
・手続きも荷造りも、
みんな慣れていることではあるし、
成田出発は夜なので当日早く、
大阪空港から出ればよい
空港まではタクシーがある
新聞とミルクの配達をとめるよう、
連絡し、管理人に、
一週間の留守を伝えておけば、
それでよい
出発の前日、
長男の嫁に電話したら、
「あら、まあ、
ハワイへ!ハワイ・・・」
と悲鳴をあげた
「ハワイへ!
いいですわねえ、
お姑さんはうらやましいわ
ウチは今、受験の真っ最中で、
家じゅう、生きるか死ぬかの、
大騒動ですのよ」
それがどうした
私ゃ、三人済ませてきたのだ
孫の心配までしてられない
「それは大変やねえ、
まあ、しっかり
黙って行こうと思ったけど、
ま、何かあったときに困ると思って、
旅行社は××というところ」
「何時に発ちはるんですか、
お送りしないといけないけど、
ああ、困った、
ケンの二次試験と予備校の試験・・・」
「べつに来んでもよろし
慣れてるこっちゃさかい」
「いいえ、
そういうわけにはいきません
トシヨリを一人で発たした、
なんて・・・」
「そんな気づかいせんでよろし、
ほな、いってきます」
どうせ皆、
儀礼上いやいや来るのだ、
よけいなことされれば、
土産も買わずばなるまい
今日びはトランクもキャスターつきで、
非力な私でも持ち運びしやすい
夜になって、
電話が次々かかってくる
「一人で行くのんか、
危ないな、気ぃつけてや
何かあると、トシヨリ一人で、
出したと世間に具合わるい
なんでも勝手に決めて」
とぼやくのは長男
「ハワイなんて夢みたい
こっちは寒いけど、
あちらは泳げるんでしょうねえ
うらやましいわ
よろしいわねえ
青い空や青い海やら、
椰子の木やら・・・
私もお供したいわ
大丈夫ですか、お一人で
私、お世話係りについていきましょか、
淋しいでしょ」
次男の嫁はしんから羨ましそう
「団体ですよ、
ご心配には及ばないよ」
「外国で寝こまんといてや
金かかるそうやさかい
保険かけといてや」
というのはケチの次男
「ライター買うてきて
それからボールペンはクロス、
オーデコロンもたのむ
男性用いうたらわかる」
というのは、
あつかましい三男
でも結局、
役に立ってうれしかったのは、
ボーイフレンドの大学生、
泰くんだった
前に来たとき、
何げに話していたのだが、
忘れないで当日来てくれた
親父さんの車を借りて、
空港まで送ってくれる
さすがに軽々と、
スーツケースを運んでくれ、
「歌子おばさん、
泳げるんですか」
「泳ぎますよ、
若い人には負けないよ」
そんなことをいってると、
長男夫婦が息せききって現れた
嫁は、
「あら、間に合ってよかった、
お姑さんのお見送りしなきゃ、
義理がわるくて」
「義理で来なくともいいのに」
「そんなわけにもいきません」
長男も機嫌悪い顔
なんでこう若い者は、
古くさい義理や形式に、
とらわれるのか、
昔ならともかく、
今はあっという間にハワイに、
着いてしまうのに
そこへくると泰くんは、
簡単でいい
「バイ!アロハ!」
と笑って帰ってしまう
長男と嫁はけげんそうに見送り、
「誰です、あれは」
と長男がいう
「ボーイフレンドやがな」
「何をのんきなこと、
いうてますねん
こっちゃ午前中の会議もすっぽかして、
来てんのに」
「お姑さん、
これ塩混布と梅干、
それからこれは煎茶のティバッグです」
嫁は親切でしてくれて、
いるのであろうけど、
私ゃ塩混布や梅干なんぞ、
食べる気にもならない
せっかく常夏の島へ出かけるのだ
パイナップルやパパイヤ、
アイスクリームに肉料理を楽しむ、
つもりなのに
長男は、
「夏服はちゃんと入れたか
暑いいうて、
ユカタなんかでホテルの廊下へ、
出んように」
「私ゃ海外はなんべんもいってますよ」
「添乗員に一言挨拶しとく
いざというときにために
ワシ、名刺渡してくるわ」
長男がくると、
すべておおげさになってしまう
しかし集合場所へいって一驚した
意外に老人が多いのだ
まるで敬老旅行である
中には新婚らしいカップルもいるが、
七十代、六十代とみえる、
老人夫婦が多い
「若い者に負けず泳ぐ」
といったが、
この調子ではできるかどうか
私ゃ、
こういう敬老旅行とわかっていたら、
加わるのではなかった
改札口を通るときは、
ここでもあそこでも、
「お爺ちゃんいってらっしゃい」
「お婆ちゃん、気ぃつけて」
とかしましい
「お姑さん、
いってらっしゃい」
長男の嫁はそういったが、
それで終わればいいものを、
「後ろから見ると、
四十代ぐらいに見えますわ
ピンクのコートにピンクのお帽子、
紫色の靴なんて、
まあ、マサコも着ない派手なもの」
「あんたはまた、
後ろから見ると、
七十代くらいに見えるよ」
「私、シック好みなんですっ!」
シックなんて柄かいな、
モッサリしとるだけやないか、
嫁は社長夫人顔して、
収まりかえっているが、
社長夫人風にみられることだけに、
気を取られ、
自分が何を着たら楽しいか、
何を着たいか、
ということを忘れている
四十代の上流奥さま風、
西宮の高級住宅地夫人風、
嫁入り前の娘を持つ母親風、
大学受験の息子を持つ母親風、
そういうのにふさわしい、
恰好をしようと気を取られている、
だけのこと
だから金目のものを着ても、
ちっとも着手が生きない
後ろから見て七十に見える、
というのはここをいうのだ
マサコというのは、
孫の名である
やれやれ、
人のことはどうでもよい
ヒコーキに乗ればこっちのもんである
![](https://blogimg.goo.ne.jp/img_emoji/hawaii_beach.gif)
![](https://blogimg.goo.ne.jp/img_emoji/hawaii_beach.gif)
![](https://blogimg.goo.ne.jp/img_emoji/hawaii_beach.gif)
(次回へ)