旅行保険

少し前の話ですが、風邪で病院へ行ったときのことです。
病院の待合室で、順番を待っていたところ、派手なショッキングピンクのセーターを着た女性が入ってきました。
顔を見たところ、７０歳代くらいに見えました。
ばっちり、きれいにお化粧をした人でした。
待合室に、知り合いがいたらしく、
「あら～」
とお互い話をし始めました。

待っていた人が、
「元気そうに見えるけど、どうしたの？」
とピンクのセーターの人に言いました。
「北海道旅行をして、やけどをしたのよ。」
と言い、手の指を見せました。
人差し指と中指、二本に包帯が巻かれていました。
その人の話では、ツアーで北海道旅行をしたのだけれど、旅館で出された味噌汁を持った途端、おわんにヒビが入っていて、そこから、お味噌汁があふれて、手に触ったそうです。
「９０度もあったのよ～」
と言います。
その味噌汁が９０度あったというのは、どうしてわかったのかわかりませんが、
「おわんを持つ手を離したかったけれど、そこで離したら、味噌汁をぶち撒けちゃうし、我慢して何とか持ったのよ。そうしたら、やけどしちゃって。」
と言います。

私は、その話を聞いていて、それは旅館の不手際なんじゃないかと思いました。
割れたお椀に味噌汁をついで出して、お客さんにやけどをさせたのですから、旅館側から謝罪があったという話かと思っていました。

でも、話は、別の方向に行きました。
たいした範囲ではないけれど、指二本が水ぶくれになり、ピンクのセーターの人は、添乗員さんにそのことを話したそうです。
すると、添乗員さんは
「旅行保険に入っているから、病院へ通えば、保険が下りる」
と言ったそうです。
「あまりツアーの保険って入る人がいないらしいの。
大抵の人は、自分で保険に入っているでしょう？
それで、敢えてツアーの保険には入らない人が多いんだけど、私はたまたま入っていたのよ。
普通は１５００円くらいなんだけど、今回の北海道旅行の保険は１９００円と高めだったんだけど、一応入っていたのよ。」
と言います。
それで、１回病院へ通えば、保険から、８８００円下りるんだそうです。
それで、一生懸命通っているとか。
１０万以下の金額なら、診断書も要らなくて、
「これは、治るまで通うかなと思っているの。」
と言っていました。
その人は、会話からすると、７５歳以上らしく、病院の治療費は、たいしたことはなくて、それで８８００円もらえるので、
「主人は、『もっと高額な保険に入っていればよかった』なんて言ってるの。」
と。
話の様子からツアーのようなので、どのくらいの規模の旅行かわかりませんが、１０回通えば、旅行の費用の元がとれてしまうか、それ以上の金額が入りそうだなと、私は他人事ながら、計算してしまいました。

そのうち、話は徐々に別の方向に向かい、そのやけどと保険の話はいつの間にか別の話になっていました。
保険が下りて、本人は喜んでいるようですが、それにしても旅館では何の謝罪もなかったのかなと思いました。
私が知り合いなら、話に割って入って聞いてみたかったのですが、黙って二人の会話を聞いていました。

保険に加入していたので、保険が下りるのは当然だと思いますが、旅館の人がどうこうしたという話はありませんでした。
他人事ですが、何となく変な感じがしました。

私も、去年、学生時代の友達と日帰りバスツアーをしましたが、その時も保険に加入しました。
日帰りなので５００円でしたが、他の友達二人も加入に同意してくれました。
あの時は、同じバスに乗っていた人の、１割弱くらいの人しか保険には入っていなかったように思います。
私たちは特に何もなく、保険を使うことはありませんでしたが、こんな話を聞いたら、やはり旅行保険は入っていたほうが良いなと思いました。