我が家が以前駐車場を借りていた家は、私の周辺にかなり広大な田畑を持っていました。
持ち家は古い平屋でしたが、敷地はかなり広く、敷地続きに梨畑やブドウ畑がありました。
そのほかにも田畑があり、お米も出荷していたし、畑では色々な作物を作っていました。
その家のご主人はとても横柄で気難しい人だったので、奥さんはご主人をとりなすのに四苦八苦しているようでした。
ご主人の強い性格もあったと思いますが、この近辺を取り仕切っている感じで、昔からの地元の人はもちろん、私たち新参者もそのご主人に逆らう人はいませんでした。
すぐにかっとなって怒鳴る人だったので、うっかり機嫌を損ねるようなことを言えば、すぐに逆上して怒鳴ってくる人でした。
よく畑で怒鳴っているご主人を見かけました。
相手が誰であろうとお構いなしなので、周り中の人とのトラブルは日常茶飯事でした。
我が家の子供たちも含めて、近所の子供たちはみな、そのご主人から怒鳴られた経験があると思います。
娘がまだ保育園くらいの時のことです。
外で遊んでいた娘が大泣きしている声で飛んでいくと、そのご主人が怒鳴っているところでした。
息子や近隣に住む子供たちは茫然と立ったままでしたが、娘は突然怒鳴られたので、泣き出してしまったようです。
聞けば、子供たちが遊んでいてその家の畑に入ったということでした。
畑と言っても何も作っていなくて、見るからに空き地のような所で柵もなかったので、子供たちが入ったのをそのご主人が見かけて怒鳴ったようです。
「何も作ってなくたって、人が入れば、土が固くなる!」
ということでした。
聞けば、子供たちは畑に入って遊んでいたわけではなく、たまたまちょっと入っただけだったようなのですが。
翌日、その畑には柵ができました。翌日すぐに柵ができたので、びっくりしました。
一度、そのご主人とお隣の人が言い合いしている場面を見たことがあります。
そのご主人は、東京に住んでいる息子さん一家を呼び戻して、家の近くに住まわせるつもりで、畑をつぶして宅地にしようとしたのですが、その時にお隣との境界線の事で揉めていました。
結果はどうなったのかはわかりませんが、どちらの家もあんなにたくさん土地を持っているのに、たかだか数センチの土地の境界でもめるんだなと思いました。
そんなトラブルの果てに建った家ですが、息子さん夫婦は東京を離れることはなく、ただ建てただけの家になってしまいました。
そのうち、娘さん夫婦がどこからかやってきて、息子さんの代わりにその家に住むことになり、建てた家は無駄にならずに済んだようです。
子供たちが入って怒鳴られた畑は、結局最後まで何も作られる事はなく、米軍向けのアパートになりました。
アパートと言っても、日本の狭いアパートではなく、リビングダイニングは20畳近くあり、その他の部屋も1部屋8畳ほどの部屋が2~3室あるようなものでした。
そのアパートには、全室米軍キャンプの人たちが入居し、私の周辺は、外人さんが行き来して、かなり国際的な雰囲気になりました。
でも、それもアパートがきれいな間だけでした。
10年も経てば建物は汚れてきます。でも、全く手を加えることもしていなかったので、見た目は悪くなり、徐々に入居者は減ってきていました。
そんな時に、そのご主人が倒れ、亡くなりました。
脳卒中だったように思います。あれだけすぐにいきり立つ人だったので、突然、脳の血管が切れたんだと思いました。
たくさん土地を持っていた人なので、その相続税は大変だったのかもしれません。
ご主人が亡くなった後、持っていた田んぼや畑はすべて売りに出され、その後家が建ちました。
相続税に当てたという話を聞きました。
米軍向けのアパートはますます入居者がいなくなり、家賃を安くして日本人にも貸すようになりました。
でも、全く修繕しないままのアパートは、徐々に居住者がなくなり、家賃収入がなくなり、銀行の返済が滞ることになり、とうとう競売に出されることになりました。
我が家は、そのアパートの駐車場を借りていたので、車を置く場所がなくなるのではないかとずいぶん心配しましたが、駐車場の名義は長男だったということで、そのまま残りました。
今ではアパートのあった場所には、新しい家が16軒くらい建っています。
残された奥さんの住まいも抵当に入っていたらしく、それらも全部なくなってしまい、奥さんは、現在、娘さんと同居しています。
あれだけの広大な田畑を持っていた家でしたが、今では娘さんが住んでいる家と我が家が借りていた駐車場が残っただけになりました。
ところが、その駐車場も突然使えなくなりました。
娘さんの話では、駐車場は長男の名義で、今後は駐車場として使わないということだそうです。
私たち駐車場を借りていた家々が撤去して、その後、売りに出されるか別の使い方をするのかと思いましたが、駐車場は空いたまま誰も使う事がなく、何か月もそのままになっていました。
長男は、自分名義の土地を駐車場として貸して、妹や母親にその収益が入るのは面白くないのだろうと思いました。
でも、妹さんにしてみれば、自分たちが管理しているのに駐車場の収益を長男に渡すのも納得がいかないんだと思います。
兄妹の仲はあまり良くないように思いました。
仲が良ければ話し合いをして、お互い納得のいくような方法がいくらでもあるだろうと思いますが、話し合いにもならなかったようです。
我が家としては、当時は、突然使えなくなった駐車場で四苦八苦しましたが、今は、娘たちが来ることがなくなったので、特に駐車場を必要とする事はなくなりました。
でも、何かの時に時間貸しをしてくれる駐車場があれば良いなぁと思いますが、こんな田舎ではそんなことは難しいのだろうと思います。
土地を持っている人には、我が家が車一台を置くために四苦八苦している気持ちがわからないだろうなと思いますが、以前、子供会で一緒になった人が言っていたことを思い出しました。
その人はやはり、この辺の地主の奥さんでしたが、
「土地なんて持ってない方がどんなに楽だろうと思うわ。田んぼの仕事も大変で、早く解放されたいと思うわ。」
とため息交じりに言っていました。
田畑の仕事も大変なんだろうし、なまじっか持っていると相続という問題が発生したりもするんだろうと思いました。
なければないで困るし、たくさん持っていても持っている人なりの悩みがあるんだろうなと思いました。